人間不信の僕のこころを、勝手に解そうとしないでほしい。
秋羽紅葉が、颯爽と俺の懐に潜り込む。
まるで猫のように、するんと自然に、だ。
誰かを頼るのも、誰かも信じるのも苦手な僕は、そんなプライベートゾーンに踏み込まれるのが嫌なはずなのに、どんなに引き離してもくっついてくるこの野郎。
紅葉は、名前に似合ったらオレンジのふわふわな髪の毛を僕の頬にぐりぐりと突きつけた。
それは鼻をかすって擽ったい。
でも、どうしてそこまでして僕の懐に入りたいのかはわからなかった。
「佐久浦は、どうしてそんなに独りなの?」
突然問われたその声に、よくも分からないひょんとした声がこぼれた。
独りのつもりはないし、独りになりたいわけでもない。
ただ、他人を信じることが怖くて、弱音を見せて頼るくらいなら1人で片付けたほうがマシだと、そう思うのだ。
だからそんなカンペキを求める僕に、次第に人もついてこなくなる。
いつの間にか、周りには誰も居なくなる。
いつもそうだった。
そんな感じで世界が終わる。
はずなのに。
「ねぇ、佐久浦のメアド教えてよ」
幾ら無視してもついてくる。
変に懐いてきた同級生の秋羽紅葉。
人懐っこい性格なのは知っていたが、いざそれが自分に降りかかるとなるとやはりかなりのしんどさを伴った。
こんなに長時間、誰かと居たことがない。
「俺、人間不信なんだ」
そんなことを言えば引いて、きっと居なくなるだろう。
そう思ったのに。
秋羽は笑ってこう言った。
「そうなんだ、よかった。僕は宇宙人でさ」
だから話が合うはずだ、なんて言われて、
はいそうですかと納得出来るわけもなく。
とはいえ思いもよらない発言に思わず笑みを零した。
ばれないように口元に手を添えてもバレるものはバレる。震える肩を抑えることは出来なかった。
「あ、本当なんだからな?」
「はいはい」
僕のこのクラスで、唯一会話できる存在は宇宙人。
これはこれでありなのかもしれないと、そう思った昼下がりなのだった。