「マスター分が足りません」
「ルカさん分が足りません」
夕食も終わって、こたつでまったりとしていたところ、メイコとミクが突然こんなことをのたまってきた。
あまりに突然過ぎて、私とルカは目を丸くしたまま瞬きを繰り返してしまう。
「…あの、ミクさん?」
「メイコ、またミクに変なことを吹き込んだわけ?」
戸惑うルカと冷めた視線を投げかける私、私達の様子をものともせず、メイコとミクは胸を張って主張してきた。
「マスター、今日はこんなにも寒いんですよ?
こたつで寄り添って温め合うのは世界の常識だと思います!」
「そうです!足りないのはお互いの体温です!」
要するにこたつでいちゃいちゃしたいということらしい。
目を輝かせて見つめてくるメイコとミクに私は笑って身体をずらしていく。
「いいわよ。早く入ってきなさい」
『…えっ?』
私の返答にメイコはおろか、ミクとルカまで驚いた表情で固まって動かなくなってしまった。
…一体どういう意味なのだろう?
「どうしたんですかマスター!?」
「…まさか、あっさりと肯定するとは思っていませんでした」
ミクとルカは信じられないといった表情で多少困惑気味にしている。
…失礼な。
メイコも似たような表情をしているんだろうなとメイコの方を見やると姿形が消えていた。
「メイコ…?」
「呼びました?」
いきなり背後から声をかけられて振り返ると、ミクとルカの様子とはうってかわってとても上機嫌でメイコが私の隣に潜り込んでくる。
ぎゅっと触れ合うメイコの体温はとても温かかった。
「マスター、寒がりですもんね。今日は甘えられるかなって思ってましたけど、すんなり過ぎて驚きました」
どうやらミクとルカとは違った反応だったようで、胸の内からじんわりときてしまった。
それと同時にメイコの方が分かっているみたいでなんだか悔しい複雑な気分だ。
だから、いつもより深くメイコに身を預けていく。
「バカメイコ…、大好き」
「大好き」の部分は小声で、それこそメイコにしか聞こえないように呟いて、そっと視線を上げてみる。
「はい、わたしもマスターのこと大好きですよ」
いつもの子供のような無邪気な笑顔と違って、とても大人びた優しい笑顔でメイコは私の頭を撫でてきた。
私はメイコから目が離せなくなってしまい、刻が止まってしまったかのように動けないでいる。
ただ、胸の高鳴りだけが時間が過ぎていることを示していた。
「あー、マスターばかりずるいです!
ルカさんわたしも、わたしもお願いします!」
しかし、それもつかの間のこと。ミクの声に我に返ってルカの方を見やると、ミクがこたつの中から顔を出してルカに抱きついていた。
私達の雰囲気に当てられたのか、ミクはゴロゴロと猫のように甘えている。
最初はルカも多少困惑気味にしていたけれど、私達が際限なく寄り添っているのを見て安心したのかミクに好きなだけ甘えさせていた。
「ルカさん、マスターとメイコさんには絶対負けないようにしましょうね!」
何故だかこちらに妙な対抗意識を持って、ミクは張り切った口調で呼びかけている。
ルカもまたミクの意見に同調したのか、こちらを見据えて頷いてきた。
「…もちろんです。私達が深い愛で結ばれていることを教えてさしあげます」
そういえば、ルカがここにやって来た時も似たようなことになってしまったことを思い出す。
その時も確かやいのやいのと騒いでいた記憶が蘇ってきた。
もちろんこの場合、メイコが黙ってばかりいるはずもなくて。
「受けて立つわ!あれからさらにマリアナ海溝よりも深くなったわたしとマスターの愛を刻み込んであげるわ!」
メイコは完全にノリと勢いだけで宣言して、私の首に腕を回すと思い切り抱き締めてきた。
メイコの胸に顔を押し付けられて、息苦しさから手をバタつかせてしまう。
「メイコ、苦しい…」
なんとかもがいてメイコから脱け出したところ、バチッとメイコと目が合ってしまった。
目が合った瞬間、メイコはにんまりと勝ち誇ったような笑みを浮かべて、ミクとルカに見せつけるように私の腕に手を回してくる。
「ミク、ルカ、見なさい!わたしのマスターがどれだけ愛らしい存在か!」
そう言ってメイコはいきなり私の身体中をくすぐってきて、私は思わず身をよじってしまう。
くすぐったいのを我慢して、バランスを崩してしまったところをメイコに押し倒されてしまった。
私の視界からミクとルカの姿が消えて、メイコが覆い被さっている。
「メイコ、急に…」
「マスター、覚悟してくださいね」
「どうしたの?」と聞く前に、メイコがどんどん近づいてきて、私はメイコが何をしようとしているのか理解できた。
とりあえず逃れようとしたものの、腕を押され付けられて逃げ出すことは出来ない。
みるみるうちにメイコと唇が触れ合う距離で近づいて、私は思わず目を瞑ってしまった。
しかし、いつまで経ってもメイコと唇が触れ合うことはなく、おそるおそる目を開けると、メイコは優しい瞳でまじまじと見つめていた。
「駄目ですよ。わたしは嫌がっているマスターにキスしたくなんてありません」
「メイコ…」
そんなことを言われて、私は恥ずかしさで顔が真っ赤になるのを自覚してしまう。
私はそのままじっと見つめ合っていて、気が付けばゆっくりと瞳を閉じていた。
ほんの数秒だろうか、じっと待っているとふわっとしたメイコの唇の感触がして、私は力が抜けたようにメイコに身を委ねていく。
やがて、メイコから唇を放すと目を開けてゆっくりと起き上がっていった。
メイコを睨み付けると、悪戯っぽい笑顔で楽しそうにしている。
私は火照った顔をごまかすようにメイコの頬をつねっていった。
そんな中、ふとミクとルカが気になって見てみると、二人は揃って頬を紅潮させてこちらを見てきている。
こちらのやり取りはこたつで見えないはずなのに、二人は私を視界に収めると慌てたようにそっぽを向いてしまった。
「どう、わたし達の愛を思い知ったかしら!?」
「この、馬鹿メイコ!」
自信満々に胸を張っていくメイコの頬をさらに力を入れてつねっていき、私は慌てて二人にフォローを入れていく。
「二人ともあんまり気にしないでね?
この馬鹿には後でキツく言っておくから」
それでようやく落ち着いたのか、二人は視線を戻して隣り合って座っていく。
「メイコさん、すごかったですね」
「…はい、私達もあんなふうになれたらいいですね」
どこかしら尊敬の込められた眼差しで二人はメイコを見つめている。
未だに顔が紅くなっているあたり、相当刺激が強かったのは想像に難くない。
「いや、二人とも真似しなくていいからね?」
そうは言っても、二人は視線をちらちらと合わせていってお互いに気になっているようだ。
仕方なく、私はメイコの視界を塞いでちょっとだけ二人から目を離す。
どうやら二人は察してくれたようで、小声ながらも「ほっぺたでいいですか?」という声が聞こえてきた。
とりあえず、数分間待って二人に向き直ると恥ずかしそうにしながらも気は済んだようで、何事もなかったようにしている。
「まあ、とりあえずみかんでも食べましょ」
「そ、そうですね」
「…お茶を汲んできますね」
その場の雰囲気をごまかすようにそれぞれが動いて、またいつもの日常に戻そうと忙しく歩き回っていく。
こうなったのは寒さとこたつのせいと言い聞かせて、私はみかんを取り出していった。
とりあえず、爆発してくれませんか?
甘いお話を書こうと思ったのにどうしてこうなった
あと、少し時間が過ぎてしまいましたがルカさん誕生日おめです
今回の話ルカさん分は少ないけど