珍しく一緒に過ごす日曜の夜。
昼間試合で動き回ってきた俺とはことなり、土日休みの一つ年上の恋人は優雅に買い物を堪能してきたようだ。新品のブランドスーツを几帳面にクローゼットに締まっている。(俺が言うのも何だが、大手企業社員のコイツはかなり稼いでいるようだ。)
センスの良い家具が並んだリビングの、革張りのソファの左端に沈んだ水野は三上を振り向いていた顔をテレビ画面に戻した。
明日はオフなので三上の家に泊まりに来ていた。別に約束していたわけではないが、試合後そのまま家を訪れた水野に、彼も驚くことなく迎え入れた。
すっかり自分の特等席となっているその場所で深夜のサッカー番組を見ていた。
「ほんとサッカー馬鹿な、お前。」
「…あんただって一緒だろ。」
クローゼットの整頓が終わったらしい三上が自分の隣に腰かける。
Jリーグの試合ダイジェストが終わった番組は、先日の代表遠征の様子を映す。もちろん水野もいるし、三上の元チームメイトも多い。2人でサッカー番組を観ることはよくある事だが、何年経っても不思議な感覚だった。
「…コイツ相変わらず馬鹿だな。」
呆れた様に溜息を吐いた三上の視線の先には、藤代。番組から渡されたハンディカメラで遠征中の選手の様子をレポートしている。いつもの屈託のない笑顔で冗談を言ってる藤代は、ほんと昔から変わらない。
「なんだかんだ言って仲良いくせに…」
「んなわけねぇだろ…」
藤代の持ったハンディカメラはレポーター風に加わった若菜を映しながら、宿舎の中に進んでいく。あ、この先の映像って…
『日本代表得点王、藤村選手と日本代表一、モテる男水野選手でーす!』
『どーもーv』
カメラに向かってVサインの成樹と引きつった表情の水野。
ここ使われたんだ…。なんとも気恥ずかしい思いをしながらビールを啜った。
『ほんと仲良いよなー、2人。』
『まあ、付き合い長いから…』
『たつぼんが俺のこと好きでしゃーないもんなー?』
『何言ってんだ馬鹿!』
『出た!たつぼん呼び!』
和気藹々としたテレビ画面とは対照的に、どす黒いオーラが部屋中を取り巻いている気がして、水野は恐る恐る隣を見る。
特徴的な下がった目尻に反して釣り上がる太い眉。眉間に皺を寄せ目を細める三上。
「…お前、あの金髪と同室だったの?」
「…うん、まぁ…。」
「一週間ずっと?」
「…うん。」
「ふーん………。」
画面を見つめたまま淡々と話す三上。既に番組は海外の試合に切り替わっていた。
「だ、だって部屋割りは俺が決めたわけじゃないし…」
「アイツが直訴したかもしんねぇだろ!断れ馬鹿!」
「そんなわけな…」
「あの金髪はお前を変な目で見てるって昔から言ってるだろ!気付け!」
「だって友達だし、変なことなんて別に…」
「お前肩に手回されてたじゃねーか!」
「そんなの普通…藤代だってしてくるし、」
「バカ代とはわけが違うんだよ!」
どうも、三上と成樹は相容れないらしい。成樹が関わると三上は途端に不機嫌になる。
「…またヤキモチ。」
「そんなんじゃねぇよ、浮気者。」
「なっ、別にシゲとは何もないし!」
「どーだかな…」
疑心暗鬼な恋人を持つと苦労する。最初は三上の嫌味に泣きそうになりながら反論してしょっちゅう喧嘩していた水野だが、何年も付き合っていればこんな時の対処法もしっかり心得てしまう。自分も大人になったものだと、心の中で水野は笑った。
「…亮。」
その横顔を見つめ、身体を包むように腕を回す。滅多に呼ばない名前を呼ばれ、三上は少したじろいだ。気にせず耳元に顔を寄せ囁く。
「…俺には、亮だけだから…」
自分から言っておいて照れたように声を震わせる水野に満足したようだ。
「あぁ…。」
短く返事をして紅茶色の髪を引き寄せ口付けた。
(いつだってきみにはかなわないよ。)
end.