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下#赤い糸















もう季節は春。
桜の花びらがヒラヒラと舞う。



「…1年…か。」


あの日から、明日で1年になる。
ふぅちゃんと、出会ってから。





頭の中で美瑠以外の誰かとふぅちゃんが歩く姿を浮かべるだけモヤモヤして、二度と会えないような気もして、もういっその事、このまま会わない方が良いなんて考えたりもする。


でも、そう考える度に胸が張り裂けそうになる。
痛む胸を押さえながら、ふぅちゃんの答えを待ち続ける。
どんな答えでも、受け止めるつもり。






「美瑠。」
「さや姉?」



入学式が終わり、学校の門を出ようとすると、さや姉が美瑠を呼ぶ。
待ってたみたいで、「ん。」と渡して来たのは手紙…えーっと…。



「ラブレター?」
「ちゃうわ!ええから、はよ見ろ。」



さや姉は照れ屋やなぁ〜てボケを言おうとしたのに。
急かすさや姉の前で、手紙の裏側を見る。



"矢倉楓子"


そう書かれていた名前に、顔を上げてさや姉を見る。
何で、ふぅちゃんから…。
見ただけでさや姉は分かったみたいで、少し話しづらそうやけど、話してくれた。



「実はな、あたしの友達の…元カノやねん。」
「………。」




その友達は…"里香さん"



「ふぅちゃんが美瑠と知り合いって知らんかったわ。門出ようとしたら美瑠さんに渡してくれませんか言われてん。急ぎやったから、今日渡そう思て待っとった。」
「ありがとう…さや姉…。」
「おー。ほな。」


手をヒラヒラ振り、さや姉の背中を見送り、美瑠は反対方面へ向かって歩く。
ドキドキしながら、手紙を開いてみた。






『美瑠さんへ

あなたに手紙を書くのは初めてですね。
月日が経ち、あなたはもうわたしを忘れてたりするかな。

たくさん、悩みました。
自分はどうしたいか。
その答えが出るのに、時間がかかってしまって、ホントにごめんなさい。

やっと、わたしの答えが出ました。


こんなわたしと、会ってくれますか?
4日の17時、あの場所で待ってます。

矢倉楓子』





「ふ、ちゃん…っ、」



答えが出た。
と、いう事は…期待してええんかな…?

手紙に、水玉模様をつくる。
綺麗な文字が美瑠の涙で滲んでゆく。




「待ってたよ…ふぅちゃん…。」




涙を拭いて、明日になるのを待つ。
明日は土曜日。
偶然やな…丁度1年前と同じや。











ふぅちゃんの"答え"を聞きに、16時30分に家を出た。
あの時にも着てたパーカーを着て。



公園のベンチに座り、ふぅちゃんを待つ。
前よりも、殺風景になってしまった公園。
1年でこんなに変わってしまうんや。




「お待たせしました。」



声がして、顔を上げれば以前より痩せてしまってるふぅちゃん。
慌てて立ち上がり、その身体を抱き寄せた。
「美瑠さん。」と、小さな声で名前を呼んで、ゆっくり背中に手を回して来た。



「言うたやろ?美瑠はずっと待ってるって。」
「うっ…美、瑠さ…、」
「泣かないで、ふぅちゃん。」
「そんなん言われても…わたしっ…。」
「あー、もう!泣いたらアカン!」
「……痛いでふ。」



涙をうるうる溜めてるから、まずいと思って慌てて頬っぺたを強めに摘まんだ。
あ…ポロッと滴が溢れてもうた…。

泣いてほしくなかったんやけどなぁ…。


ふぅちゃんの頬っぺたから手を離す。
そこを少し赤くなってて、申し訳なくなった。



「痛い?」
「痛い。」



ジッと睨まれる…でも、全く怖ない。



「今日はな、ふぅちゃん、」
「1年ですね。」
「………え?」



ふぅちゃんは頬っぺたを押さえてた手で、いつの間にか美瑠の手を握っていた。
ニッコリ笑うその顔に頬を赤く染める。
可愛い。ホンマに可愛い。



「わたし達が出会って、今日で1年です。」
「…覚えてくれてたんや。」
「もちろん。…あの時は、嫌な思いの日やったけど、」




「今は大切な、特別な日やから。」




もう、アカン。




細い手首を引っ張り、思いっきり抱き締める。
肩に顎を乗せて、「好き。」を何度も連呼。
「わたしも。」と背中に回って来た手の温もりが伝わる。




しばらくは抱き合ったままで。
ジュースを買いに自動販売機へ向かう。
短い距離やけど、手を繋いで。


自動販売機も変わっとる。
何にしようかな〜なんて美瑠がジュースを選んでたらふぅちゃんが口を開く。



「あの時、パーカーを被せてくれたのが、美瑠さんやなかったら。」
「うんうん。」



相づちを打ちながらピッとボタンを押し、ジュースを拾う。



「…好きになってなかった。」



ゴンッ



コンクリートの地面に、缶ジュースを落とす。
それをふぅちゃんが拾い、ニッコリ笑いながら美瑠に差し出した。



「ありがとう、あの頃からずっと優しい美瑠さん。」
「べ、別に…優しないよ…。」
「ううん。わたし、美瑠さんに救われたから。」
「…ふぅちゃん。」
「うん?」



「な"ぎぞう"。」
「えぇっ!?」



せっかくの出会って1年記念日やのに。
結局は美瑠がボロボロ泣いてしまった。
でも、しゃーないよな。
これはふぅちゃんが泣かせに来たし、うん。


ふぅちゃんが渡そうとしてくれたハンカチ。
それは受け取らず、ふぅちゃんの身体を抱き締めて涙を拭いた。
「濡れる〜。」なんて文句も言わず、頭を撫でてくれる。



「美瑠の方が、よっぽど救われてんで。」



明るい未来と、楽しい生活をくれたふぅちゃんに。
ありがとうの気持ちと、好きの気持ちをたくさん込めて。


まだ、唇には出来ひんから。


さっき摘まんだ時に赤くなったままの頬っぺたにキスをした。










……End

上#赤い糸













二人ここで初めて会ったのは、2ヶ月前の今日やったね。
君はベンチに座り、一人肩を震わせ泣いてた。
通行人がチラチラ気にする中、見てみぬフリが出来なかった自分は、そんな君の横に座って、自分の着てたパーカーを頭に被せてあげた。
びくりと弾む君の体。
だけど、ボソッと静かに言ってくれたよね。




「ありがとうございますっ……。」




理由?そんなん聞かへんかった。
知りたい訳でも、知りたくない訳でもなかったから。
ただ泣いてる人をほおって置かれへん自分が取った勝手な行動やから、パーカーを「いらない。」と押し返されても何も言えへんかったのに。


素直にパーカーを被ったまま居てくれた。
涙が隠れ、美瑠が横に居るから通行人の目には入らなくなっていて。




「…ホントに、ありがとうございます……。」



泣き止んだ時、パーカーを手に持ち、初めて見る彼女の顔にドクンッと胸を打たれた。



___可愛い。




「これ…洗って返しますっ。」
「また、会うてくれんの?」
「…え?」
「君にまた会いたい。今度は、笑った君と。」



1週間後に会う約束をして、手を振ってバイバイをした。
また、会える。
その事が嬉しくて、スキップをしながら家に帰った。
いつもは寄らない道を、たまたま帰り道寄ることになったスーパーに行くために通った公園。
今日はついてるかも。


美瑠の、運命の人に出会えたんや。


そんな事を考えてたらスーパーに寄り忘れたっけ。







1週間後の、17時。
待ち合わせしたこの公園にやって来て、まだ居ない。
ベンチに座って、ソワソワしながら待ってると、足音が聞こえて来て。
足音の方を向くと、小走りでこっちに向かう彼女の姿。


見るだけで、パァッと晴れる美瑠の顔。
立ち上がって大きく手を振れば「すみません、遅くなって。」と謝る彼女に首を横に振って「全然待ってへんよ。」なんて言えばホッとした表情を浮かべる。



「あ…、でも待たせてしまったんで、ジュース奢ります!」


そう言った彼女が指差したのは、公園の少し先にある自動販売機。
「何が良いですか?」と聞かれ、美瑠はニッコリ笑って彼女の側に寄る。



「一緒行く。」


一緒に自動販売機へ向かい歩き出して。
前まで着いて、お金を入れて「好きなのどうぞ。」と言うてくれる彼女。
「ありがとう。」ってお礼を言い、缶コーヒーを押し、拾う。
彼女がお釣りを拾っている隙に、美瑠は自分の財布からお金を出して入れる。



「好きなの飲んでや。」
「え、いや…自分の分も自分で、」
「アカン。ええから、はよ。」
「ありがとうございます…。」



ペコッと頭を下げて、彼女が押したオレンジジュースを拾い、渡してあげて。
二人で再び公園のベンチに戻り、肩を並べて座る。



「あの、これホンマに…ありがとうございましたっ。」


紙袋を渡され、「ええよ。」と言い、缶コーヒーに口をつける。
そしたら横でボソッと言う。



「優しいですよね。」



優しいって、美瑠が?
ないないない、別に当たり前の事してるだけやし、美瑠が優しいんやったらもっと優しい人居るし…って、そぉやなくて。



「名前、教えてくれへん?自分は白間美瑠。美瑠でええよ。」
「じゃあ…、美瑠さんって呼びます。わたしは矢倉楓子です。」
「楓子ちゃんか…じゃあ、ふぅちゃんやな。」
「……はいっ。良く、言われます。」



気のせい、やろか。
一瞬彼女が…ふぅちゃんが悲しそうな顔を見せたのは。
いや、気のせいやない。
一瞬ちゃうもん、今もや。
ひきつった不器用な笑顔。
これが、ふぅちゃんが浮かべた初めての"笑顔"


でも、心から笑った顔やない。
無理して、笑ってる。
そんな笑顔や。



「美瑠、ふぅちゃんとまた会いたいねん。」
「わたしと、ですか…?」
「うん。友達になりたい。」



会いたいって思うのは、普通やろ?
まずは友達になりたいって思うのも、普通やろ?
ふぅちゃんは、美瑠が初めて惚れてしまった女の子やから。



「わたしなんかでええんなら…。わたしも、美瑠さんとお友達になりたいです。」
「良かった。こんな美瑠と。」
「美瑠さん…とっても良い人です。」
「あはっ、ありがとぉ。」



それから、毎週土曜日の17時には会う約束をしていて。
会った1ヶ月後には土曜日以外の水曜日にも会う約束をした。
いつも、公園でジュースを飲みながらか、アイスを食べながら話すだけやのに。


美瑠には幸せな時間で。
その日が来るのを毎日ソワソワして待っていた。





そんな日々が続き、こないだの水曜日。
ふぅちゃんの口から、聞いた事のない言葉を言われた。



「実はわたし…あの日、初めて美瑠さんに会った日…フラれたんです。3年付き合ってた…恋人に。」
「そ…、そぉやったや…。」



あまりにも衝撃的な事で。
自分を見失いそうになってしまった。
何かあったから泣いてたのは誰でも分かるけど、それが失恋やったなんて。


正直、ショックやった。

でもふぅちゃんはそんな美瑠の心を読めるはずもないまま、話を続ける。



「あの場所でフラれたんです。他に好きな人出来たからって…。わたし…ただ泣くことしか出来ひんかった…。里香さんの中で…わたしとの思い出は、すぐ消されるんやって分かったし…わたしは消せへんから…。」



その"里香さん"言うんが、ふぅちゃんの恋人やった人。


ポンッとふぅちゃんの背中に手を置く。
恋愛をした事のなくて、ましてや失恋なんて難しい事の相談も聞いてあげれんし、アドバイスも励ましの言葉も、ろくにかけてあげることが出来ない。
そんな自分に腹が立つ。



「こんな話で、すみません…。」
「……ううん。」
「美瑠さんには…話したかった。」
「…何で…?」
「友達、やからかな…大切な。」



"友達"か。

自分の手のひらを拳に変えた。
ギュッと握って、「今日は帰ろか。」と言い、無理矢理別れた自分にまた腹が立つ。


せやから、次会う土曜日は、明るく接しようと思って。
丁度美瑠とふぅちゃんが会った日の、2ヶ月記念日やから。
ふぅちゃんの大好きなアイスを食べようと思って、公園に行き。



「ふぅちゃん!」
「美瑠さん。」



ニコッと微笑みながら手を振るふぅちゃんに、頬を掻きながらこんな事を聞いてみた。



「今日、何の日か知ってる?」


覚えてるか分からない。
フラれてしまった2ヶ月後やから、そう言うかも知れん。
でも、ほんの僅かの期待をしていたら、ふぅちゃんは予想外の事を言うたんや。



「里香さんの…誕生日や…。」



美瑠の胸に酷く突き刺さる。
気まずそうな顔して、笑うふぅちゃん。


そう…そうやんな。
ふぅちゃんと、その里香さんが過ごして来た3年は、とても美瑠の2ヶ月なんかじゃ敵わへん。



でも…、それでもこんなに好きやのに…。




「な…、ふぅちゃん…。しばらく…会うの、止めよか…。」
「えっ…!?何で…何でですか!?」



腕をギュッと掴み、揺らされる体。
見てはいけないと思ってふぅちゃんの顔から目を逸らす。



「美瑠と会うと、思い出すやろ?この場所とか、会った日の出来事とか。」
「嫌です…嫌ですっ!」
「一生会うの止めよ言うてる訳やないで?」
「…っ……。」
「ふぅちゃんの心が、答え出すまで。それまで会わん方がええねん。」



今度は、美瑠が泣かせてる。
出会った頃と同じように、涙を流して。


パーカーを脱いで、ふぅちゃんに被せて頭を撫でた。



「その答えが明日でも、何年先でもええ。美瑠はずっとこの場所で待ってるから。」
「美瑠、さん…っ!」
「約束な。」



美瑠、ちゃんと笑えたかな?
ホンマは美瑠な、むっちゃ泣き虫やねんで。
ふぅちゃんは知らんよな。
でもむっちゃ泣き虫やねん。

涙で視界が滲む。
あぁ、もういっそ泣き叫んだろうかな。



パーカーを渡し、肌寒くなった体を擦り、肩を震わせ小さく泣いた。
こんなカッコ悪い自分なんて嫌いや。
自分から言うたくせに、いざお別れとなると、悲しくて切なくて。




これが、恋なんやな。





2人の赤い糸が、結ばれる日なんて来るんかな。
一方的な美瑠の糸が、絡まってる。
そんな糸でしかないよな。

きっと、これからも。
美瑠の糸が、ふぅちゃんの糸に絡まって邪魔をしてるのやったら、ほどいた方がええよな。







……End



下#支え












「んぅ…。」



目を覚ますと、見慣れない天井。
どうやらここは病院みたいで…そういえば昨日はいつもより多く摂取してしまった事を思い出し。

ふいに、右手の温もりに気付く。
視線を映すと自分の手を握り、ベッドに突っ伏して眠るふぅちゃんの姿が。
どうしてふぅちゃんがここに…なんて思ったけど、ふぅちゃんが助けてくれたんやと理解した。


どうして、ここまで自分を気にかけてくれるんやろ。



「…ふぅちゃんっ。」
「うん…?」


呼び掛けると、目を覚ますふぅちゃん。



「…み…るさん…。」
「……おはよ。」
「美瑠さんっ…。」
「わっ…、」



気まずくて、ぎこちない挨拶をするとふぅちゃんはボロボロ涙を溢し、美瑠にギュッと抱き着いて来た。

どうしたらええんかな…なんて戸惑いながらも、落ち着くまでは背中を擦り続けた。



落ち着いたのを確認して、ふぅちゃんの身体を優しく引き離せば怒った顔をして、「何やってるんですか!!」と怒鳴るふぅちゃん。
ビクッと体が弾むが、思う事がある。



美瑠の為に、ふぅちゃんは泣いたり、怒ったりしてくれてる。


心がジーンと温かくなる。



「ごめん…。」
「ホンマに心配したんやからっ…。」
「…ごめんなさい。実は、昨日…。」



話したら楽かなぁ思て。
ふぅちゃんに、昨日の出来事を話す。










バイトへ行こうとする前に、電話が掛かって来た。
登録してない番号で、誰やろと不安に思いながら電話に出ると。



『もしもし、美瑠。お母さんよ。』
「…ひっ…!」


すぐに電話を切り、荒くなった呼吸を整えようとする。
でもまたすぐ電話が鳴り、呼吸を整える時間さえも与えてはくれず。




「っ…うああ!」



携帯を床に叩き付け、壊した。
カバンの中から瓶を取り出し、錠剤を服用する。
足りない、足りない。もっと、もっと_____。



そんな事をしてる内に、意識がなくなっていた。




「…そうだったんですか…、お母さんが…。」
「……うん。なぁ、ふぅちゃん…。」
「なんですか…?」
「ずっとな、聞きたかった事があんねん。」
「聞きたかった事…?」



ギュッとベッドのシーツを握り締めて、顔を上げる。



「何で…美瑠にここまでしてくれるん?」


そう問いかけた。
ただのバイト仲間やのに。
ふぅちゃんは、みんなとは違う。

美瑠を気にかけてくれる。



また、泣き出すふぅちゃんに眉を下げる。
散々泣かせてしまったな…。



「やから…。」



ボソッと呟くふぅちゃん。
聞き取れへんくて、「ごめん。もう一回言うて?」と言ったら。



「好きやからに決まってるやないですか…!」
「………好き…?」



今まで言われて来た"好き"よりも。
一番心に刺さる"好き"


でも…、



「こんな薬にしか頼れへん美瑠なんかより…ふぅちゃんにはもっと良い人が居るで…。」
「そんなん、関係ないです。」
「……え?」



うつ向いていた顔を上げ、真っ直ぐに美瑠を見つめるふぅちゃんを見る。
涙を流しながらも、真剣にこっちを見てくれている。



「わたしは、どんな美瑠さんも好き。好きやから…これからは、薬に頼らなくても良いように、わたしが側で美瑠さんを支えます。」



ふぅちゃんの手がソッと美瑠の手の上に重なる。
そして、ギュッと握り締められた。



「わたしには…美瑠さんが必要です!」



それは、一番誰かに言ってほしかった言葉やった。

誰からも必要とされない人間なんやって、本気でそう思い続けて来て。
「美瑠は必要だよ。」なんて、言ってくれる人も居なかったから。
ホンマに自分が何で生きてるのか、何の為に生まれたのか意味がわからなくて。


でも、死ぬのは怖かったから。
ずっと死ねないでいた。


そんな美瑠を、必要としてくれてる…?
美瑠の為に、泣いて、怒って…必死になってくれる、ふぅちゃんが。



「うううっ…うああああっ…。」



心の中にストンと落ちたその言葉。
今、美瑠の目の前には、こんな美瑠でも好きでいてくれて、必要としてくれてる人が居る。


そんな人を…信じられないはずがない。



「ふ、ちゃん…美瑠…美瑠、」
「うん、うん…。」



一緒になって泣いてくれて。
美瑠の背中を擦ってくれるふぅちゃんを、信じたい。



「薬…止める…。」
「…美瑠さん…、約束…出来る?」
「うん…っ。約束…する。」




指と指を絡め合わせて、約束を交わした__。


















「「お疲れ様でしたー!」」
「気ぃつけてな〜。」



上がる挨拶をして、ふぅちゃんと一緒にお店を出る。
夜道に肩を並べて歩くのは前と変わらない、でも。


ギュッと握られる手の感触。
「えへへ。」と照れ臭そうに笑いながら美瑠の手を握るふぅちゃんに、思わず笑みが溢れる。

あれ以来、もう薬には手を出してない。
やってふぅちゃんが隣に居てくれるから。
どんな時も、ふぅちゃんが側に居てくれて。


美瑠は安心する。


正直、過去の影響でまだ人を愛すとか、人に愛されるとか分かってない。
だからふぅちゃんにはまだ、想いの答えを出せてないままやった。


でもな、ふぅちゃん。

美瑠はこのままずっと、ふぅちゃんと居たいって、思ってる。

こんなにも誰かとずっと居ないなんて、思った事、一度もないし。



「美瑠さん、バイバイ。」


こんなにも、バイバイが来るのが嫌なんて、思った事もない。



「明日もまた会える?」


そうふぅちゃんに問いかけたら、ふぅちゃんは笑顔で言うてくれる。



「当たり前やないですか。会いに行きます。」



ふぅちゃんが掛けてくれる言葉一つ一つが美瑠の心に響き渡って。



「み…美瑠さん…?」



思いっきり、ふぅちゃんを抱き締めた。



「いつもありがと。」



これからは、わたしから君へ。
命を救ってくれた恩返しと、美瑠の人生を変えてくれた恩返し。

2つの、幸せの恩返しをさせて下さい。







……End

中#支え












初めてのバイトで、ドキドキやった。
人見知りやし喋れるかなって。
そんな中、わたしの担当を引き受けてくれた白間美瑠さん。


明るくって、可愛くて。
バイト仲間やけど、友達みたいやった。



美瑠さんに惹かれるのに、時間はかからなかった。
性格も顔も良くて、惹かれない要素が何一つない。
彼氏や彼女が居てもおかしくない人やのに。
彼氏も彼女も居ないみたいで。
わたしにもチャンスがあるって。
もっと美瑠さんの事が知りたくて、家に上がらせてもらえることになった時。



美瑠さんの意外な一面が明らかになった。



薬物依存症。



思い返しても、それらしき事とか、思い当たる節とかない。
意外な事実を知ってしまい、ショックなのと同時に、止めさせようとわたしは決意した。






「美瑠さん、おはようございます。」
「おはよ…ふぅちゃん。」



昨日の今日やからか、気まずい顔をしながらも笑顔を浮かべる美瑠さん。
そんな美瑠さんが休憩室の机にカバンを置いたの見て、わたしは「失礼します。」と言い、美瑠さんのカバンの中を漁る。


「ちょっ、何すんねん!」
「美瑠さん…。」
「……。」



ポーチの下に隠されていた錠剤が入った瓶。
わたしはそれを美瑠さんに見せればわたしから奪い取って、更衣室へ入ってしまった。



「美瑠さん…止めてくださいよ…。」



わたしも着替える為に、更衣室へ入ると目をギョッとさせた。



「ビックリしたやろ?」



美瑠さんの体には複数の傷痕。
昔のモノやって分かってても、酷い数。
こんな傷、一体誰にっ…。



「両親にされてん。中学までずっとな。」
「そん、な…。」



美瑠さんはフッと笑いながら言う。



「美瑠は誰からも必要とされない人間やねん。」


"そんな事ない!"

わたしはそう言いたかったのに、更衣室をノックされ、社員の人が入って来たと同時、美瑠さんは服を着た。




わたしは、美瑠さんが必要。
美瑠さんが居ないなんて、そんなん嫌やのに。



わたしは美瑠さんに避けられる日々が続いて、「薬を止めてください。」とも「わたしには美瑠さんが必要です。」とも言い出せないでいた。



新人やったわたしももう仕事を覚え、美瑠さんと被らなくなったシフト。
寂しさを覚え、失敗も重なる。



『もー、何してんふぅちゃん。』



失敗しても、そう言いながら励ましてくれた美瑠さん。
もう、わたしの横に美瑠さんは居らん。
『しっかりせぇ!』って、当たり前やけど厳しく叱る社員さん。
頭を下げ、わたしは涙を我慢する。


美瑠さん…会いたい。




明日のシフトを見てみると、美瑠さんと被っていた。
やっと…やっと会えるっ。

わたしは嬉しくて涙が出そうやった。
明日こそ、ちゃんと言おう。



「あなたが必要です。」って。















「来おへん…。」



今まで欠勤も遅刻もしたことのないらしい、美瑠さんが。
無断欠勤なんて…ありえへん。

店長が電話しても繋がらないみたいで。
胸騒ぎを覚え、「すいません…早退させて下さい!」と頭を下げ、わたしは美瑠さんの家へ走った。







美瑠さんの住むアパートに着き、部屋のインターフォンを鳴らす。
何度鳴らしても反応もない。
玄関のドアをひねってみると、開いた。
ドア、開きっぱなしやったんや…。
「美瑠さん…?」と名前を呼びながら、恐る恐る中へ。




「美瑠さん…美瑠さん!?」



倒れている、美瑠さん。
床に散らばる瓶と錠剤を見て多量摂取したと分かり、わたしはパニックになりながらも救急車を呼び、来るまで必死に美瑠さんに呼び掛けた。



「失礼します!」


救急車が到着し、救急隊の人が駆けつけてくれた。
美瑠さんが救急車に乗せられ、わたしも同行する。
ずっと美瑠さんの手を握り、病院に着いて離された手の感触を忘れずに、わたしは自分の手を握った。




暫く待っていると看護師さんに肩を叩かれた。
顔を上げると、「一命は取り止めました。」
そう言われ、ホッと息を吐いて美瑠さんが眠る部屋へ入り、椅子に座ってまた手を握る。



「美瑠さん…。」



ホンマに良かった。
美瑠さんが生きてて、良かった。


安心したのか、暫くしてる内にわたしは眠りについていた。










……End

上#支え




















「みるるん、おはよー!」
「あっ、おはよー!」
「美瑠は今日も可愛いなぁ。ホンマ好き!」
「へへへー。ありがとうっ。」



朝からハイテンションはクラスメート。
合わせるのに、精一杯。
でもそれなりに笑顔で対応する。



こんなの、疲れる。



休み時間の度にトイレへ駆け込み、錠剤を口に入れて水で流す。



「はぁっ、はぁっ…!」



何が"好き"や。
思ってもない言葉をただ口に出して。
どうせ気に入られようとしてるだけやろ?


おさまり切れへん怒り。
自分の手首をジッと見つめ、噛み付いた。






愛情って、なんなん?



美瑠は愛情を知らない。




ずっと両親から虐待を受けて来た。
「あんた何かいらん!」
そう言われながらずっと。

両親から逃げるように、高校入学と同時にひとり暮らしを始めた。




"好き"って何。
そんな軽々しく口にする言葉なん?
"愛"って何。
両親愛し合って美瑠が生まれたんやないん?









ひとり暮らしをしてるからには、お金も必要で。
アルバイトをしている。
今日もまた、バイトの日で。
学校が終わってすぐ向かうバイト先。



「あー、白間さん。」
「店長。おはようございます。どうしたんですか?」
「今日から新人の子入る言うたよな?」
「え、そうでしたっけ…。」



あぁすっかり忘れとった。
確か担当にされたんやっけ…。
初めて受け持つ新人の子、どんな子やろ。

1時間後にやって来るみたいで、気になってその子が来るまでソワソワしてた。




「矢倉楓子です、よろしくお願いします。」


色が白くて可愛い子やな。
店長に「じゃ、頼んだで。」と言われ…美瑠が全てを教える事に。



「白間美瑠です。よろしくな?」
「はいっ。白間さん。」
「んー、美瑠でええよ?ふぅちゃんて呼ぶから!」
「分かりました。…美瑠さんっ。」



ニッコリ笑う彼女に美瑠も笑顔で返し。


こうして、ふぅちゃんと仕事をしていく内仲良くなって、たくさん話もするようになった。
シフトが被ってて嬉しいって言ってもらえるのは、美瑠も嬉しいけど。
何でそんなに嬉しそうにしてくれるかが分からない。

だって、バイトはバイトやん。



「あの、美瑠さん。」
「んー?」



お客さんが居なくなったお店。
ふぅちゃんが口を開く。



「今度、美瑠さんのお家に行っても良いですか?」
「美瑠ん家に?うん…別にええけど…。」
「やったぁ〜!」


ほら、また嬉しそうに笑うやん。
店長と話してる時と、全然ちゃうやんふぅちゃん。


そんな不思議な子、ふぅちゃんを家に招き入れる日がやって来て。
狭いアパートへ上げる。
「ひとり暮らし羨ましいです。」なんて言われ、胸にチクリと刺さる。



美瑠は家族と楽しく、暮らしたいのに。



「…飲み物、持ってくるな?」



キッチンへ向かいコップにジュースを注ぐ。
「お待たせ。」と言い、ふぅちゃんの元へ戻ると、手には美瑠が服用する薬。



「美瑠さん…こんなに薬…何で…?」
「………。」
「精神安定剤って…美瑠さん、まさか…。」



目を見開かせるふぅちゃんから薬を奪い取って、目の前で薬と水を飲み込んだ。



「っ…何してるんですか!!」
「薬物依存者やで?」
「……美瑠、さんが…。」



膝から崩れ落ち、ぺたんと座り込むふぅちゃん。



「………止めてください。」
「え…?」



顔を上げるふぅちゃんの目には、涙が溜まってる。
何で、何でそんな顔するん?



「もう止めてください、美瑠さんっ…。」



分かってる。分かってんねん。
ホンマは自分でも駄目な事やって。


でも、美瑠のぽっかり空いてる寂しさの穴を埋めてくれるのは。
この薬だけやから。



「…ごめんな。薬がないと…自分を保てへんねん…。」



涙をポロポロ流すふぅちゃんの肩に手を置いて「帰って。」と言葉をかければ、ふぅちゃんは素直に帰ってった。



「っ…はぁ、」


錠剤を手に取り、再び流し込む。
ゴクンと喉を伝い、自分の手首に噛み付いた。




「ふーっ、ふーっ、ふーっ…!」



自分を落ち着かせるために。
寂しさを紛らわすために。
止められない。止めるわけにいかないのに。



その日以来、ふぅちゃんから「止めてください。」と言われる日々が続いていた。
言われ続け、段々とイライラして来る。





「美瑠さ、」
「しつこい!…もう、関わらんといてや…。」



苛立ちが増し、八つ当たりをしてしまう。
でも、何でふぅちゃんはただのバイト仲間の美瑠に、こうまでしつこく薬を止めさせようとするんやろ。



やっぱりふぅちゃんは、不思議や。


手首につく歯形の上からまた噛み付いた。









……End