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ライオンとアザレア 1

ファンタジーもなかなか好きです。
でも書くのは難しい。

ちょっとしたファンタジー (一応びーえるですが、今のところその様子は皆無(笑))を書きました。
気がむいたら読んでみてください、続き物ですが。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


『ライオンとアザレア』




1.むかしむかし



それは霞がかった遠い昔の記憶。




人から花をもらった。




いつの間にかこの島で暮らしていた俺はその時初めて人間を見た。

その人間は「これは生きていない花だけどいつかこの島にも咲くといいね」と言ってその花を俺の掌においた。

島にはない色。見たことのない色。

「綺麗な桃色でございますね」

上の木の葉の陰に隠れていた鳥たちが、思わずため息のようなうっとりした声を漏らした。

俺が鳥たちに向かって「黙っていろ」と視線を送ると、隣にいた人間は感心したように「君は鳥とお話ができるんだね」と言った。

桃色の花。

人間は生きていない花だと言ったがそんな風には思えなかった。

その花は乾いていたが枯れてはいなかった。

俺には生きているように見えた。

花を天に翳しながらひらひらさせていた俺に人間は「押し花っていうんだ」と付け足した。

海のほうを見ながら人間は口を開く。

「ユリシア国って知ってる?」

俺は頭を横に振った。

よくしゃべる人間だなんて思いながら。

「俺はユリシア国に住んでいるんだ。花に囲まれた美しい国で、あ、写真を見せてあげる」

人間が見せてきた写真というものには海や空とはまた違う青色の花が大きな建物を囲むように咲いている様子が映っていた。

「この建物は王様が住んでいるお城で、この青い花は国の花」

恐ろしいほど綺麗だった。

俺が写真の花と押し花を見比べていると人間は「これは違う種類の花」と言った。

「この押し花はね、俺の大切な人が作った花」

そう言って人間はどこか照れくさそうに笑った。

「なんの花?」と聞きたかったけれど俺はまだ人の言葉をしゃべれなかった。

「それにしてもここは綺麗な島だね。君がこの島を守っているからかな。俺はこれでも研究者でね。ちょっとこの島の生態を調べたいから苔を少し持っていっていいかい?」

そして人間は俺の島の苔を採取して島から去って行った。



それから、俺は人と喋れるように島の鳥たちから喋ることを教わった。

「興味を持つことはいいことです。獅子様はどうにも無欲ですから」

と言ってなぜか鳥たちは喜んだ。

俺はまたこの島に人が来たら押し花の花の名前を聞こうと思っていた。

だからあっという間に人の言葉が喋れるようになった。


けれど来なかった。


誰も来なかった。


何百年も俺は待ったがこの島を訪れるものなんていなかった。

その間、島に住む者も入れ替わり、この島に訪れたあの人間を知っている者は俺だけになった。


そして、やっぱり俺の島には花は咲かなかった。

星と月と楓

ひどい雨。


書きました。
まだ書き途中のお話。
そこまで長くないのですが、このブログの文字制限に引っかかってしまったので、続きはmoreにあります。
もし、暇で暇で何もすることない!という方、よろしければ読んでみてください。


『星と月と楓』
そっくりな二人と、それからもう一人

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『星と月と楓』



高科星子(たかしなほしこ)に初めて会ったときのことはよく覚えている。

一昨年の夏。

 

そのときは驚いた。

 

 

本当に似ていたから。

 

 

 

 

夏の日差しが小さなビルの2階にある俺の事務所を容赦なく照りつけていた。

それでも冷房が完備されている仕事場は、外のうだるような暑さを想像すると外に出たくなくなるくらい涼しかった。

『なあ、かき氷食べたくないか?』

電話越しからこの季節には似つかわしくないさわやかな声が聴こえた。

仕事中の俺に何の要件かと思ったら、近所の花屋からかき氷のお誘いだった。冗談かと思った。

「まさかそのために電話してきたんじゃないだろうな、仕事用の電話に」

『店の近くの麹屋が今日からレインボーっていう味のかき氷を販売するって言ってたからさ、食べたいんだよね』

顔が見えなくとも、花屋の悪びれた感のないすがすがしい笑顔が想像できる。

「一人で行けよ。俺、仕事あるから」

『じゃあ俺そっちまで持ってきてやるから一緒に食べよう。あ、冷房は消しとけよ。暑いところで食べるのが美味しいんだから』

事務所の近くにある花屋の小山三千(おやまみち)はどうしてもそのかき氷を俺と食べたかったらしい。強引に約束をこじつけ一方的に電話を切られてしまった。

たまたまその日花屋は休みで、暇を持て余した三千は俺の仕事の邪魔をしに来るとのことだった。

探偵という名目でなんでも屋を営んでいた俺は、それでもそこそこの仕事の依頼があり、その日も報告の書類作成に追われていた。

言われたとおり冷房のスイッチを消し、窓を開けた。

窓を開けると夏の乾いた風と共に蝉の鳴き声も事務所の中に入ってきた。この季節は蝉の声に気を取られてしまうからあまり窓は開けたくなかった。

その年の蝉も良く鳴いていた。

ガチャリといきなりノックもなしに、事務所の扉が開いた。

「三千?」

「こんにちは」

明らかに三千の声ではなかった。女の声だった。

訪れた女を見て俺は一瞬言葉を失った。

少し丸みを帯びた小さな顔、大きめの茶色がかった瞳、左目の下にある涙黒子、俺と同じくらいの背格好(男の中でも俺は華奢だとよく言われる)。

夏を感じさせない真っ白な腕がストローハットをとった。

女の顔がさらにはっきりとわかった。

さきほどまで涼しかった部屋で俺はいつの間にか汗をかいていた。

女の顔は鏡でよく見る顔だった。

 

事務所の扉を開けて入ってきた女は自分でも戸惑うくらい俺にそっくりだったのだ。

 

こんなことがあるのかと思うくらい。

 

女は薄紫のワンピースを軽やかになびかせ、ふわりと俺に近づいた。

「ここは、なんでも屋さん?」

「あ、ああ。なんでも」

「ふうん。私あなたを探していたの、美村月路(みむらつきじ)」

「俺を?」
女の雰囲気的に仕事の依頼ではなさそうだった。

昔からの女嫌いも相まって、俺は自分の名前を知っているこの怪しい女に警戒心を抱いた。

それでも追い出そうと思わなかったのは、こいつが、この女の顔が。

「あ、私、高科星子(たかしなほしこ)」

聞いたことのない名前だった。

親戚?

いや、違う。そもそもこれほど自分に似ている人間と会ったことがない。

動揺を隠せない俺を嘲笑うかのように、女はその良く知る顔に綺麗な笑みを浮かばせた。

「ねえ、知ってた?私たちクローンだってこと」

「は?何をまたバカなことを」

「でもそっくりだと思わない?」

 

ああ、本当に。

 

似すぎだ。

 

 

「よー!レインボー味のかき氷買ってきたよ、むらさん!」

こちらもノックなしに俺の事務所の扉を開けて入ってきた。先刻の電話の声の主、花屋の三千だった。

三千は俺達二人を交互に見て口をぽかんとあけた。

「あれ、むらさんが二人いる」

 

場が落ち着いたころにはレインボーのかき氷は半分ほどとけていた。

 

 

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