生存確認
 モズ氷(dcst)
 2021/2/17 03:11

しっかりしてる奴だから、道端で寝るとか吐くとか、そんな事をするとは思えないけど。それでも結構な量を飲んでいた様に見えたから、少し心配だった。それだけだ。
送って行ってやろうかと思ったんだ。確か互いの最寄り駅は隣の筈で、今日のメンバーの中じゃ俺が適任だったから。

「何でこっちなんですか。別に車検とかでもなかったでしょう」
「んー…、まぁいいじゃん。歩きよりよっぽどましでしょ」

いつもよりちょっとふわふわした、若干舌足らずな声が、誰かに向かって話し掛けてる。探し人の声だ。声の方を向くと、ガードレールの向こうに停まったバイクに跨がる、フルフェイスのヘルメットを被った男と話してた。
顔は見えないけど、あの服、飲み会にはいなかった奴だ。あんな派手な服、いたら忘れる訳がない。ヘルメットから、…ドレッド、っていうのか、編み込まれた長い髪がはみ出してる。
服も髪もバイクも、いかつい。体も大分がっちりしてる様に見える。…知り合いなんだよな。あんな如何にもガラ悪そうな奴と知り合いだなんて、意外にも程がある。

「寒いから嫌いなんですよ、バイク」
「そんな飛ばさないって。ほら、ちゃんとぎゅってして」
「…ん」
「んー。いいこ」

ドレッド野郎から渡されたヘルメットを慣れた手つきで被って、タンデムシートに座る。ぶつぶつと文句は言うが、いかつい体にぴったりと寄り添い、前身に腕を回して抱き着くその表情は、…なんか、こう、……。

「…あったかいです、モズ君」

バイクのエンジン音に掻き消されて、聞こえなければよかったのに。そう思ってしまうくらいに。酔いが理由のさっきまでなんかよりずっと、甘い甘い声だった。

ドレッド野郎が俺達の集団に向かって何か言った。聞きたくなかった氷月の声がずっと頭の中で繰り返し響いてて、何言ったのかは全然聞こえなかったけど、多分氷月連れて帰るねとかそういうのだったんろう。

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