前々回の続き。








溢れ出した涙は止まらなくて
めそめそする私

先輩は優しく手を取って
ゆっくりと歩いてくれた



ずっと触りたかったその手を
いま、私は握ってる

先生と生徒じゃない
先輩と後輩じゃない
…彼氏と彼女として。


片思いの期間が長すぎて
私の頭はそんなことを
そう簡単に理解なんて出来なかった



まるで夢みたい


ありきたりの言葉だけれども
そんな言葉がその時の私には
ぴったりだった




『はーな』

ぴたりと足を止め、
先輩はうつむく私を覗き込んだ


『…これ乗ったら泣き止んでくれる?』


少し困ったような優しい笑顔。

たくさん泣いた目をしばしばさせて
ゆっくりと顔を上げた






「…か、観覧車、、」


そこには大きな観覧車。

二年前、横浜に来たとき
乗りたい乗りたい
だだっこしたのに、
一緒に乗ってくれなかったっけ



(…先輩ともう乗れるんだ)



なんと言ったらいいかわからなくて
ただぼんやりと観覧車を見上げていた





『…乗りたくないなら良いけど』

先輩はつんとした顔。


いやいやいやいや!!!



「いやっ、ちが!!
乗ります!乗らせてください!!」


慌てて弁解する私。
いやいや!むしろ逆です!と。


『…必死(笑)』


やっと元気になったね、
そう言って先輩はニヤリと笑った











乗りたかった観覧車。

ただ乗りたかったんじゃない
先輩と乗りたかったんだ




「えへへへ」

『嬉しそうだね。もう』



乗る頃には
私の涙はすっかり止まって
観覧車が楽しみで
先輩と乗れるのが嬉しくて
すっかり笑顔だった




やっと順番。

あの色に乗りたいと思ってた色が
ちょうど回ってきて
運命かも、とかそんなことを
思っていた






バタン



先輩と向かい合わせに座って
ゆっくりとゆっくりと上に
のぼっていく


びっくりするほどに天気が良くて
空からみる横浜は
最高の眺めだった。





こんなに幸せでどうするのさ

私は精一杯景色を目に焼き付けた






それから少しして
半分ぐらいのぼったころ

「わっ」

ぐらり。
観覧車がおおきく揺れた。







「せ、先輩…!」


先輩が私の隣に。





むっとした顔をしてた


『…景色ばっかりみるから』



顔が近い…!



さっきまで景色に
うっとりしていたはずなのに
急に緊張が私を襲う





「えっえっ」


『また困った顔する…』


「だ、だって…」




だって何さ、
そんな顔をしてじっとみつめてくる

…だって、だって、






私は景色のことばかり考えて

先輩のことを考えることから逃げてた



だって、怖いんだ



本当に好きなんだよ

ずっとずっと好きだったんだよ



先輩は嘘なんかつかない
そう思ってるけど


あの先輩がだよ?

何でも出来て人望もあって
尊敬する指揮者で
きびしい先生で
ずっとずっと私の憧れの
ずっとずっと私とは遠い存在の人。



どうしてあの先輩が

私なんかを…?







そんなこと…















ちゅ











それは、一瞬だった











『…本気だからね』





照れ臭そうに、つんとして。




「えっ、えっ、えっ。
ひゃーっ、えっ、」


『責任とれよ、ばか』


「…あの、あのっ
せ、先輩…っ」


『ん?なんだよ』








「…も、もういっかい」













今でもこの話を
先輩はバカにして笑う。

そして
『そんなおまえが大好きだ』
と苦しいほどに強く
抱きしめてくれるのです



『観覧車ってありきたりすぎたか』
そう言って、
ちょっぴり悔しそうな顔する貴方が
私も大好きです。


話題:初キス 〇゜