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抱くもんか

 

 

「抱く気がないなら、もう出てってよ」

 

酒のにおいがする。

正気ではないのだろう。

 

言うだけなら何を言おうと平気だと思っている不届き者もいるが

今回のは、その手合いではないようだ。

 

「なにかあったわけ?」

 

反応はない

 

「ホントに抱いていいなら抱くけど」

 

寒いのだろう、肩が震えはじめた。

 

「…知らない」

 

判らない。巫山戯ているようにも見えない。

しかし、そこまでしか判らない。

 

人の考えや欲求は判る方なのだ。本来なら。

ただ共感性が低いだけであって。

 

「あたし、ペニスないけど。アンタのすきなヤツ」

 

気に障ったのだろう、膝を抱えたまま顔も伏せてはいるが怒ったのがわかった。

 

「出てってよ」

 

「さっきは、抱いて欲しいみたいなこと言ってさ

 

勝手だね、紫絵って」

 

おかしいと思う。

自分の足下でうずくまるカラダに性的興奮を覚えているのに、その対象を突き放そうとしてる。

真にいてバカな振る舞いである。

 

「いまの紫絵は目が曇ってんだよ、アタシになんて興味ないくせに」

 

興奮ーーーしているのだろう。

自分をオトシメテ、彼女が親友を傷つけてしまったと後悔することに、そして恥じることに。

 

「トモダチに抱いてくれなんてお笑い草だね」

 

ずかずかと踏み込んで、あれこれと重箱の隅をつついて、いまを忘れられない出来事にしなければ。

何度も問いただしては否定を繰り返す。

何度も何度も繰り返す。

 

そうしなければ、紫絵の中にずっと居られない。

 

関係ない。

それは関係ない。

 

紫絵の顔をのぞいた。

カナシソウな顔だった。

 

「もう、寝な。あたしちょっと出るからさ」

 

わたしは彼女に見詰められて、そうしか言えなかった。

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