「誕生日おめでとうー!」
今日は休みが取れたから新ちゃん久しぶりに出かけにいきましょう、大丈夫銀さんにはちゃんとお休みの連絡をしておいたからと姉上に言われデパートや自然公園を見てまわったその最後に向かったのはスナックお登勢。朝からおこった余りにも都合のよい展開に期待と不安を胸に抱き勢いよく開けた戸からは。盛大なクラッカー音と共に個性派が揃って一つの科白を述べたのだった。
夕方から始まった新八の誕生日会はいつのまにかただの名目となって酒、食事の飲み放題、食べ放題とどんちゃん騒ぎに化してゆく。それを見ながら相変わらずだなと一人新八は苦笑した。メンバーはお登勢、キャサリン、たま。長谷川、桂、エリザベス。姉の妙、九兵衛。そして神楽、定春、銀時だ。この曲者揃いじゃ無理もないかと思いながらでも自分の誕生日を祝ってくれたのには変わりはない。今年も変わらず皆と騒いで、笑って、泣いて、ばか騒ぎに巻き込まれて…こんな楽しい時を過ごせるなんてあの銀色に会うまでは全く考えられなかった。
そこでふと気づけばその銀色がいない。長谷川、桂と酒を飲み交わしていたものとすっかり思っていたのに。店の中を一巡しいないのを確認して上の階に探しにいこうと外にでる。するとキラリと上で光が視界に入り頭を上げれば探し人が屋根の上にいた。
一人杯を口に含む銀色の横顔は月の淡い光を浴びてひどく美しく感じる。改めて見惚れる自分に頬に熱が集まるのを感じるのを悟られまいと声をかけた。
「銀さん、何してんですか?」
「おー、主役がこんなとこに来ていいのかー?」
「アンタだって分かってるでしょう。もうばか騒ぎになってますよ」
いつもなら我先にと酒を一気に呷る銀時だが、いつになくその表情はまだほろ酔い程度だ。
「珍しいですね、銀さんがグデグデになってないなんて」
「誰がグデグデだよ、オメェー。酒は飲んでも飲まれるなだよ俺は」
「じゃあ、いつも午前様に帰宅するのを待って、玄関先で水飲ませて布団に投げ飛ばしてるのはなんでですかね」
「いや、それはだね新八君。俺は酒に飲まれてあげてるの、わかる?」
「そういうのを屁理屈って言うんですよ!わかるわけないでしょうが、そんなの!」
一つ大きなため息を吐く。やはりいつもと変わらないやりとりに先ほど見惚れてしまった自分を無かったことにして欲しいと願ってしまう。いや、…そんなところも含めてこの人を好きなのだけれども。とはいっても、今日は新八の誕生日という名目での宴会になってしまったわけだし今日くらいは別にお酒に飲まれてもいいわけで。
「長谷川さんも桂さんも久しぶりに揃って、しかもお登勢さんもお酒いっぱい出してくれてるのに飲んできたらどうですか?今日は別に文句言いませんよ」
銀時の左に座り、顔を覗き込みながら告げれば、ふいと視線をそらされてしまう。何か気にさわるようなことを言ったかと疑問に思うが、むしろ喜ぶようなことしか言ってない。
本当に銀時の様子がおかしい。未だ頭上に疑問符を浮かべる新八にあーとかうーとかいう声が聞こえてくる。また何か隠し事をしてるのかと思いあたり、まさかなけなしの貯金を黙ってパチンコの資金にでもあてたのだろうか。色々と浮かびあがる案が脳内を占めるが、結局推測でしかない。
「もうっ、どうしたんですかさっきから!銀さんおかしいですよ?またパチンコでお金すったんですか?それともだまってスペシャルパフェでも食べに行ったんですか!?怒らないから言ってください!」
「いや、新ちゃん、それ怒ってるから、激怒してるからね?」
「つべこべ言わずに言え」
にこりと姉譲りの笑顔で答えれば、ちげーんだよ!そんなんじゃないんだよと慌てて真っ青になって返答する銀時を見て、じゃあ、本当に何なのだと凄むとちらちらとこちらを見てはあー、うーの繰り返し。しかし、腹をくくったのか再度新八に向ける眼差しはひどく穏やかで優しい色を帯びていた。
「っ、銀さん?」
「はぁ…、これから言うことに笑うんじゃねーぞこのやろう。だから…そのな、」
がしがしと頭を掻いてまっすぐ新八の目を見すえる。
「今年は恋人同士になっただろ?だから、その…ちゃんとお前の誕生日を祝いたかったつーか…」
「えっ…」
「だー!だからっ!お前の父ちゃん母ちゃんにお前を産んでくれたことを感謝してたんだよ!」
一息に言い切った銀時の科白に反応できず、ゆっくり頭で数回繰り返してみる。正確に意味を理解した時には鼓動は早鐘のように打ち、心臓は甘く痺れ、頬は真っ赤に染まってしまった。
ふと銀時の方へ視線を向ければ、銀時もまた慣れない、しかもいい歳こいて似合わないことを言ったための恥ずかしさなのか耳まで真っ赤に染まっている。それを見て胸に込み上げて溢れてくる何か。その衝動のまま新八は目の前の恋人の広い胸の内に飛び込んだ。
「おわっ!?…新八?」
銀時はいきなり抱きついてきた新八に目を見開くが、なんなくその体を受け止める。そして背中へと腕を回し抱き込み、ゆっくりと祝いの言葉を述べた。
「誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとな」
耳元で優しく響く言葉に胸が震える。体の奥底から溢れてくる想いは止めどなく隅々までにわたり、さらにはこの身からこぼれてしまいそうになる。それほどこの銀時という男が愛しく、恋しい。
銀時と出会えたから今の自分が、今目の前に広がる世界がある。白黒にしか映らなかった自分の瞳に鮮やかな色彩を与えてくれた。だから、例えこの先に何があっても、この銀色の傍にいよう。幸せをくれた銀色に自分もまた銀時の幸せであれるために。
「ありがとう…ございます、銀さん」
ぎゅうとさらに抱き締める腕の強さで返事をする。そんな銀時の胸の鼓動を聞きながらそっと瞼をおろした。
……………
8/12 新八、お誕生日おめでとう!!
本当に久しぶりに文章を打ち、さらに初めて銀新噺を書きました!拙い…!
自己満足で申し訳ありませんが、新八本当に誕生日おめでとうー!!
大好きだよ!