出張 つれづれなるままに の、高原 睦月様から、素敵な小説をいただいてしまいました!
まぁ、五年+藤内(&三年)と、いう、自分の欲望のために、ついついリクエストしてしまったんですが…。
予想よりはるかに上回り萌えさせていただきました!
追記からどうぞ!
食卓の情景
昼食の時間になって、藤内は珍しく一人で食堂を訪れていた。
数馬は委員会、ろ組の三人はいつも通り迷子、さっき発見の狼煙は上がったけど帰ってくるまでまだ時間はかかる。
ついでに孫兵は毒蛾だったか毒蛙だったかが繁殖期とかで飼育小屋に籠ったまま。
なので早く食事を済ませようと盆を手に食堂を見渡して、すぐ傍の空いてる席に近付いた。
「ここ、大丈夫ですか?」
「ん?いいよ」
隣に座っていた五年の先輩に律儀に確認するとどうぞと優しく答えてくれる。
確か五年の久々知先輩だっけ?と余り面識のない人上級生の存在に少し緊張しながら腰を下ろして「いただきます」と手を合わせると、自分の膳を覗き込む久々知の視線に気付いた。
「……?」
何か気になるものでもあるんだろうかと思いながら藤内も改めて自分の膳を見下ろす。何の変哲もないAランチで見れば大半が消えていたが久々知も同じものを頼んでいる。
特別大盛りにしてもらった記憶もないなと考えを巡らせ、そして藤内は彼が一心不乱に見つめている白くて四角いものの存在に気付いた。
「久々知先輩……これ、気になりますか?」
「いや全然!」
恐る恐る確認を取ってみると大げさなくらい力強く断言される。しかし視線はやはりそこから外れることはなく、藤内は必死に笑いを堪えながら小鉢の冷奴を差し出した。
「よろしければ、どうぞ」
「いや、本当に気にしないでくれ。それは君のだから」
その行動のすべてがほとんど無自覚なんだろう、それがなんだか微笑ましく思えて藤内は断りの言葉は聞かない振りをして、小鉢を久々知の膳に乗せた。
「僕さっき先輩からお饅頭いただいてあんまりお腹減ってないんです。お残ししたら怖いから食べてください」
「…………ありがとう」
恐縮しつつも嬉しそうな久々知の様子に再び笑みが零れる。そして食事を再開しようと箸を持ったところで、今度は向かい側と反対側の椅子が揃って引かれた。
「へーすけ、うららんから豆腐もらったのか?良かったなー」
「ゴメンね浦風君」
「お前ホント豆腐のこととなると見境ないのな。下級生から脅し取るなんて五年の風上にも置けないぞ」
口々に二人のことを囃しながら席に着いたのは久々知と良く行動を共にしている竹谷、不破、鉢屋の三人だった。
上級生たちにすっかり囲まれた状態になってしまい藤内はひとまず箸を置いて「こんにちは」と挨拶すれば再び三人が騒いだ。
「見ろ。こんな礼儀正しい子から豆腐を奪うなんてなんてひどい奴だお前は」
「脅してないし、奪ってない」
「あんまりからかうなよ鉢屋、浦風君が気を使ってくれてたのちゃんと見てただろ?そんな風に言ったら浦風君が困ってしまうよ」
「うららんは礼儀正しいよな。孫兵も前に褒めてたぞ」
「…………そのうららんって何ですか」
何処をどうすればいいのか見当もつかなかったが、とりあえず一番突っ込みたい部分だけを何とか藤内は突っ込む。竹谷は気にした素振りもなく豪快に食事を始めた。
「ほらうららん、とっとと食わないと飯が冷めるぞ」
「だからなんで僕がうららんなんですか」
「うららんって可愛いじゃないか。似合ってるぞ」
「……すっごく嬉しくないです」
さすがにうららんうららんと連呼されて藤内の愛想笑いも引きつる。その様子に気付いたのか、不破も口を挟んだ。
「竹谷、本人嫌がってる呼び名は控えないと可哀想だよ」
「可愛いと思うけどな」
「鉢屋も同調しない。浦風君がいくら可愛くたって男の子なんだからそう呼ぶのは失礼じゃないか」
「すいません、出来れば可愛いも否定してください」
「え?否定しなくちゃいけないの?でも事実は否定していいのかな……迷うな……」
「……迷わないでください」
いったいなんなんだと頭を抱えたい気分になるが、常日頃からトラブルに振り回されている身の上なので、気持ちを整理してまずは食事に専念することにする。
再び箸を取り上げたところで、膳の上におひたしの小鉢が一つ増えているのに気付いた。
「あれ?」
「……お礼」
鉢屋に豆腐のことでからかわれて口を閉ざしていた久々知がポツリと答える。気付けば彼の冷奴はすっかり姿を消していた。
「悪いです。こんなつもりじゃ」
「豆腐二つも食べたらお残ししちゃうじゃないか」
先ほど自分の使った言い訳を返されて思わず笑みが零れる。
「ありがとうございます。ではいただきます」
そうして、少し冷めてしまった昼食を口に運び出した藤内を、いつしか五年生たちは温かく見守っていた。
「数馬、何やってんだ?」
ようやく三之助と左門の捕獲を終えてへとへとになりながら食堂へとやってきた作兵衛は、なぜだか入り口の柱の影で手ぬぐいを噛み締めて中を伺っている級友の姿に思わず突っ込む。
「見てよ作ちゃん!僕の藤内があんな奴らに囲まれてっ」
「はぁ?」
何事かと食堂を覗き込めば、何故か五年の集団と親しげに食事を取るもう一人の級友の姿、あいつあんなに五年と仲良かったっけ?と作兵衛は首を傾げる。
「作兵衛、何で藤内はあんな奴らと一緒なんだ?」
「そう思うよね左門!あれじゃあ僕たちが近付けないじゃない!」
「僕は竹谷先輩がいるからご一緒出来るけどね」
「っていつの間に現れた孫兵」
ひょっこりを顔を出した孫兵に思わず突っ込みを入れつつ、このままこの二人を食堂に傾れ込ませていいものかと作兵衛は悩む。そして本来なら数馬以上に反応しそうな人物がやけに大人しい事にふと気付いた。
「三之助、藤内はただ飯を一緒に食ってるだけなんだから変なこと考えんじゃねーぞ……ってあれ?三之助は?」
「三之助ならさっき厠に行くって向こうに行ったぞ!」
「なぁにいぃぃ?!」
「作ちゃん煩い!藤内が何絡まれてるのか聞こえないじゃない!」
「それよりいい加減そこどいてくれないかな。早くご飯を食べて飼育小屋に戻りたいんだけど」
「………………お前らなぁ」
早く藤内が食事を終えて欲しいと、作兵衛は一人涙にくれた。