ｼｮｰﾄｼｮｰﾄ

「ほんと、ロクデナシね」
双子の姉は、わたしに似ていない。
一卵性双生児とは名ばかりで、わたしの方にだけ、どっかに違う遺伝子が組み込まれてしまったに違いない。
そう、ロクデナシの遺伝子が。
だけど一応同じ血を受け継いだ妹のことを、何かにつけてロクデナシと罵る姉こそ、ロクデナシなのではないのか。
ああそれじゃあわたしたちはやはり同じ卵から生まれた不幸な子供なのだ。
何をするのにもわたしより頭一つ飛び抜けた姉が、飛び抜けていないのは実際の身長くらいのものだ。
わたしたちは一対。
思春期はアイデンティティを形成する大事な時期だと保健の授業で教わった。
劣等生でもいいじゃないか。
生まれたからには生きてやる。
生まれたからには生きてやる。

君の「愛してる」が遠ざかって……

一昨日の朝、見つけた傷跡は幻
昨日の昼、気付いた痛みが現実
君の「愛してる」を信じたことはないよ。
君はウソツキだから。
その声、吐息、耳を塞ぐことができないなら
せめて

明日の午後、見る筈の夢は理想
明後日の夜、感じる０度が現実
君の「愛してる」は僕を貶める。
だけど独りは嫌。
だから今日も聞かない振りくらいで妥協するから
お願い

今日の明け方、もし君の声が寂しげだったら
それは

わたしは天まで飛べないから
誰かの夢まできっと台無しにしてしまうわ。
雨上がりの雲は薄く広く
わたしは天まで飛べないから。
知らないことが多すぎた。
わたしにも、あなたにも。
それならいっそ降らしてしまおう
雨と星を、月の光を。
天までも。
いつかあなたは飛べるわ。
誰かの足跡と仲良くなって行くわ。
薄暗がりのわたしはただの涙虫。
だってわたしは天まで飛べないから。

確かそれは、僕がその人のことを、"ママ"から"お母さん"と呼び始めた頃のことで
それは僕にとって、少なくともその頃の僕にとっては一大事だったから
彼女がそれに気付かなかったことが
多分僕をそうさせた。
彼女は潔癖症でヒステリックだった。
だから当然「駄目よ」、そう言われることも分かっていた。
だけどその野良猫は、確かに僕を呼んでいたから。
"お母さん"が朝食に目玉焼きを皿に移して持ってくる。
子供はいい身分だと思う。
僕の足下に擦り寄ってくるこの猫には、何も与えられないのだから。
母はそれを見て、癇癪を起こした。
触るのも嫌だと言って、猫を蹴って払った。
だから僕はその日の夕刻、路地裏の猫の溜まり場で
無防備に僕に着いてくるその猫の、細い首を掴んで、
僕はついにその猫を、
僕だけのものにした。

もしもわたしが明日空へと旅立ったなら
あなたはどうかそれをすくって空へ埋めて下さい。
そしてあなたも追いかけてきたくなったら
ぜひいつでもいらして下さい。
丁重に送り返しましょう。
あなたの瞳が一つ、潰れる度に
わたしに羽根が生えていくわ。
いつか13枚目が生えたら最後の一つを奪って逃げるわ
わたしは自由になるの
14枚の羽根を貰ったわたしと、それを失ったあなたで
いつか見た夢は先に行ってしまったわ。
きっとそこでは春が来るより桜が散る方が早くて
途方もなくあなたは泣くしかないのよ。
だから、ね、わたし独りでいくの。