変われるような気がした。
その気持ちだけで、
その気持ちを思い出すだけで。
──じゅうぶんだよ。
君の声は優しい。
陽が落ちたばかりの薄いグレーの空に浮かぶ、一番星。
受け継がれたバトンを胸に、迷い込んだ森の中。
おとぎ話の主人公のように帰り道を失くして、僕らはそれぞれ一人で行く。
切り取られた一つ一つの風景。
木々を抜ける風や、
静かに降りる夜の帳。
お気に入りのマグカップを二つと、
小瓶にコーヒー豆を詰め込んで。
素晴らしい景色と音楽。
でも、
(結局、何が言いたかったんだっけ?)
歩き疲れた頃、後ろに道は生まれている。
ため息ごと包まれて、夜。
何かを成し遂げたように見えて、ただ大きなものに動かされているだけ。
優しくされたぶんだけ優しくなって、また誰かに優しくしたくなって、そんな風に世界は回っていくと、思ってた。
溢れた想いを映し出す湖面。
静かに澄み渡る僕の森。
(この想い、この記憶を、君は何と呼んだんだっけ?)
不意に思い出した光景。
今にも壊れそうな、古ぼけた光景。
傷跡を撫でようとして触れた、
指先の、ほんの少しの弱い力が瓶に触れ、
夢は地面に散らばった。
──ごめんね。
よく聞こえなかった言葉の続きを、
聞き返すより早く、優しい声が耳を塞ぐ。
──そのバトンは受け取れない。君の旅は、ここで終わるよ。
立ち尽くした僕の背中を
涼しい夜の風が通り抜けてゆく。
切り取られた一つ一つの風景。
──さよなら。魂の旅は、ここで終わるよ。
バトン/コーヒー豆/僕の森