あるところに、
わたしがいて
あなたがいました。


ある日、
嘘つきな人が
嘘をつきすぎて
口が裂けてしまいました。

正直者のあなたは
正直者の口をあげました。

でも
嘘つきが正直者の口で
生きる事はできませんでした。

口をなくしたあなたは、
嘘つきのために
声にならない声で歌い
泣いてばかりのわたしに
キスをくれました。





ある日、
手癖の悪い人が
手を切り落とされてしまいました。

善意のあるあなたは
善意の手をあげました。

でも
手癖が悪い人が善意の手で
生きる事はできませんでした。

手を失ったあなたは
手癖の悪い人のために
足で花を摘み捧げ
不安で押しつぶされそうなわたしを
抱きしめてくれました。





ある日、
逃げ足の早い人が
足を折り曲げられてしまいました。

立ち向かうあなたは
立ち向かう足をあげました。

でも
逃げ足の早い人が立ち向かう足で
生き延びる事はできませんでした。

足を失ったあなたは
逃げ足の早かった人のために
転がって死に顔を看取り
黙って出て行ったわたしを
迎えにきてくれました。





ある日、
わたしのくすんだ心が
砕け散ってしまいました。
わたしは人ではなくなりました。

清らかなあなたは
清らかな心をくれました。

でも
わたしはくすんだ心でしか
生きられない人です。

心を失ったあなたは
それでも微笑みながら
わたしに刃を渡しました。
そして、





ぼくをころして
こころにくすみをつけて





でも
清らかな心をもらったわたしには
あなたに刃を突きつけることが
できませんでした。

わたしは自分の体に
刃を刺して死にました。





心を失ったあなたは
ただ、ただ、微笑んで
わたしのそばで静かに
眠りにつきました。