「行きましょうか、みなさん。
総員配置、1、2、3。
幻獣の数と規模を、算定してください。
出撃まで180秒」
という善行忠孝さん(5121司令)のセリフをスイッチに、PSソフト「高機動幻想 ガンパレードマーチ」プレイ中の実話をSSとして掲載。
セトミブが足りないと数年前から言っていた(のに、ずっと放置していた私の馬鹿)、幼馴染のTちゃんへ。
ほんと、このゲームのAIって、『悶えさせる』という意味で、優秀すぎてどうかしてるよね……。
アール・ハンドゥー・ガンパレード!!
(↑リタガンで善行さんがこう言ってた気がするんだけど……)
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夕日が地平線めがけて落下していく熊本、PM4:30。
「あぁ、こうしてデートの約束もしないまま週末が来るんですね……」
夜が更ける前にもう一度陳情しなければ、と、思いながら小隊隊長室へ向かう壬生屋未央。
明日はもう土曜日だというのに、なぜか朝から誰にも会わず、ハンガーに篭って仕事仕事。
自分の士魂号の調子はいい、というか非の打ち所もなく、手のつけようもないくらい完全無欠だ。
何しろ尊敬する上司にして大親友の原主任が、その美貌をくたびれさせてまで大幅に性能アップをしてくれたから。
じゃぁ、授業をサボってまでなにをしているのか。
その原因は、ふらりと二番機パイロットになった新井木にあった。
体力も気力も、運動力までもがどうにかなりそうな状態なのに、無謀にも最前線に立候補した。
あのままの状態で戦線に出たら……彼女は明らかに死ぬ。そりゃもう間違いなく。
「……誰も死なせたくありませんからね」
壬生屋未央、過ぎるほどの心配性。
その心配性が滅私奉公ともいえるほどに彼女を仕事に駆り立てていた……主に「二番機整備士」(注:実務レベル)として。
壬生屋未央(職業:士魂号一番機パイロット)、友(だと勝手に思っている。どうやら向こうはこちらを「政敵」だと思っているフシがあるが)の為なら慣れない仕事にも手を染めるほどの堅物。
それでも、その仕事づくめの毎日に、多少の疑問は抱いていた。
空から聞こえた、戯れの声に導かれるままに、若宮に告白したのが三月末。
二つ返事でOKされてみた。
しかしその日から、壬生屋未央の受難は始まった。
恋人であるところの『彼』と同じ空間にいようとすると、発言力が減っていく。
……『争奪戦』。
覚えていたくもないような台詞(時に行動)で、次から次へと若宮にケンカを吹っかける男達。
曰く、「…あー、不純異性交遊はいけませんね」
曰く、「…」(言ってない。)
『どっち!?』と詰め寄られるたびに吹き荒れる情念のブリザード。
仕方ないじゃないですか!と壬生屋は思う。
……提案、欲しいんですもの。
特に。
特によくケンカをふっかけているのはアノ人。
自称、お耳の恋人にして愛の狩人、メンター瀬戸口、その人だった。
「瀬戸口さん、私が告白をお断りしたことを根に持っていらっしゃるのかしら……」
壬生屋未央、仕事熱心なあまり、色恋沙汰に疎い部分がある。
瀬戸口の猛烈なアタックを、『必殺!鈍感』でやり過ごした挙句、二度にわたる告白を立て続けに断っていた。
でも、壬生屋だって瀬戸口を憎からず思っていた。
彼の真摯な部分をちゃんと判っていたし、彼が誠実であろうと『努力』している様子も知っていた。
朝に、昼に、壬生屋を見つけて駆け寄る瀬戸口。
少し照れたような顔で一生懸命自分だけを追いかけてくれた瀬戸口。
愛しい、と、思った。
でも、今は、駄目だ。
時代を考えて、自分の立場を考えて……。
Yesを口にした結果、戦うのが、死ぬのが怖くなることを恐れた。
なのに……先日、何故か、自分は若宮に告白していた。
なぜそんなことをしたのか、まったく、ちっとも判らない。
確かに若宮のことは嫌いではなかった。
むしろ、単純明快で素朴なところは好意的にも思っていた。
けれど……。
「……なんで若宮さんに告白しちゃったんでしょーねぇ?」
あの時。
ハンガー二階に何故か若宮が現れて、妖しげなサックスの音色とともにピンク色の雰囲気が漂い始めたのが悪かった。
それと同時に頭の中に響く声……あの声が「告白しろー」と脳髄直撃電波を送ってきていた。
「原因はアレ、ですよねぇ、やっぱり……」
すっかり落ち込んだ壬生屋未央。
気が付くと、隊長室裏の『同調の木』の前にがっくりと膝を付き、幹に頭から突っ込みながら愚痴をこぼしていた。
「あ、壬生屋じゃねーか」
『あきらめモード、ときどき泣き笑い』状態の壬生屋に無防備に近づいてきたのは滝川だった。
さすがは雰囲気の読めない男、滝川。
ほてほてと壬生屋に歩み寄り、衝撃情報をもたらした。
「なーなー、知ってる?最近瀬戸口師匠が、東原に告白したんだって!」
ぴしぃっ。
薄いガラスに、ヒビが入ったような音が、アタマの芯のあたりに響いた。
「いーよなぁ、せーしゅんだよなー、師匠といい壬生屋といい。オレもやっぱしこう、びしぃっ!と告白しなくちゃだよなー、うん!」
張子の虎の如く、首をカクカクと縦に振りながらひとり納得して歩み去って行く滝川。
「……そう、ですよね……」
後に残された壬生屋、超彗星級の喪失感が滲んでくる。
判っていた、若宮に告白したあの日から。
次の日には自分が告白したことは噂で広まっていて、それは瀬戸口の耳にも届いていただろう。
彼を振って。
それでも想っていて欲しいだなんて、なんて恥知らずなんだろう。
他の男性とお付き合いを始めて、それでも瀬戸口が気になるなんて、自分はなんてふしだらな女なんだろう。
なんだかもう、思い切り泣きたくなってきた。
すぐにでも、恋人に泣きついてしまいたい。
争奪戦さえなければ、若宮を探し出して、きっと縋り泣いただろう。
色恋沙汰に不器用な彼はきっと理由も聞かずに、ただただ困りながらも私を慰めてくれる……。
壬生屋未央、自暴自棄になりかけて、誠実さをどこかに放り投げかけていた。
「……陳情、済ませてしまわないと……」
過去最高に落ち込みながら、壬生屋は隊長室へと向かった。
隊長室の中には、めずらしく善行がいなかった。
あの人は一時間に一回、必ず厠に立つ。
そう、かならず、一時間に一回、なのだ。
その善行が厠に立ったのを見計らってか否か。
隊長室には、今最も会いたくない男性、瀬戸口がいた。
心が切なさに悲鳴を上げる。
しかし反面、もしかしたら断られたのでは、などと少し期待してしまう自分に、嫌気がさし始める壬生屋。
恐る恐る瀬戸口を見つめて……やっぱり、そこには『あって』しまった。
『ののみの手作り弁当』
やっぱり、二人は付き合い始めたのだ。
狂ったように笑い出したい衝動を必死に抑えて、瀬戸口を見ないようする。
そのまま一直線に通信機へと向かおうとしたその時。
「ああ、あのさ……」
話し掛けられた!
壬生屋の心臓が跳ね上がる。そのまま振り向くことも出来ない。
「あ……改まって……何のお話ですか…っっ……!」
受け答えも自然に固くなる。
今はまだ、笑えない。
おめでとうございます、なんて、口が裂けたって言えやしない。
もう、ダメだ。
今にも逃げ出したくなったその時。
「日曜日、どこかに遊びに行かない?」
「…………………………は?」
瀬戸口の、あんまりといえばあんまりの誘いに、壬生屋は呆れて開いた口を閉じることを忘れた。
恋人ができて、初めての日曜日だろうに。
東原さんは、きっとあなたとの始めての日曜日を楽しみにしているでしょうに!
なのに…なのに瀬戸口さん……!!
そんな壬生屋の心中を察したか、瀬戸口はニヤリと笑って壬生屋の耳元へ口を寄せた。
「これで、イーブンだろ?」
「!!!!」
瞬時に壬生屋の顔が真っ赤に染まる。
つまり、だ。
お互いに、立場は一緒だろう、と。
若宮に告白した壬生屋。
東原に告白した瀬戸口。
そう、同じ条件、同じリスク。
そのうえで、その禁忌を犯せ、と囁きかけているのだ、瀬戸口は。
「……なんて…破廉恥な…っ!!」
「そう?でもその破廉恥なこと、おまえさんだって望んでただろう?」
「!!!」
あんまりにも……あんまりだ!
瀬戸口のあまりにもストレートすぎる欲望に、壬生屋は怒りとも怯えともつかない震えが全身を支配しつつあることを自覚した。
……もしかしたらそれは、喜びだったのかもしれないが。
「俺の耳はおまえさんからの『Yes』をキャッチしてるんだが……勘違いかな?」
既に、勝敗はついていた。
瀬戸口の顔は「勝ち」を確信していた。
そして、壬生屋は自分の「負け」を悟っていた。
「……それじゃあ、日曜日9時に……」
差し出された小指に、ためらいがちに伸ばした自分の小指は、思いがけない力強さで絡めとられた。
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せっとみぶっっ♪せっとみぶっっ♪
これで日曜日に校門のとこにいても、
瀬 戸 口 来 な か っ た り す る ん だ よ ね 。
好感度を下げにかかるなんて、それなんて切ないAI?
若宮に告白するように壬生屋さんの頭の中で囁いたのは、ダメっこOVERS=私の声。
ほんとごめんなさい、このころ若宮熱が最高潮で。(隠れまっちょ好き)
Tちゃんお待たせ。ン年越しになってしまいましたが、ぷれぜんつです。
ほんとごめんなさい、元原稿が 紛 失 し て ま し た 。 (切腹)
善行さんって、1時間に一回、必ずトイレにいくよね?
いくよねっっ!?(←1stマーチで善行さんをストーキングしていた奴)