スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

甘党万歳(タイバニ:裁判官中心)

今日は朝から最悪だった。

「あ」

お気に入りのカップが割れた。急いで雑巾と新聞を探さなければ。

ぎゃあぎゃあ

「…………」

超高層ビルの最上階のはずなのに烏が飛んでいる。
(うるさい……)
炎で全て撃ち落としてやろうかと思ったが、朝っぱらから焼き鳥が降ってきたと事件にされるのはまっぴらごめんだ。
ユーリは憂鬱な気分で自宅を後にした。

「頼むよ、ペトロフ」
「はあ……」

やはりあれらは全て不幸の前兆だった。呆れ果てるユーリの手の中には一通の封筒があった。
事のあらましはこうだ。同僚が息子にお父さんはヒーローと友達なんだぞとついうっかり自慢してしまった。当然ながら子供は喜んだ。喜ぶだけなら良かったのだ。
(仕事とプライベートは本当に分けるべきだな)
子供は父親に証拠を見せてくれとねだったのだ。同僚は司法局に勤めてはいるが、ヒーロー管理には携わっていない。そこでユーリにお鉢が回ってきた。子供の手紙をヒーローに渡し、消印のついていない手紙をヒーローにもらってきてほしいと。

「頼むよ、ペトロフ!この通りだ!」

同僚は頭を下げる。そこまでやるなら自分でやればいい、ユーリは心の中で嘲笑う。だが、同僚にはそれなりに好印象を残しておかなければならない。万が一のために。
ユーリはわざとらしくため息をつくと、そっと微笑んだ。

「分かった、だが、今度埋め合わせ頼むよ」
「ああ、分かった」

ユーリは踵を返すと、手紙の宛名を見た。そこにはあまり綺麗ではない字でバーナビーへと書かれていた。

司法局からジャスティスタワーは近い。ユーリは徒歩でジャスティスタワーに向かっていた。

にゃあん

黒猫がユーリの目の前を横切る。
(縁起でもない)
ただでさえ憂鬱なのだ。短い道程なのにこれ以上憂鬱にさせてくれるな。淡いライム色の目でユーリは黒猫を睨みつけた。黒猫は逃げていく。
(猫ごときに本気になってどうする)
憂鬱が自己嫌悪に変わっていく。これでは午後まで持ちそうもない。
(早く終わらせよう)
ユーリは足を早めた。

長いエレベーターに乗り、ヒーローがたむろしているトレーニングルームにたどりついた。

「げ」
「あ」

ヒーロー達は案の定そこにいた。しかし、そこには八つに切り分けられたブルーベリーのタルトがあった。
(来るタイミングを間違えたな)
周りの空気が凍りついたのがユーリにも分かった。

「バーナビー・ブルックスJr.」

だが、このままではらちがあかない。タルトは見ないふりだ。甘いものは好きだが、耐えなければ。白い紙箱が視界の端に映る。そこに描かれていた金色のロゴはシュテルンビルト屈指の名店のものだ。
惹かれる物は多々ある。しかし、誘惑は断ち切らなければならない。さっさと手紙を渡して帰ろう。ユーリはバーナビーに向かっていく。しかし、ユーリの足は止まってしまった。

「食べます?」
「はい?」

半分に割られたタルト、そして、その先には脳天気な虎徹の笑顔があった。

「あー、いや、甘いもん苦手なら別にいいんすけど」

虎徹の目が泳いでいる。
(まったく、この人は)
ユーリの唇にわずかに笑みが浮かんだ。きっと今の虎徹の中には色々なものが渦巻いているのだ。その大半は年不相応に微笑ましいものだろう。今日はほだされてやるか、ユーリはアタッシュケースを下ろした。

「シロップ、垂れかけてますよ」

手が汚れるのも構わず、ユーリは虎徹から半分になったタルトをそっと受けとった。シロップが垂れかけていた側にすぐにかじりつくと、さくりとした歯ごたえと共にシロップの程よい甘さとブルーベリーの酸っぱさが疲れきった脳を癒す。

「管理官って甘党だったんすね」
「……ええ」
「おじさん」

バーナビーが虎徹の肩を掴んだ。

「ぐえ、何だよバニーちゃん」
「管理官は僕に用があって来たんですよ。おじさんと違って管理官も暇じゃないんですから」
「おめーもほとんど同じスケジュールじゃ」

虎徹がバーナビーの方を向いた。

「でも、ハンサムとアンタじゃ時間の使い方が違うじゃない」

ネイサンがバーナビーの尻馬に乗る。

「だよなあ、お前基本サボってるし」
「そうよねえバイソン」

ネイサンの手がアントニオの尻を撫で回す。アントニオの巨体が飛び上がった。それに気を良くしたネイサンが更にからかう。アントニオは顔を真っ赤にした。

「甘い!そして、うまい!」

キースはキースで相変わらずマイペースだ。イワンが食べながらそれを横目で見ている。

「うまい……でござる」

付け足された奇妙な語尾に反応したのは二人の少女だ。

「あれ、折り紙ってそんなキャラだったの?」
「僕も知らなかった」
「う……」

ひそひそ声で交わされるカリーナとパオリンの無邪気な発言にイワンはうちのめされている。ユーリは自然と目を細めていた。

「管理官、僕に用があったんじゃないですか」

バーナビーはバーナビーで、いつもの好青年然とした表情はどこへやら、無愛想さを丸出しにしてユーリに詰め寄る。
(……無粋というか、なんというか)
自分が粋を語るのもおかしな話だが、バーナビーはもう少し大人になるべきだ。少なくとも、ユーリの手の中には先程の四分の一程タルトが残っている。ユーリは一旦箱の中にタルトを戻し、中にあった紙ナプキンで手を拭く。そして、アタッシュケースから件の手紙を取り出した。

「同僚の子供から貴方へのファンレターです。書き終えたら直接私に。あ、お父さんからお手紙もらいましたと文頭に付けておいてください」

これなら疑い深そうな子供も満足するだろう。バーナビーが苦虫を噛んだような顔をしているのはこの際無視だ。

「いやあ、裁判官に一杯食わされたなバニー」
「だからバニーは止めてください」

二人はまたじゃれあいを始めた。ユーリは苦笑しながら箱の中に置いたタルトを取りに行った。タルトはまだ残っている。
安心したユーリはタルトを口にいれた。やはり甘いものはいい。ユーリは改めて舌鼓を打つ。甘さを噛み締めて、ゆっくりと飲み込んだ。

「今度は紅茶でも差し入れに来ましょうか」

見たところスポーツドリンクと水しかない。こうした時には紅茶があった方が良い。

「あら、いいわね!管理官の紅茶はハズレがないから嬉しいわ。ね、次は何がいい?」

ネイサンが体をくねらせてユーリに擦り寄る。

「んー、なら、今度は僕も甘いもの持ってくるよ。家族がお菓子たくさん送ってくれるから」
「私もなんか持ってこよっかな。今日みたいな高いのは無理だけど」
「せ、拙者もマンジュウを持ってくるでござる!」
「俺もスポンサーから何かもらってくるか」
「素晴らしい!そして素晴らしい!なら、私も何か作ってこよう!」

ヒーロー達は次々とお茶会の話を進めていく。しかし、それについていけない者達もいた。

「…………どうするよ、バニーちゃん」
「……おじさんこそ、ティーパーティ向けの物なんて用意できるんですか」

タイガー&バーナビーのコンビはすっかりおいてけぼりを喰らっていた。

「腹芸とか?」
「それじゃ飲み会の一発芸ですよ。……本場イギリスの紅茶に勝てると思うなよ、露助」

バーナビーはぶつぶつとイギリスの紅茶のブランドを呟き出す。もはや虎徹のことなど見ていない。

「それ、冗談だよな。嘘だと言ってよバニー!」

俺また賠償金増やされる、虎徹は半泣きになっている。しかし、バーナビーはユーリを睨みつけるばかりだった。
(聞こえてるぞ、そこのジョンブル)
もちろん、ユーリはバーナビーの敵意に気づいていた。

ロシアンティーに勝てると思うとは……タナトスの声を聞け!

ユーリは脳内で叫んだ。朝から感じていた憂鬱は甘いものとこの怒りですっかり吹っ飛んでいる。しかし、ユーリはそれに気づくことはなく、どうやって目の前のジョンブルをロシアンティーでぶちのめすか。そのことばかり考えていた。


ユーリ中心ヒーローオールキャラほのぼのなはずがどうしてこうなった。あとバーナビーはWASPだと私得。でもバーナビーはコーヒー派ぽいですが。露助はイワンの田舎野郎とかでも良かったけど、イワンいるし。洒落にならん。
前の記事へ 次の記事へ