町外れにある、決して大きいとは言えないパン屋さん
従業員も4人と少なめでだけど、味は絶品と近所で評判のパン屋さん。

「はるちゃん!メロンパン、あんぱんを10ずつ追加!
愛生ちゃんはカツサンドとミックスサンドを15パックずつ追加ね!」

レジを打ちながら工房の方に向かって指示を出すのは
売り場担当の美菜ちゃん。


「マジンガー!?うわー、これは結構きついかも…」
「ほいほい、どんどん作ってくから出来たら持ってくねー」

眉を下げて、情けない声を出しながらパンの成型をしているのがはるちゃん
対照的に呑気に鼻歌を歌いながらサンドを作っているのが愛生ちゃん。

visage souriantのパンはこの2人が協力して作っているのです。
おじいちゃんがいた頃は、シンプルな菓子パンがメインだったんだけど
愛生ちゃんが入ってから、新商品も増えて
お客さんの数もぼちぼち増加中。

「美菜ちゃんはさー、人使いが荒いんだよー
しかも、愛生ちゃんには優しいのに私には何か冷たいし…」
「あーそれは多分、愛情の裏返しだよー
ほら、美菜ちゃんって素直じゃないじゃん?」
「愛情!?そうか…美菜子が私に…よっしゃ!!気合入れてパン作ってくる!
待ってろ美菜子!今持って行くぞー!」


はるちゃんは美菜ちゃんの事が大好きみたいで
美菜ちゃんが絡むと、ちょっと頑張りすぎちゃう事があります。

 

「ちょっと!!!10ずつって言ったでしょ!
何で30ずつ作ってるの!?」
「えっと…が、頑張りすぎちゃいました…はは…」
「全く、どうするのよ…」

今は18時を回ったところ
主婦や学生さんを狙うには、少し遅い。

「どうしたらいいんだろう…」

お店を継いだには継いだけど
経営に関しては、まだまだ素人。
いいアイディアも浮かばないし、機転もきかない…


「んー…じゃあさ、お店の前にワゴン出してパンのセットにして
売ろうか。普通に売るよりはちょっと損になるけど
元は取れるし、何よりパンが売れ残っちゃうより全然いいから、ね?」


ふわっとした笑みを浮かべ、2人に提案する愛生ちゃん

「愛生ちゃんナイス!それで行こう!はるちゃんも
このくらい気が利けばなぁ…」
「うっ…ほ、ほら!さっさと準備しようぜー!!」
「ちょ、ちょっとはるちゃん!押さないでよ!!」

美菜ちゃんの背中を押しながら、はるちゃんは売り場の方に
消えていった。

「あーやーひーちゃん」
「え、な、何?」
「あんまり、真剣に考えすぎると疲れちゃうよー?
ほら笑顔笑顔」

そう言って、背が低い私に目線を合わせて
頭を撫でてくれる愛生ちゃん。

「ごめんね…愛生ちゃん…」
「んー?」
「私…店長なのに頼りないし、みんなにいつも助けてもらって…」
「彩陽ちゃんは気にしすぎ。はるちゃんも美菜ちゃんも、私も
彩陽ちゃんが、毎日遅くまで一生懸命頑張ってるの知ってるよ?
だから、私達はそんな彩陽ちゃんとこのお店をやっていきたいの。」

いつものふわふわした感じは全く無くて
真剣な顔で見つめる愛生ちゃんに、胸がちょっとだけ苦しくなった。

(愛生ちゃんって、こんな顔するんだ…)

「愛生ちゃん、彩陽ちゃん!準備できたよー!!!」

売り場の方から嬉しそうなはるちゃんの声が聞こえる

「ほいほい、今行くよー」

その声にいつものように返事を返して
愛生ちゃんは、厨房を出て行った。