元気だよ!もう完治したんだけど、暇すぎるんよ…!ってな訳で記憶喪失ディーノさんと拾ったロマーリオのお話。大分ブランクがあります…!
【3.なんつーか、その、】
「海行かね?俺、何か思い出せそうかも…」
「いいが、冬だぞ?」
「無理心中かと思われるかもな」
涼しい顔して、誘ったつもり。
服は、ロマーリオから借りてる。
俺は、コートをもぞもぞと動かし、日曜の空いた電車で、手を繋ごうとして、諦めた。
だって、もしも俺が―…だってバレたら、ロマーリオの立場というものがあって、元に戻る日というか、厳密に云えば、俺は記憶喪失を装っているのだし。
「服、買いに行くついでに、海行くか」
「プリン食べたいなぁ」
「ん?ああ、海沿いにコンビニがあった筈…海か…」
なんか、嫌な記憶があるのかな?
少し曇った顔になる、ロマーリオに、俺は掛ける言葉が見つからないよ。
弱いのだと思う、でも、抱いてしまったのは、暖かな感情。
いつしか、暖かさではなく、この身を焼くものになってしまって、沈下活動に必死になる。
惹かれてはいけない。
それなのに、神様は何も禁止していない。
だから、いいだろう?
出来ない約束は嫌いだった。
電車に揺られ、海につく。
浜辺に座って、一緒にプリンを食べる。
同じものを食べている事が、まるで奇跡のようで、嬉しい。
「美味いか?」
「うん、ロマーリオは甘い物…好き?」
「ああ、酒も飲むが、甘いもんも好きだぞ」
「そっか」
会話が其処で途切れ、俺は、プリンの容器をゴミ箱に捨てた。
ロマーリオの事、全部知りたいんだ。
其れを云うには、臆病過ぎて、でも、その心に触れてしまうと、気さくなおっさんで、飾り気のないものの、さっぱりした性格をしている。
其れがどれだけ、俺の心を苛んでいるか、って知ってる?
まだ会って、二日目の俺には、そんな感情を持つ権利なんて無い。
恋をするのに、権利なんて無い。
遅すぎる事は、承知の上。
「海、冷たい?」
「ああ、冷たいな。寒くないか?」
「平気…。ロマーリオは…俺がどんな人間でも…」
「ん?」
「何でもない!」
マフラーをふわりと、掛けられる。
「寒いだろう?帰ろうか…?」
「待って…そのさ、ロマーリオ、俺がもしも…もしもさ、記憶が戻って、凄く嫌な人間になったとしたらさ、嫌いになる?」
「そうだなぁ…」
歩きながら、思慮に入ったのか、ロマーリオの手を掴んで、ポケットに一緒にツッコむ。
「どんなディーノでもいいさ。犯罪者だろうと、何でも、その…なんだろうな…この感情…」
「名前、教えてやろうか?恋、だな、其れ」
「其れは無いだろう。同性で歳も離れてるんだぞ?」
「でも、今、言い淀んだしさ」
ロマーリオったら、頬まで染めちゃってかわいーの。
四捨五入したら、四十になる癖に、初心で可愛い。
「待て、考えさせてくれ。お前の正体を知りたいんだ。何か、アテになるものは無いのか?」
「だからさ、知りたいって感情が湧いたら、それはもう、恋だな」
「…ディーノ?」
「俺も…お前が好きだから、分かるんだ」
「会って2日しかたってないのにか?」
「実は、俺とお前さ、一度だけ会った事あるんだけど、覚えてない?」
「…何処で?」
怖かった。
心の奥に引っかかった、魚の小骨の様だと思う。
「お前が勤めてる会社の、取締役社長」
「…え?じゃあ、あの坊っちゃんが…?」
ロマーリオは、記憶を辿っているのか、歩きながら、その正体に驚いているだろう。
俺と繋いだ、手もお別れ。
「じゃあな、ロマーリオ」
「ま、待って、ディーノ…」
「お前が知れた事で、益々好きになったよ。でも、もう駄目だ。俺は、お前の傍にいたら、お前をどうにかしようと思っちまう」
でも、最後に一度だけ、いや、最初かもしれないけど、キスしたい。
今頃、会社は大騒ぎだろう。
チクリ、とした髭が、ロマーリオとキスしているという感触なのだ、と思うと、胸がキュンとした。
どんなキスでも、この履歴だけは忘れられないだろう。
俺は、呆気にとられてるロマーリオを置いていく。
さようなら、俺の恋した人。
続きがあるというのならば、俺を酷い男だと罵って欲しい。
カラメル味のキスを、思い出していければ、俺は、それで満足だから。
続く!