「マスター遅いです」
「ごめんねメイコ。待たせたわね」
日も暮れて夜を迎えようという頃、私とメイコは浴衣に身を包んで出かけていく。
今日はお祭りということで一緒に打ち上げ花火を見に行こうと私達は見晴らしのいい近くの丘の上の公園へ歩き出す。
ミクとルカは出店の方に向かっており、私とメイコは二人きりで手を繋ぎながら歩いていた。
一応、ミクとルカにも私達のいる場所は教えているので、後で一緒に花火を見ることになっている。
「マスター、花火が始まるまでちょうどいい神社を見つけたので、そこに行きませんか?」
出店と公園の場所が離れているせいか、周りの喧騒が遠ざかっている。
こんな中、メイコが腕を組んできてこんなことを言ってきたので、なにが『ちょうどいい』のか聞かずに、迷わずメイコの額に手刀を降り下ろす。
「たまにはマスターもノってくれてもいいじゃないですか…」
額を押さえて、目に涙を浮かべながら、メイコは私を睨み付けてきた。
それには取り合わず、私は一息つくとメイコを横目でじっと見やる。
「何言ってるのよ。ノってきたらメイコは問答無用で押し倒してくるじゃない」
「…う」
やっぱり図星のようで、メイコは少しだけたじろいてしまっていた。
「ち、違いますよ!」
それでも素直に認めるのは堪えるみたいで、首をぶんぶんと振って否定してくる。
「へぇ、それじゃ押し倒す以外に何があるのか教えてほしいわね」
なんとなく悪戯心が湧いてきて、意地の悪い笑みを浮かべるとメイコにずいっと顔を寄せていく。
メイコは顔を真っ赤にして慌てふためいていたけれど、やがて唇を尖らせて私の腕にのの字を書いて拗ねてしまった。
「…今日のマスターは意地悪です。別に膝枕をしてもらうとかあるじゃないですか」
メイコは組んだ腕にのの字を書きながら上目遣いで見つめてくる。
ああ、なんか言い過ぎてしまったみたいだ。
「ごめんね。ほら、これで機嫌直して」
公園に着いてから一緒に飲もうと思っていたビールを一缶取り出すと、メイコは表情を変えてビールを受け取り、ごくごくと一気に、そして豪快にビールを一缶空けてしまう。
「ぷはぁ」と大きく息を吐くと、メイコは目を据わらせて睨んできた。
「別にこんなんで機嫌が直るわけじゃないですからね!」
「わかってるわよ。向こうに着いたら膝枕してあげるから、ね?」
この一言でようやく機嫌を直したらしく、メイコは表情を緩めると組み直した腕にギュッと力を込めてくる。
ころころと変わるメイコの表情が可愛く思えて、私は組んだ腕に寄りかかるようにメイコに身を預けて唇を綻ばせた。
「ほら、マスター着きましたよ」
気がつけば公園にたどり着いて、私達は見晴らしのいい場所を確保する。
まだ人影はまばらで、私とメイコはシートを敷くと寄り添うように腰を下ろしていた。
「メイコ、お疲れ」
「マスター、いただきます」
早速、私達はビールを開けて乾杯すると、夜空を見上げながら喉を潤していく。
花火が上がるにはまだ時間があるみたいで、私はメイコがビールの缶を空けたのを確認すると、私の膝の上にメイコの頭をそっと乗せた。
メイコも表情を緩めてそっと目を閉じていく。
「…マスター」
「何?」
「頭を撫でてください」
メイコの甘えるようなお願いに、私はクスクスと微笑むとそっとメイコの頭を撫でていく。
メイコの髪を手櫛で透き通しながら、気持ちよさそうに撫でられているメイコがとても可愛く思えてしまう。
「メイコの髪、さらさらと柔らかくて私は好きよ」
ビールを飲んだせいか、私の言葉に反応したせいかわからないけれど、メイコはうっすらと頬を染めていて、されるがままにされていた。
やがて花火が上がり始めて、私達は星空を見上げていく。
打ち上がっては儚く消えていく花火を見つめては、なんとなく胸に抱いているメイコへの感情が不思議と溢れてくる。
ふと、視線を感じて見下ろしてみると、メイコが私の顔をまじまじと見つめてきていた。
「どうしたのよ、メイコ?」
「ええと、その…。マスターの花火に照らされた表情が綺麗で見とれてました」
私は思わず目を丸くしてしまい、時間が経つにつれて、かあっと顔が火照っていくのを自覚してしまう。
私とメイコはしばらくの間見つめ合っていて、その間ずっと視線を反らすことはできなかった。
「マスター、遅れてしまいました!」
花火が中盤に差し掛かった頃に、ようやくミクとルカがやってきて、私達は慌ただしく離れてしまう。
「…お二人とも大丈夫ですか?
なんだか妙に顔が赤いですよ?」
ルカが心配そうに言ってきたので、私は慌てて手を振って応えていた。
「べ、別になんでもないわよ。ね、メイコ?」
「そ、そうですよ」
私達の様子に不思議そうにミクとルカは顔を見合わせていたけれど、花火が上がり出すと私の隣に陣取って空を見上げている。
私達もまた花火を見ようと星空を見上げると、メイコが私の手に自分の手を重ねてきた。
ふと隣を見やると、メイコが苦笑いを浮かべながら見つめてきている。
私はクスッと微笑むと、メイコの手を繋ぎ直してキュッと握り締めた。
花火の大きく響く音が妙に心地よく、私達はお互いに微笑み合っている。
夜空に彩られる花火が打ち終わるまで、私達はお互いの手の温もりを感じながら星空を見上げていた。
夏祭りといえば花火ということでかなり…
…いや、ものすごくいちゃいちゃした話ができました
前にメイコはマスターの膝枕で髪をいじられるのが好きというのを書きたかったりします