スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

犬みたいなホントの話

例えば、ちょっと姿が見えただけ、とか。自慢じゃないが、うねる黒髪が視界に入っただけだとか、後ろ姿が俺だったりする。

親しい仲ならば名前を呼び合うかもしれない。

さぁそれが【犬】だったなら、どうしよう。


「兵助!」
「おお、八左衛も」
「へ―すけぇぇえ!!」
「ぐふぉっ」


たまったもんじゃない。


「おいハチ、いきなり飛び付いてくるのはやめろ」
「兵助の匂い…」
「聞けよ」


ばかハチ。
と、変態くさい彼との間に腕を突っ張り、隙間をあける。
ベリッと音がしそうなほどくっついていたハチはその口を尖らせた。

歩き始めた俺に今度は後ろから抱きつかれる。


「兵助」
「なに」
「すき」
「うん」
「あ―っ!兵助が足りねぇええ!」
「はいはい」


まぁ彼のこういった発言は慣れている。
構わずすたすたと歩くと、おとなしくついてくるそれはまさに犬のようだ。さしずめ散歩か。
ハチが信頼する野犬のカンロクも、こんな感じだとふと思った。


ハチの匂い、ハチの姿、ハチの髪の毛、ハチの声。


「やっぱり犬だなぁ」
「え、なに、なんか言ったか兵助」
「お前のこと」
「耳掃除怠るのはよくねえな」
「必死だなおい」


どこからともなく耳掻きをだしてきた彼をとりあえず止めて、隣に並ぶハチにそっと擦り寄る、今日の夕暮れ。


犬みたいなホントの話。


(兵助は猫みたいだ、)


終わり
前の記事へ 次の記事へ