カレンダーを見て、絶句した。
日曜日やのに、学校とかありえへんやろ。
まあ明日振り替え休日になるみたいやけど、日曜は休みがええよな。
文句を垂れながら明日の準備をして、早く眠りについた。
日付を忘れて。
「美瑠〜、はい。」
「わぁありがとう!」
今日、バレンタインデーやった。
すっかり忘れてて、チョコも作り忘れた美瑠はみんなから受け取ってばかり。
今年は去年よりも貰ってる気がするなぁ。
でも、美瑠が貰いたいチョコは1つ。
「なぁなぁふぅちゃん。」
「……何ですか。」
「ふぅちゃんはチョコ、くれへんの?」
見もしていない教科書を無理矢理閉じて、ふぅちゃんの顔を覗き込む。
あれ。今、睨まれてる?
「美瑠さんのアホ!」
「え?ふぅちゃん!?」
あっちゃ〜…。
教室から出て行ってしまった、ふぅちゃんの後ろ姿を口を開きっぱなしで見送った。
みんなから貰ったチョコを鞄の中に入れ、ふぅちゃんの後を追う為、教室を出た。
何処行ったんやろ。
もうすぐ朝のHRが始まるのに。
屋上も行ったしトイレも捜した。
でも見つからへん。
「まあ…HR始まったら来るかな…。」
うーん…でも美瑠のせいやんな…。
やっぱ、チャイム鳴るまで捜そ。
さっきまでは歩いて捜してたけど、小走りで校舎を回る。
「ふぅちゃん、お待たせ。」
………ふぅちゃん?
何処かから、そう聞こえ。
声が聞こえる方へ近づく。
中庭に呼び出されたみたいで、ふぅちゃんは「大丈夫やで。」と返事をする。
大人しく、ジーッと二人のやり取りを見つめていると、呼び出した子がふぅちゃんに向けて何かを差し出す。
「これ、受け取ってくれへん?」
「…なに?これ。」
「チョコ。ふぅちゃんの為に作ってん。」
「え、ホンマに?嬉しい。ありがとぉ。」
何嬉しそうにしてんねん。
ふぅちゃんには美瑠が居るやろ。
今すぐにでも二人の間に乱入したい。
ギュッと拳を作った途端、「でもな。」とふぅちゃんが言う。
「わたし、好きな人が居る。」
「え…?」
「だから…気持ちは受け取れるんやけど、何も返せへん。…ごめんなさい。」
「そっか…。うん、分かった。チョコは食べてな?」
「うん。甘いの好きやから嬉しい。」
ふぅちゃんの前から女の子が立ち去って、美瑠はふぅちゃんに近づく。
箱を見つめてこちらに気付かないふぅちゃんを後ろから抱き締める。
「その好きな人って、誰?」
耳元でそう囁くと美瑠の腕から離れ、こっちを睨んで来る。
そんな顔したって、ふぅちゃんは可愛いだけや。
ほっぺを指でツンツンするとわざと頬に空気を溜めるふぅちゃん。
「盗み聞きなんて、趣味が悪いですね。」
「捜しててん。ふぅちゃんを。」
「ふーん。」
「ヤキモチ妬いたん?」
「…知らん。」
「かーわいっ。」
「…教室戻る。」
「待ってよ〜。美瑠も〜。」
頬を膨らますふぅちゃんの腕にしがみついて、二人で教室に入った。
休み時間の度に、ふぅちゃんの元へ行き。
「チョコはー?」って聞いても知らんぷりやし。
高校の授業参観はあんま見に来るご両親は居ない。
今日は午前授業の為、昼休みはなく、授業が終わればHRやって帰宅。
「ふぅちゃーん。一緒帰ろぉや。」
「うん。」
「え、ホンマに?」
「いっつも帰ってるやん。」
「まあそやけど。」
今日は拗ねてるから一緒帰ってくれないかと思ったから嬉しい。
でも手を繋ごうとしても繋がせてくれへん。
美瑠が拗ねたくなるわ。
ふーんだ。今日は家まで送ってあげへん。
「美瑠さん。」
「何。」
「へへへ。意地悪しました。」
「くれる気になったん?」
「美瑠さんがニヤニヤしてたからやろ〜。」
「そーやって美瑠のせいにして〜。」
ふぅちゃんが差し出してくれた箱を受け取り、早速開ける。
「食べてええ?」
「うん。」
「やった。いただきます。」
ふぅちゃんから貰ったチョコを口に入れる。
口の中に甘味が広がり、思わず笑顔になる幸せな味で。
「どう?」って聞いて来るふぅちゃんに美瑠は笑顔を浮かべたまま、ふぅちゃんの唇に向かって自分の唇を重ねた。
舌でふぅちゃんの口の中にチョコを入れ、そのチョコを舐める。
「ん、は…美瑠さんっ…!」
「ここ、外やったな。ふぅちゃんの家で続きする?」
「………家、入ります?」
「入る〜。」
ニヤニヤしたまま、ふぅちゃんから離れる。
「甘かったやろ?」
「甘々でした。」
まだ口の中に残るチョコの味。
あー、もっと食べたいなぁ。
ふぅちゃんの口の中で。
「あ、ふぅちゃん。」
「ん?」
「美瑠、お返しはふぅちゃんにしかあげへんから。」
「……へ?」
「ホワイトデー、楽しみにしててな?」
「…期待してますよ?」
「ふふっ。任しとき。」
アイスあげたら喜ぶやろな。
なんて、ズルい考えを持ってふぅちゃんの家の中に入れてもらい、今度はふぅちゃんからしてくれるのを、求めた。
さっきよりも甘いキスを。
……End