「んじゃ、行ってきまーすっ」



心配そうに見つめる母親に
元気よく叫んで
ハルカは実家を後にした。



一ノ瀬ハルカ18歳



来月からは
希望と不安に満ちた
大学生活が待っている。



いや

今のハルカにとってみれば

息苦しかった田舎から
やっと抜け出せるという
解放感が全てなのだろうが。





ハルカは3姉妹の長女。


高校までの18年間
家や学校で
特に波風たてることもなく
過ごしてきた。


学校の成績だって悪くはない。

友達だって多い方だ。



ただ恋愛に関しては
周りの友達ですら
首をかしげる位何もなかった。


いや
ハルカがもてない訳ではない。


高校生活で
割りと人気のある男子を含め
数回告白されたこともある。



ハルカはその告白を全て断り
周りの友達を呆れさせていた。



「もったいないってー!」
「ハルカ、理想が高すぎるんよー」


大袈裟に悔しがる友達に

「そんなことないでー」

ハルカは八重歯を見せながら
苦笑いをする。


そんな苦笑いでごまかした
高校生活がハルカの全てだった。



苦笑いで
過ごした18年間とも
これでサヨナラできる…



恋愛したくない訳じゃない
できなかっただけなんだ…

誰にも
言えなかっただけなんだ…


ハルカは
柔らかい上唇をキュッと噛み


春休みに入って
家族連れの多い新幹線の中で
モヤのかかった高校生活を
思い出していた。