薦めてもらった本を読み、その感想を伝えると紺野はたいそう喜ぶ。

紺野は本の話と仕事の話を僕に聞いてもらうのが好きな様で、時々電話をしようと持ちかけてくる。市川は人の話を聞くのがうまいからついつい自分のことばかり話してしまう。といつも嬉しそうに言う。僕は受け身な性格であるからそうなるだけで別になんてことない、と、思いながら、紺野にそう言われることが嬉しい。ん、嬉しい?何を思っているんだ僕は、と、上がり気味だった声のトーンを元に戻しながら紺野の声を聞く。
紺野は自分の話が終わると必ず、市川はどんな一日だった?と聞くので、適当にのらりくらり過ごしている毎日は、紺野に話すためしっかりと形作られる。どんな時に自分は嬉しいのか、悲しいのか、悔しいのか、紺野に整理して貰っている様にも思う。
声のトーンは上がったら下がらなかった