窓の外をジーッと眺める。
わたしと同年代の子達がわいわい騒ぎながら学校から帰って来たのを見て、羨ましいなぁって思う日々。
わたしは幼い頃からある病気のせいで陽の光を浴びることが出来ず、日中は家で過ごす生活をして来た。
その為、友達も居ない。
ずっと独りぼっちやった。
現在通ってる夜間の定時制の学校には、同年代の子が居ない。
それに、女の子も少なくて、学校でも独り。
何も楽しくない暮らしを17年間過ごして来た。
もう高校3年生で、わたしやって一度くらい友達と何処かへ出掛けたりしてみたいのに。
友達すら出来ない。
きっと、これからもそう。
わたしは病気持ち。
一生独りの人生を歩んで行くんだ。
日が暮れれば、自由時間。
学校への送迎はいつもママがしてくれる。
一度もめんどくさがらないママに、わたしはいつも感謝の気持ちと、申し訳無い気持ちを伝えても「楓子は悪くないんやから。」って。
学校が終わり、家に帰るとわたしはいつも散歩する。
活動出来る少ない時間を、使いたいから。
「ママ、散歩行って来るなー!」
「気ぃつけよ?」
「はーい!」
今日も散歩に行く。
一緒に散歩する相手が居れば楽しいんやろな。
わたしはひとりで歩いていると、通り掛かった公園から、歌声が聴こえた。
こんな時間に、誰やろう…。
その歌声に釣られるように、足を歌声の方へと進める。
いくつかの外灯に照らされ、ベンチに座りギターを抱え、歌ってる女の子がいた。
わたしより…年下に見えるけど…。
その子の歌声は、とっても優しい声で。
暫く聴き入ってると、顔を上げてわたしに気付いた。
弾くのを止め、わたしをジッと見つめて来る。
演奏の邪魔してもうたよな…。
「ご、ごめんなさい!」
慌てて、頭を下げて謝れば女の子は優しく笑いかけて空いてるベンチの隣をポンポン叩く。
「立ってないで、座ろ?おいで。」
声まで優しくて、わたしは頷いて少し離れて隣に座った。
「なぁ!今のどうやった!?」
「え…?」
急に質問をされ、わたしは驚いてしまった。
家族じゃない、先生じゃない人とこんな近い距離で話した事ないし、緊張してる。
思った事…素直に言えばええんかな…。
太ももの上で拳を作り、目をギュッて瞑りながら素直に答えた。
「とっても良かったです…。優しい声で聴き入ってしまいました…。あの、すみま、」
「嬉しい…。」
「…嬉しい?」
「めーっちゃ嬉しいで!!そんなん言われたの初めてや!」
良かった、喜んでくれた…。
ホッと安心してたら「あ、そや。」と口を開き、こんな事を聞いてきた。
「何でこんな遅い時間に居るん?何かあったら危ないやろ?」
「あ…散歩が日課なんです。そしたら歌声が聴こえて来て。」
「そっかぁ。散歩なぁ…こんな遅い時間に。」
「えと…何でここでギターを…?」
普通の女の子が、こんな時間に散歩してるのはおかしいみたいで。
表情を曇らせてたけど、わたしも質問を返した。
「バイトしながらシンガーソングライター目指してん。ちょっと前にこの近くのアパートに引っ越して来たんやけど、アパートじゃ弾けへんやん?」
地元の人やないんや…。
毎日通る公園に歌声がしたのは今日が初めてやから、ほんとに最近なんやろな。
「どっかないかなぁ思てたら人が居ない場所見つけてん。自分で作った曲を練習しとった。」
へへっと笑う女の子。
何故かわたしは、この人に興味を持ってしまい。
「あの…散歩で公園通るんで…また、聴きに来ても良いですか…?」
「もちろん!いつでも来てや。」
ニッコリと、満面な笑みを浮かべたその子に、わたしも笑顔で返す。
「あっ!そろそろ帰らんと…、」
「せやなぁ。明日も学校やし、朝早いんやろ?」
「…はい…。」
「良かったら、名前教えてくれへん?」
こんだけお話したのに、自己紹介が後になってしまった。
わたしは立ち上がって「矢倉楓子です。高校3年生です、よろしくお願いします。」とお辞儀をする。
「わたし、白間美瑠!18歳で今年19歳!」
「え…年上…?」
「あ、そうやなぁ。」
うっそ、見えへん…。
幼い顔立ちの彼女はヘラッと笑う。
「ふぅちゃん。よろしくなぁ。」
初めて呼ばれたニックネーム。
つい、嬉しくなり、笑顔を浮かべながら「こちらこそ、よろしくお願いします。美瑠さん。」なんて返した。
また夜の公園で会う約束をして、この日は別れた。
今日は中々寝付けなかった。
美瑠さんの優しい歌声が、耳から離れなずにリピートされ続けていたから。
……End