「あーつーいー……」
照りつける太陽。
毛穴を塞いで、皮膚呼吸をも止めてしまうようなジメジメ感。
典型的な、高温多湿の日本の夏。
今日は最高35℃まで上がるらしい。
こんなクソ暑い日は扇風機の前で寝転がりながらアイスでも食べたい気分なのに……何が悲しくて、市中見回りに出にゃならんのだ。……まあ、仕事だからしょうがないんだけど。税金泥棒なんて言われちゃ適わないからね。
それにしても。
「暑い暑い暑いよー死んじゃうよー……あつ「うるっせえな!暑い暑い連呼すんじゃねえ!余計暑くなるだろうが!」
拳をわなわな震わせながら、土方さんが立ち上がる。
頭から湯気が出てるように見えるのは気のせいかしら。
そんなに怒らなくてもいいのに。
「暑い暑い言ったって暑いもんは暑いんですよ」
「だーから暑いって言うなっつっただろうがコラァ!」
「ああもう!暑苦しいですよ土方さん。この隊服並みに暑苦しいですよ」
「あァ!?誰のせいで俺がこんなに「だいたい何でこんな暑苦しいの着なきゃなんないんですか。通気性最悪だし、黒だから太陽光モロに吸収しちゃうし。夏服作ってもらいましょうよ」
「……テメェ、人の話を聞けよ」
私たち真選組の隊服には夏服、冬服なんてものはない。
一年を通して同じものを身につける。
冬ならまだしも、夏を乗り越えるには相当の気合いが必要。
「ったく、しょーがねえだろ。夏服作れって幕府に申請したって突っぱねられるだけだ。上着脱いで調節するしかねえよ。あるいは……」
「あるいは?」
「総悟が作った夏服でも着るこったな」
「ええ?あの中途半端にロックな奴ですか?上着の袖ちょん切っただけの」
「腕ごと持ってかれねえように気ぃつけろよ」
そりゃ土方さん限定でさァ、なんて沖田さん言いそうだなあと考えながら、近藤さんや山崎が着ていた沖田オリジナル夏服をぼんやりと思い出す。
「うわっ、ださっ!絶対無理!絶対イヤ!」
「じゃー我慢しろ」
その一言で片付けて、土方さんはお茶をすすった。
市中見回りの最中、どうにもこうにも暑いので少し休憩しようと駄々をこねてみたら意外にもすんなりと要求が通り(多分土方さんも休憩したかったんだと思う)、今は甘味処の長椅子に並んで腰掛け、二人で冷たいお茶をすすっている。
しかし、土方さんにはプラス団子だ。マヨネーズたっぷりの。
「お前は団子食わねえのか?」
「この暑さで食欲も何もあったもんじゃないですよ。早くも夏バテの予感がしてます」
「夏バテだァ?情けねえな。そんなことで真選組の隊士が務まるとでも思ってんのか」
土方さんの言う通り、体力勝負。体が資本の世界だ。
ぶっ倒れて使い物になりませんじゃ話にならない。
「分かってますけど……」
ぼやいて口をとがらすと、見るだけで吐き気をもよおしそうなマヨ団子が目の前に現れた。
「何です?これ」
「お前、朝から何も食ってねえだろ。少しでも腹に入れとかねえとまじでぶっ倒れんぞ」
「それを口に入れた瞬間ぶっ倒れそうなんですけど?」
ここの団子は私も好きだ。
甘辛いみたらしに、もちもちの団子。
くせになるほど美味しい。
団子そのものは美味しいんだ。
それにマヨネーズがプラスされたら一体どんな味になるんだ?
マヨネーズは何でも合うように作られているんだから(土方さん曰く)、素材が良ければ何とでもなる。云々かんぬん。
ああ、暑さで脳みそやられたのかもしれない。
いつもなら間髪入れずに、ふざけんなこのクソマヨラー!と跳ね除けてきたのに。
おかしいな。もしかしたら意外とイケちゃうんじゃないのマヨ団子、とか思っちゃってる自分がいるよ。
ヤバイ、多分本当に脳みそやられてるぞ私。
おもむろに、目の前にあるマヨ団子を土方さんから奪い取ると、そのまま口に放り込んだ。
土方さんが驚くのも無理はない。
口をあんぐり開けて、目を見開いたまま(ちなみに瞳孔も開ききったまま)(あ、それはいつものことか)固まっている。
もぐもぐもぐ
もぐもぐもぐ
土方さんが固唾を呑んで見守っているのが分かる。
マヨネーズ馬鹿にすんじゃねえコノヤロー!とか何とかいつも言ってるくせに、食べたら食べたでそんな心配そうな顔するのかい。
もぐもぐもぐ
もぐもぐもぐもぐ―――ゴクン、
「……あれ?」
ま、まさか、そんなことがあるはず、ないでしょ。
そんな、まさか。
「……何で」
「あァ?」
「何でェェェ!」
「!!!いきなりでけえ声出すなテメェ!」
「信じらんない!どうしよう土方さん!」
「だから何だってんだよ!」
「マヨ団子、が……」
「……んだよ、今更吐くんじゃねえぞ。吐いたら即切腹だ」
「おい、しい……」
そう、マヨ団子が美味しい。
美味しく感じちゃってる自分がいるんですけどォォォ!?
「お、お、おいしい!!?」
「おいコラ待て、何で微妙に疑問系!?」
信じられない。ありえない。
っていうか、ありえちゃいけないでしょ!
私いつからこんな味音痴になっちゃったんだろう。
「ようやくマヨネーズの魅力に気付きやがったか」
マヨライターで煙草に火を点けて、目を細める。僅かに笑みを浮かべる。
そんな土方さんに――ドキン―――心臓が跳ねた。
「俺の分もやるから食っとけ」
「………」
って、これ土方さんの食べかけじゃないですか!
「ぶっ倒れんじゃねえぞ」
ぽすん、と頭を叩かれる。
あ、ヤバイ。
顔が、顔が熱い。
「だっ、誰がぶっ倒れるってんですか!い、いいいただきます!」
きっと真っ赤になっているはずの顔を見られないように土方さんに背を向けて。
誤魔化すように慌ててマヨ団子を慌てて頬張った。
くく、と微かに笑い声が聞こえて、私はまた体温を上げる。
何もかも、みんな夏のせいだ。
暑いから、こんなにも暑いから、正常な判断が出来ないんだ。
マヨ団子を美味しく感じるのも、土方さんにドキドキしてしまうのも、きっとこの、うだるような暑さのせい。
――そして、その10分後。
あ、もしかしてさっきの土方さんと間接キス!?土方さんの食べかけ食べたってことは関節キスしちゃったってことだよね!?と、思い出したら顔から火が出て。土方さんに散々訝しがられたのだった。
fin.
いろいろすみません。しかもちょっと長い。
日常的な話を書いてみたかったので恋愛要素極めて低め。
こんなクソ暑い日にマヨ団子だけは食いたくねえなーと思ったのがここまで膨らみました。笑
なんだかんだで土方さんは面倒見がいいと思います。見てないようで見てる。
だからこそ、みんなから信頼されてる気がします。
鬼の副長も人の子です。笑
ちなみに私はマヨネーズ、ドントライクです。
土方スペシャルは邪道だと思う。笑
ここまで読んでいただきありがとうございました!