「アレルヤ、アレルヤ」
「何ですか?」
「ちょっとこっち」
ニールは、ペンと本を片手に、おいでおいでとアレルヤに手招きをする。
アレルヤが近付いて行くと、ニールは木の柱に背中をつけてに真っ直ぐ立つようにと言った。
「何をするんですか?」
アレルヤは言われた通りにしながらニールに尋ねた。
「んー成長記録」
ニールはそう言いながら、アレルヤの頭の上に本を置く。
頭の上で、すっとペンが走る音がした。
何をしているんだろう、とアレルヤが思っていると、お疲れ、という言葉と一緒に頭の上から本を退かされた。
「何をしたんですか?」
ニールは、ついさっきまで、アレルヤの背にあった柱に、何かを書いている。
「あー。そういや、アレルヤ何才?」
「11ですけど」
「ふーん。11ねぇ……て、11っ?」
アレルヤの歳を聞くなり、ニールは驚いたように振り返った。嘘だろ、とか言いながらアレルヤをまじまじと見つめる。
「何か、問題でもありましたか?」
「いや、なんつーか、もう少し下かと思ってたからなー。そっか、11か」
ニールは俺の人をみる目もまだまだだな、とか一人頷くと、 立ったままのアレルヤの頭を、すれちがいざまに撫でながら大きくなれよ、と言った。
アレルヤが柱に近付くと、ちょうどアレルヤの背と同じくらいの高さに、インクが半乾きの黒い横線が引いてあった。そのさらに上の、ニールの背と同じくらいの部分にも、真新しい横線。
よく見てみると、線の近くには文字が書いてあった。下の線には『A,11』、上の線には『N,15』と。
「成長記録って、このことだったんだ」
柱の文字をなぞりながら、アレルヤは呟いた。
アレルヤの考えが正しいなら(おそらく、正しいが)、ニールは15歳。アレルヤと4歳違う。
「意外と、若い」
もう少し上だと思っていた、と内心呟きながら、アレルヤは手を延ばして『N,15』という文字をなぞった。
15歳に若い、というのもおかしいかもしれない。けで、人種とかを考慮に入れても、とにかく、ニールは15歳と言うには大人びていた。
彼に拾われてから、かれこれ一月はたっている。軟派そうな雰囲気をしているし、人を猫と呼ぶ言動から彼がアレルヤを拾ったのは、本当にただの気まぐれだと思っていた。
暫くしたら、一週間くらいたったら飽きて、すぐに追い出されると思っていた。
その予想に反し、二人の生活は続いている。
ニールは何かとアレルヤの世話を焼きたがり、アレルヤはアレルヤで、ニールに対する警戒心は、殆どと言うほど無くなっていた。慣れたと言うべきかもしれない。
時折、夜遅くにニールは外出するが、それ以外はずっと家にいて本を読むか、アレルヤを構い倒す。
「アレルヤー。飯」
家の台所から、ニールの声がした。この家は、古ぼけた、3DKの間取りだ。
アレルヤは、外に出たことがないので分からないが、多分、マンションとかの一室だと思う。
3DKといっても、部屋の殆んどは本で溢れていて、実質、使えるのは二人が寝るソファーのあるひと部屋と台所、トイレと風呂場のみ。
何故こんなに本があるのかとか、こんな本だらけな家にニールが住んでいるのかはわからない。
ただ、分かるのは、ニールが無類の本好きということぐらいだ。いつも、分厚い本を手にしている。
今、アレルヤがいるのは、普段は使っていない部屋だった。壁1面は、本の詰まった本棚。床にはさらにところ狭しと本が積み上げられている。
「わかりました」
アレルヤは、返事をすると、もう一度柱を見上げた。
二本の線の間には、頭一つと、拳一つ分程の差がある。
これが、彼と僕との身長差、違い、距離。
アレルヤは、頭一つと拳一つ分の長さを手を広げて確かめると、一つ息を吐き、足元の本に注意をしながら進み、部屋を出た。
……………………
説明くさい
全然周囲のこととか書いてないじゃん、と今更気付く
部屋が本で一杯なのは、管理人の趣味
むしろ、そんな部屋に住みたい