生存確認
 モ゛氷(dcst)
 2020/8/29 01:39

命を守る為に、なんて連日のニュースは言うけれど、そんなものは経済的に余裕のある人にしか届かない。手にしたリモコンはテレビ用のものだ。喧しい音を立てて風を起こす機械だけで、この部屋を何とか人の住める空間にしている。

「…エアコン買う…?」
「欲しければ君の財布からどうぞ」

手を伸ばして触れた肌は、見た目の冷たさに反して随分と熱を持っていた。そりゃそうだ。設置してある温度計は34という数字をこちらに向けている。一応室内だというのに、天気予報で聞いた最高気温と然程差がない数字に絶望する。
それでも、指先から伝わる温度に不満はない。転がったフローリングがなまぬるい事は、不快でしかなかったのに。

「こんな環境でしてたらそのうち死んじゃうよ」
「ならしなければいい。それだけですよ」
「それは無理」

露出した背中をぺたりとフローリングに付けた氷月は、覆い被さる俺なんかより余程不快だろう。それでも、頑なにエアコンの購入を渋る。

「…なら、我慢するしかないでしょう」

呆れた様な言葉と共に、ひとすじ、額から汗が流れる。
我慢するんだ。暑くて不快で、それでも、我慢出来る程には不満がない。この環境で俺とする事に。

「ん…、はぁ、っ!」
「……あっつ…」

気温も、吐息も、君のカラダの外も中も。あつくてあつくてたまらない。
今年もエアコンは買えない。貧乏人の夏は、我慢の夏だ。

c o m m e n t (0)



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