梅雨も明けたかと思われる七月の初頭、ポロリと母親がこぼした言葉にスザクは箸を動かす手を止めた。


「そういえば、もうすぐ誕生日ねえ」

「あ、うん…そういえばそうだね」


そんな会話を交わす間も、ゲンブはひとり黙々と箸を休めない。
だが見た目に似合わず娘を溺愛する性格をよく知る妻は、さり気なく彼が誕生日の話題に神経を巡らせていることに気付いていた。
クスリと笑う。


「今年も生徒会の皆がお祝いしてくれるの?」

「あ、ううん。今年はジノと──」


ハタ、とスザクが言葉を切った。
ついつい落としてしまった情報に、みるみるその頬が赤く染まっていく。


「っち、ちが、いや、あのね…っ!」

「ジノ君って、前に送ってくれた彼よね? 良さそうな子だったけど、やっぱりお付き合いしてるの?」

「お、お母さんっ」


ワクワクと身を乗り出す母親にスザクはワタワタと慌てるばかりで次第に目を回す。
いつの間にか、聞き耳をたてていたゲンブの手は完璧に止まっていた。



「あら、いいじゃない。お母さんあの子なら賛成よ?」


ニコニコと話す母親にスザクはガックリと肩を落とし、先ほどから黙ったままの父親をチラリと横目で盗み見る。
明らかに気にしている様子なのが丸わかりで、素直に白状すべきか誤魔化すか、どう話したものかと頭を抱えるのだった。