続いた。
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続いた。
茅原春。通称「青薔薇の君」と呼ばれ、薔薇寮の寮長そして生徒会会長を務める、云わば星華学園女子部の代表である。
品行方正で、成績も学年で常に一位。加えて、誰もが息を飲む美しい容貌。非の打ちどころのない完璧な彼女に憧れる生徒は多く、しかし誰よりも近寄り難い高嶺の花である。
「では、花候補選出について……前回の続きだね」
手元の資料を捲り、春はふと目を細めた。
「今回の枠は六人。五人は既に決定しているから、あと残るは一人。立候補者は二人」
「順当に行くなら、薔薇寮の木下さんじゃないか? 成績は悪くないし、家柄もまあまあ、何よりまだ蕾だ」
「蕾という点に置いては、うちのまーちゃんもなんだけど、成績がねぇ、イマイチだからねぇ」
「笠井さんの場合、家柄は申し分ないのですが……その」
「地味だし、決定力に欠ける?」
「いえ、そういう訳では……!」
「花候補を決めるのは大事なことだし、私にそう遠慮する必要もないよ」
「ですが……」
「確かに妹は可愛いけど、それとこれとは別の話でしょ?」
春には、妹がいる。名前は、笠井真緒。血の繋がらない、義理の妹である。春が中学生のときに遠い親戚であり、本家である真緒の両親に引き取られ、それ以来二人は姉妹として育てられた。
真緒の家である笠井家は、それはそれは由緒正しい血筋の貴族であり、身分としては申し分ない。真緒本人の器量も、春のような華やかさはなくとも十分に愛らしい顔立ちをしている。何より蕾――処女であり、「花」としては過不足ないようにも思える。
しかし、いまいち存在感が希薄であり、教師の覚えも悪いため評価も低い。また、あくまで学業との両立が必須となる「花」において、真緒の学業成績は些かの不安材料となっている。
対して、同じく花候補である木下という生徒は、成績は良、家柄も十分、また真緒と同じく蕾。となれば、有利なのは木下である。
「では、会長は木下さんを推すということで良いのかい?」
そう千彰が発言すると、皆の視線が春に集まる。春が首を縦に振れば、それが決定で良いという意思の表れである。ただ一人を除いては。
聖だけは春の意味深な微笑みの理由を汲み取り、故に諦観したような瞳を向けていた。
「そうだね、今回は木下さん……と言いたいところだけど……」
「けど?」
「残念ながら、木下さんは辞退することになりました」
春の言葉に、聖以外の生徒会の面々は意表を突かれ、それぞれ驚きを隠せずにいた。
「会長、それは本当なのかい?」
「えぇ、ちゃんと本人から申し出があったから。ねぇ、聖?」
「はい。今朝、確かに」
話を振られたことで、春に向いていた視線が今度は聖に集中する。それに聖は何でもないように、澄ました顔で答える。自分から視線がなくなり、それをいいことに殊更楽しそうに笑う春を、聖は表情に出さずとも恨めしく思った。
「でも、どうして急に?」
ふと、紫央が春に視線を戻す。すると、春は素早くまた元の微笑みを浮かべた。
「実は、彼女、蕾じゃなかったようで……。それで、嘘を吐いてこのまま花になると、萩の方にも失礼だし、学園の信用問題にもなるからって、嘘を吐き続けることが心苦しくなって、今回は辞退すると言ってたよ」
顔の前で両手指を絡めて、春は神妙な面持ちをする。
「私は申請し直しても構わないと言ったんだけど、本人がどうしてもと言うから仕方なく……。とても残念だけど、また次の選出のときに期待してるよ」
いかにも残念そうな、いくらか大袈裟過ぎる春の言葉を真正面に受け取っていいものか、生徒会の面々は内心疑ってはみるが、彼女がそう簡単に本心を覗かせるわけがない。
例え、「辞退するように仕向けた」としても、それを判断する材料がないのでは、追求することも出来ない。
「まぁ、本人がそう言ったなら仕方がないね」
「これで、自動的に笠井さんが候補ということになりますわ」
「こっちとしてはそれで万々歳だよ」
「異存はないです」
故に、彼女達は春の描いたシナリオに沿うしかないのだ。
春は一人一人の顔を順繰りに見て、ニコリと笑う。誰もが見惚れる、しかし有無を言わせない笑みを持って、彼女は薄い唇を開いて耳触りの良い声で宣言した
「では、笠井真緒さんを今回の花候補に決定します」
誕生日 | 1月18日 |
血液型 | O型 |