生きてきた時間の長さが長さだけに、「恋」という感情への興味が薄れていた少女。
出会ったときからの努力の甲斐あってか、今は以前よりも格別に、自分の囁く言葉に対して顔を赤くしたり背けたりしてくれるのがシュナイゼルには可愛くて仕方がない。
端から見ればこれをベタ惚れというのだろうかと考えて、苦笑すら滲んだ。
「スザク、そういえばお前の身体は成長するのか?長い間生きてきたと言ったが……」
人払いをした小さな庭園で、カップを揺らしながら問う。
紅茶独特の色がゆらゆらと視界で揺れた。
「やったことがないからわからないけど、意志で成長させることも可能ではあるかもしれない。ただ、一番確実なのは……」
「確実なのは?」
静かにカップを置き、やや躊躇ってスザクは口にした。
「……昔のように、ヒトに、戻ること」
それは、とシュナイゼルは口を噤む。
方法はわからないが、今までスザクが只人に戻ってはいない時点で難しいのではないだろうか。
眉を寄せたシュナイゼルにスザクは慌てて口を開く。
「そんなに深刻に考えなくても大丈夫だからっ!方法なら、ある」
「どんな?」
「ひとつは、神を殺すこと」
「……神」
コクリと頷く。V.V.やシャルルは違う目的で神殺しを狙っているようだけれど。
「でも、それは多分難しいから。僕の」
「私、だろう?いつの間に一人称まで変えてしまったんだか……」
「話の腰を折らないでよ、シュナイゼル。……私の呪いなら、根源は神根島に」
「神根島?」
聞き慣れない名前に首を傾げると、金色が波打つ。それを目で追うスザクはどこかぼんやりしたまま言った。
「式根島の近くにある。ゲンブに子がいないためにあそこに入れるのはもう私だけだが……」
「待った」
出会ったときの口調に戻りかけていたスザクの話を遮る。
流石に話についていくには予備知識がほしい。
「何故だ?枢木ゲンブに子がいないためにというのは」
「ああ……そうか、まだ言ってなかったっけ。私は確か、昔の枢木のひとりだったはずなんだ。神根島のその場に入れるのは、枢木の血をもつ者とギアスの力をもつ契約者が共に居るとき」
ゲンブの子という肩書きこそ偽りではあったものの、一応、枢木の人間というのは本当であったわけか。
シュナイゼルはやや驚く。
「だから……今はまだいい、けど、時が来たら一緒に神根島へ行ってほしいんだ」
愛らしい想い人に上目に見上げられて承諾しない男がどこに居ようか。
ふ、と微笑みを見せ、シュナイゼルは二も三もなく顎を引いて頷いた。
「もちろんだとも」
「ありがとう。今は、ゲンブの死でまだ六家があそこを時折監視しているはずだから……公務とかで行けたら、一番いいんだろうけど」
「早く成長できるようになってもらわなければ、ますます私はロリコンにされてしまうな」
見た目の年齢差は開いていくばかりだ。
スザクはプッと吹き出す。
「っ……そうだね」
目を細めて笑うスザクの髪に、蝶々がとまる。
スッと指を伸ばしてそれを追い払い、代わりにその髪に唇を寄せる。
「愛しているよ」
きょとん、と幼く見える大きな目がさらに丸くなる。
けれどすぐにふわりと笑顔が広がって、
「私も」
その言葉にシュナイゼルは彼女をぎゅううっと抱き締めた。
TO BE CONTINUED.