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コーヒー奮闘(南国:イタリーと京都)

アラシヤマは書類に埋もれていた。燃やし尽くしてすぐに現場に駆け付けてやったらどんなにいいだろう。コーヒーとタバコのにおいが染み付いた部屋でアラシヤマはふて腐れていた。
「あーちゃん」
「兄はん」
書類の向こう側にいたのはロッドだった。アラシヤマはふて腐れるのをやめた。
「……なぁ、お前しばらく現場行ってないだろ」
ロッドはため息まじりに、哀れむように言った。
「う」
アラシヤマはたじろいだ。最後に現場に出たのは何年前だったか。それを思うと憂鬱になるのでなるべく考えないようにしていたのだが、どうやらロッドには見抜かれていたらしい。
「まあ、あーちゃんは現場生まれのマーカー育ちだしねぇ」
留守番ができない頃は特戦部隊と共に世界中の戦場を周り、修業と称して拷問と殺人を教えられ、士官学校を卒業後はほぼ最前線にいた。血のにおいと人の焼けるにおいがアラシヤマには当たり前だった。
しかし、今はこの有様だ。ガンマ団の方針が変わり、アラシヤマのような相手を殺してしまう可能性が高い能力者は後方に回された。コーヒーとタバコの臭いの中に閉じ込められたようなものだ。
「……現場行きたい」
アラシヤマはうめくように言った。人を思う存分燃やせればどれだけいいだろう。あの島でなくなったはずの尖ったものがアラシヤマの中でうごめきだす。
「俺らもそうさせてやりたいけどさ」
ロッドの手がアラシヤマの髪を撫でた。撫で回すうちにアラシヤマの中の尖ったものが少しずつコーティングされて丸くなっていく。子供の頃からの刷り込みだ。つくづくおそろしい。
「でも、あーちゃんは俺らより高給取りだから、コーヒー奮闘で書類と戦ってもらわないと」
「……孤軍奮闘?」
「そうとも言うね」
「そうとしか言いまへんえ」
アラシヤマはへにゃりと笑った。


ツイッターの軍人ネタ。書類とコーヒーで戦う軍人がいてもいいじゃない。

コントラバスレイン(朽木荘:茶雨+ギン)

雨が降っている。オフホワイトの傘と黒いコントラバスのケースを手に、ギンはビルに囲まれた薄暗い世界を歩いていた。

「あれ?」

純白の傘を持つ小柄で華奢な青年がギンの視界の端に写る。
(日本人やん)
傘と対になるような黒い髪にギンは見覚えがあった。

「……あ、市丸さん」

向こうも気づいたらしく、頭を下げた。彼の連れらしい体格の良い黒人も無表情でこちらを向くと、ぎこちなく頭を下げる。
日本人、もとい石田の真似をするそのつたない様子にギンはフランケンシュタインの怪物を思い出した。

「む、知り合いか」
「同じアパートの人だよ。一応紹介しとこう、市丸ギンさん。僕の上のフロアに住んでる。」
「どうも、市丸です」

ギンは愛想良く笑って頭を下げた。

「む……」

黒人はいぶかしげにギンを見た。ギンは笑顔を崩さない。
(まあ、違和感はあるわな)
雨の日に楽器を外で使うバカはそういない。湿気の類に敏感な弦楽器ならなおさらだ。つまり、ケースの中身は楽器ではない。それに彼は気づいてしまったのだ。
指摘するか否か。大量殺戮は避けたいなぁとギンはぼんやりと考えていた。

「いや、なんでもない」
「そう」

どうやら穏便に済ませられるようだ。ギンは胸を撫で下ろした。

「知り合いかい?」
「いや、俺もギターを弾くからつい気になってな」

石田もギンのコントラバスのケースに目をやる。しかし、石田はしまったと言わんばかりの表情をするとすぐに目線をケースから外した。

「……あ、彼は茶渡泰虎。僕と同じ大学で同級生です」

茶渡はぎこちなく一礼する。

「どうも、茶度泰虎です」
「市丸ギン、よろしゅうな」

ギンも彼に習って一礼をした。

「そういえば、日本人」
「だから日本人言うな」

石田の細眉が吊り上がる。しかしギンは無視して話を続けた。

「もし帰りやったらチャッピーのコップ買っといてくれへん? 赤いのがルキアちゃんの割ってもうたから」
「……なんで僕が」
「チップはずむって」

ギンは数枚のドル札を石田の手にねじこんだ。唖然とする石田に対し、ギンは相変わらず笑顔だ。

「ほな頼むで」

ギンは去っていく。この手の面倒事は人に押し付けるのに限る。ギンは鼻歌を歌いながら家路を急いだ。



ガンスリの武器入り楽器ケースっていいよね!あと茶雨が書きたかった。

連立できない世界にて(まどまぎ、まどほむ)

暁美ほむらが『暁美ほむら』であるために必要なのはたゆまぬ努力と揺るがぬ心だ。少なくともほむら自身はそう考えていた。

「…………」
「ここの方程式は普通に連立すればいけるんだっけ」
「ええ」

しかし、目の前で頭を抱える友人がその努力を怠っているとは思わない。努力するきっかけをくれたのは彼女だ。
おかげで彼女に勉強を教えられるようになった。努力の証である机に隠した何冊ものノートのことを少しだけほむらは思った。

「これで合ってるかな」
「……ええ」

ほむらはノートに目を通す。連立方程式は確かに合っていた。

「ここも同じ方法でいいんだよね」

まどかが指さした他の問題も全て連立方程式だ。何を使えばいいか理解している。飲み込みが早い。
こういう所は昔から変わらない。ほむらは心の中でため息をついた。

「ちょっとやってみるから後で答え合わせして」
「分かったわ、できたら言ってちょうだい」

ほむらは本棚にあったドイツ語の本に手に取った。
カリカリとシャープペンシルがノートの上を走る。
本の内容が頭に入らない。ほむらは顔をあげた。
まどかは何度も問題を見返しながら問題を解いている。検算をし、答えが当てはまれば少し笑う。当てはまらなければ少し眉間にしわを寄せて式を解きなおす。
『昔』を思い出す光景だ。解けなくて泣いて、分からない同士で悪戦苦闘し、結局巴マミに解き方を教わった。それは今もほむらの中にある。
(分かってしまうというのも寂しいものね)
無知が良いことだとは思わない。泣き虫で弱虫で甘ったれだった暁美ほむらに戻りたいとも思わない。しかし、まどかと共有できていた物がまた一つなくなっている。何度感じても慣れないものにほむらはため息をついた。

「なに、ほむらちゃん」

ため息で気付いたまどかが顔を上げた。

「……なんでもないわ」
「できたら言うね」

まどかはまたノートに視線を戻した。ほむらも本に視線を戻す。やはり内容は頭に入らなかった。
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