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せーしゅんだねぇ・2


私、桂木弥子は高校一年生。絶賛、女「ヤコ」子高生満喫中です!「ヤコ」

今日も今日とて、放課後に、友達の叶「ヤコ」絵と『まじくれいじぃ・クレープス』の全メ「……ヤコ……」ニュー制覇ツアーに出

「あいたたたたたぁぁぁぁ!!」
「ヤコ、呼ばれたら返事だろうが、このナメクジ」
「千切れる!両耳千切れるッッ!!」

教室内の女子がきゃっきゃ言い出したから気付いてたけど!
極力近寄ったり触ったりしたくないんだってば!


こいつ……この脳噛ネウロは、二つ年上の三年生。
成績優秀、品行方正、秀眉美麗……と言えば聞こえはいいが、とどのつまりは、悪賢く、外ヅラがよく、顔で騙すタイプのド悪魔。……そして、私が三歳の頃からの、腐れ縁。

コイツが颯爽と現れると、女子がさざめく、男子がざわめく、先生は惚れ惚れと見とれて、私の青春は踏みにじられる。文字通り。コイツに。

「貴様、放課後は優し〜〜〜〜ぃ我が輩が、数学の予習に付き合ってやる予定だろうが」

「頼んでないし!約束もしてないし!」

そう、いつもいつも、コイツは私の放課後を侵略しようと魔手を伸ばしてくるのだ。
なんたってコイツは……!

「貴様、奴隷の分際で主人の言うことが聞けないというのか?」

……これだ。


私がまだ、とてもとても小さかった頃、「わがはいはきさまのごしゅじんさまだ!」とか宣言されてこの方、コイツはいつも気付くと私の隣にいて、「ごしゅじんさま」を大義名分に私をいぢめ抜いた。
そのいぢめは年齢相応に変化してきて、いまではすっかり私を奴隷扱い……

「脳噛君……」


教室のドアから、控え目の、けどとても涼しい声がした。

「なんだ、アカネ」

声の方を振り向いたネウロは、クールな二枚目の顔になっている。
ヘンッだ、外ヅラ大魔人め、そのツラの皮剥がして北京ダックにしたらさぞかし旨かろうよ!じゅるり!

「……放課後の会議の議題について先生が呼んでるよ?」

彼女はネウロの同級生で、生徒会副会長のあかねさん……ぶっちゃけ苗字は知らない。
黒髪みつあみ色白美人で、成績はいつだってネウロとワンツーフィニッシュ。
控え目な性格ながら、あのネウロと対等に「付き合ってる」……という噂。
私があかねさんの苗字を知らないのは、ネウロが彼女を「アカネ」と呼び捨てにするからだ。
そんなネウロは生徒会の議長。
会長への立候補を勧められたらしいけど、それを頑なに断り続けて、仕方なく議長、ということになったらしい。
本人曰く、「目立つことは好まん」……もう充分じゃない……?


資料を手に寄り添う二人の姿はとても絵になっていて、クラスの女子の嫉妬とも憧れともつかない溜め息を生み出す。ついでに、クラスの男子の落胆の呻きも。

しかし私は……いつもいつも、願うのだ。
『あかねさん、どうか一刻も早くコイツのネジ曲がった本性に気付いて、性根を叩き直してやってください。そして私を、こいつの陰湿で悪質ないぢめから救って下さい……』と。


私の痛切な願いが通じたのか、あかねさんがこちらをちらり、と見た。目が合う。
すると、にっこり、と彼女は優しく私に微笑んでくれた。……うん、ほんと、なんでこんないい人が、ネウロの毒牙に掛からなきゃいけなかったんだろう……。
私はあかねさんに小さく会釈しながら、彼女のこの先の幸せを、心の中で祈

「あぃだぁぁぁあああがががかぁぁぁ!」
「貴様には大ッッッ変残念な話だが、我が輩5時まで会議がある。よって我が輩が迎えに来るまでにコレをやっておけ」

ばすん。

アタマに打ち付けられる紙の束。……どっから出しやがったコノヤロウ……。
痛みに目を白黒させながらも紙の束を受け取って、ぺらぺら数枚めくってみると、今度はアタマがクラクラまわるまわる……。

「親切にも我が輩の注釈付きだ、しっっっっっっっかりと、終わらせておくんだぞ?」
「終わるもんかド鬼畜ゥゥゥゥ!!!!!!」


ネウロはニヤリ、とドSな笑みを私に向けると、くるりと踵を返した。
あかねさんを促して教室を出て行く。
どうせもうクールなイケメンヅラになっているんだ、と思いつつ、この扱いの雲泥の差に、少しだけ落ち込まなくもない。
ぶっちゃけ、『色気のカケラもない』と友達に言われ続けている私だって、少しは、オンナノコ的に扱われることに憧れが、ある。
幼馴染の男の子に大事にされるような、そんなストーリーをマンガやドラマや小説で見かけるたびに、我が身を振り返って落ち込むのだ。


「案外『気付かぬは本人のみ』、ってもんよ?」

とは、友達の叶絵の言葉。
異論反論ありすぎてぶーぶー言う私に、大人びた叶絵は、「面白いモン見てます」みたいな顔をしながら私を諭す。

「物語の登場人物は、自分の立場を客観的に見られないんだよ。アンタは読者の目線でマンガ読むから登場人物の関係を客観視できんでしょ?他人が見りゃアンタだって、『イケメンの幼馴染と仲イイヒロイン』ってポジションかもよ?」

「ナイわぁ……」

このハナシになると落ち込みっぱなしの私を、でも叶絵は決して慰めてくれない。

「それにネウロにはあかねさんっていう超絶美人な彼女がいるし」
「それ、脳噛先輩本人から聞いたの?」
「残念ながら、アイツと私の間には、そういうマトモな会話は成立しないよ」
「だったらわからないじゃん。アンタだって、脳噛先輩のこと『ネウロ』って呼んでるし、あたしらから見たら、充分『彼女?』って思うよ?」

甘い、甘いよ叶絵……。
私はかつて、『脳噛先輩』とネウロに呼びかけた日のことをまざまざと思い出しながら続ける。

「中学入った頃さ、年上を『先輩』って呼ぶのに憧れてたから、試しに呼んでみたのよ、ネウロのこと『先輩』って」
「ふんふん、んで?」
「校門のところであらゆる手段を用いてビィビィ泣かされた」
「……そっかぁー」
「よって私は、ネウロのことをネウロ、と呼ばざるを得ないの。真実を知れば、私がネウロの『彼女』じゃないのは明瞭すぎるほどだよ」

ギリギリ歯を食いしばりつつ主張する私に、でも叶絵は慰めどころか呆れた顔を向ける。
そして、意味不明なことを言うのだ。

「ま、早く気付いてもらえるといいね、って同情しちゃうよ」
「……アイツのドSに皆がはやく気付けばいいなってオモイマス……」

叶絵が私の肩をぽんぽん、と宥めるように叩いた。

「アンタのペースでやっていきな、あたしゃアンタのソッチ方面の成長を生暖かぁぁぁく見守らせてもらうよ」


オカンじみた叶絵の言葉は、私にとってはいつもいつも、理解不能にして、本当に納得がいかないものなのだ……。


-----------------*

なんか絶対どなたかが書いてそうな話だよ。
もしどっかで被ってたらスミマセン。。。

せーしゅんだねぇ・1

守りたいと望んでいた。

それとおなじくらいの強さで、愛されたいと願っていた。

いつしか時が過ぎて、側にいることが当たり前になった頃。

愛されているだろう、と決めつけていた。

ただ無邪気に、そうであるはずだ、と。

しかし、それがこんなにも簡単に覆されるものだったなど。

どうして思うことができただろう……。



ヤコの父親が死んだのは、ヤコが3つ、我が輩が5つの時だった。
我が輩は父の都合で、ひとり叔母の家に引き取られてきたばかりで、右も左も判らない内に、叔母とふたり、ヤコの父の葬儀に参列することになった。

もともと人の感情の機微に疎い子供だった我が輩は、その悲しみに暮れた場所に馴染むことなどできる筈もなく、滞りなく進む儀式の中、叔母の隙を見て席を離れ、その沈みきった空気から抜け出した。

そして、入ってきた順路を逆に辿り、部屋を出て、玄関を出て、外の門扉を出たところに。

その小さい体は踞っていた。

すん、と鼻を啜る音がしてそちらに目を向けると、こちらの足音に気付いたのか、瞳の大きなふたつの目がぐるりとこちらを見上げていた。黒のベロア生地のワンピースを着た、はちみつの色の髪をした子供だった。

少し色素の薄い目と視線が合った瞬間、子供は慌てたように立ち上がり、両の拳をきゅっと握りしめて、こちらに向きなおり、言った。

「ヤコ、ないてないよ!ヤコ、だいじょうぶだよ!」

目頭と目尻には滴が滲み、瞼も涙袋も真っ赤にした目のまま……無理矢理に笑った。

その時、自我を持ってから恐らく初めて、我が輩の感情が動いた。

子供の目にも、彼女の……『ヤコ』の、その姿は、いじらしく映った。
そして同時に、この『ヤコ』がこの家の娘であり、彼女は自身にとって大切な父親を喪ったばかりなのだ、と悟った。

哀しみを必死で呑み込もうとする意思が、周囲の大人達に心配を掛けまいとする純粋すぎる優しさが、ヤコの瞳に、拳に、震えようとする唇に、苦役を強いていた。

それを目にして、今、その強くあろうとする心を、守りたいと、望む己がいる。

しかし、我が輩には、自分が持っている感情をヤコに優しく伝えることのできる「言葉」が、なかった。
これまでの記憶をいくら遡っても自分の中に存在しない言葉を、それでも、ヤコについて思いを巡らせ、幾度も幾度も考える。……ヤコの、笑顔が見たい。

無理をするような歪みかけた作り笑いではなく、心からの。

そして口をついて出たのは、まったく飾られない、しかし、心の底からの、我が輩自身の望みだった。


「きさまはなくべきではない、わらうべきだ」

きょとんとしたヤコの顔。
こんなとき、大人ならばもっときっと気の利いたことでもできるのだろう、抱きしめたり、口付けたり……。

しばらくまじまじと我が輩を見詰めていたヤコが、きゅっ、と、我が輩の濃紺のブレザーの袖を握った。
握られたその場所は、ヤコの掌を濡らしていた涙がするすると入り込んで、ヤコの代わりに泣きだしたかのように黒くなった。

「ヤコ、だいじょぶだからね?だからおにいちゃも、だいじょぶなんだからね?」

自分自身の『足りなさ』に沈む我が輩を、この、哀しみを堪えたままのヤコが、気遣うというのか……。


……早く、大人になりたい……。
すこしでも早く大人になって、ヤコのすぐ側でヤコを笑顔でいさせたい。


掴まれた袖口の、小さな温もりを握りしめた。
そうして、精一杯の、『大人ぶった』言葉を探しだして、ヤコに告げた。

「わがはいはネウロ。きょうからきさまのごしゅじんさまだ」

ヤコがうん、と答えて、そして……少しだけ、笑った。



------------*

書いたはいいが、落とし処が見当たらなかったパラレルを強制開幕。

キスの日のこんなことsss

しまった、と思った。

だがこの「しまった」が脳裏に浮かぶ前に……。

しでかして、しまって、いた。


「……」

声もないヤコ。
この無言が恐ろしい、などと、かつての我が輩からは想像し得ない感想を持ちながらも、しでかしてしまったソレを、止められず。

「……ん」
「!!!」

微かに漏れたヤコの喘ぎに、途端に沸騰する脳髄。それは興奮、それは本能。

身体を身体でがんじがらめにして、拘束を強める。
柔らかなヤコの唇が、零れた唾液でべとべとになるのも構わず、口内を舌先でまさぐる。

もっと……もっと……。

すべてを……我が輩に……。


バンバンバンバン!!!

騒がしい……。


バンバンバンバンバンバン!!!

やかましい……!


バババンばんばばんばんばばばん!

「五月蝿いぞアカネッッ!!!」


『探偵さんの顔が土気色にッッ!!!』


………………。


あ…………。


そういえば。


そもそも我が輩、ヤコの口に、賞味期限切れの大福を大量に押し込んで、窒息させていた途中だったのだ。
それを見咎めたアカネが、喉に詰まらせた大福を吸い出せ、と騒いで……。


……………………。



「や…………ヤコぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッ!!!」



結局、大量の大福は、掃除機を口にツッコんで吸い出しましたとさ。


『ネウロさん……キスひとつ、理由がなければ出来ないなんて……情けない……』



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ほんと、情けない……。

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