ちょうど真由美との関係が切れたころだったかその前後に同期の女の子たちと飲む機会があった。俺たちは男も女もシフトだったので、なかなか一緒になる機会が無かったし、女性は門限つきの寮だったので、よっぽどうまくやっているやつら以外は遅くまで飲んで回る者もなかった。そんな中寮の管理人が外出で遅くなる情報を聞き、彼女らと飲みに行くことになった。当然だがその中に京子はいなかった。

ほとんどが東北から出てきた女の子で、みんなおとなしい子ばかりだったけれど、その中でひときわおとなしくて目立たなかったのが和代だった。色が白くて背が高く、そのせいかすこし猫背気味だけど、瞳が大きくて美人だった。入社して2年たっていたけど話をするのは初めてと言ってもいいぐらいだった。最初のうちは何か聞いても「うん」「え〜」程度しか反応が無かったけれど、だんだん打ち解けるにしたがって彼女があまり話さない理由がわかってきた。彼女には少し訛りがあってそれが恥ずかしかったようだ。酒が進むにつれて彼女は饒舌になり、いつしか二人で離れて話し込んでいた。

後日、そのときの状況を仕事場の同僚に冷やかされた。反応としては、あのおとなしい和代と何を話していたかに集中したけれど、俺は「普通の子だよ」とだけ話した。彼女との話題は事実、普通の話だったし、特別珍しいものでもなかったけれど、俺にいろいろ話してくれたのはなんだかうれしかったし、何しろ酒のせいかちょっと潤んででトロンとした目が色っぽかった。ただ、後日彼女と顔をあわせたときはまるで何も無かったように軽く会釈程度でそっけなかったのが少しショックだった。

駅前の電話ボックスで電話をかけている和代に会ったのは前の飲み会から1ヵ月半ぐらい立ったころだった。こちらは仕事上がりで車、向こうはもっと早くに上がるシフトだったと思う。一緒に飲みに来た友達が酔っ払って、知らない男たちにちょっかい出されて寮の仲間に助けを求めるところだった。とりあえず店に入って酔っ払っている友達を拾い、寮まで送ることにした。友達のほうは立っていられなくなっていて「ロウモ スビバセン」とか言っていた。ずいぶん飲まされたらしい友達を部屋に上げると和代はまた降りてきて礼を言った。それから俺たちは自販機で缶ビールを買って近くの公園で話し込んだ。俺は「ちゅうしていい?」と聞いた。彼女は「だめぇ 私、酔っ払ってしまっているからぁ」と言った。ちょっと訛っていた。そこにちょっとやられた。
俺たちはビールの味のするちゅうをした。彼女のピンク色の頬と白い喉が街灯に照らされてきれいに見えた。