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履歴って…。(センスないな)



戸の向こうには、妙に口元を歪ませた顔の京楽がいた。


「やっと仕事をする気になられまし…」


全部を言い終わらないうちに七緒は京楽に唇を塞がれた。京楽の厚い唇で。

編み笠も脱がないうちから、京楽は七緒の腰を抱き寄せ、いきなり濃厚な接吻を浴びせてきた。その激しさに掛けていた眼鏡がずれる。


「…ちょっと…隊長、やめてください…」


七緒は唇が離れると眼鏡を掛けなおしながら言う。


「いやだ。気持ちいいことしようよ。」


「なっ…何を仰ってるんですか」


「子供を作るようなことしたいって言ってるんだよ。」


それだけを言うと、こんどは七緒の股の間を袴越しにさすった。


「駄目ですってば、執務室ですよ。ここは…」


七緒はあわてて京楽の手を押さえて、笑うことも出来ずもう泣きそうになっていた。


「別にボクは構わない」


そういうと京楽は桃色と白の羽織を床に落とし、女物の長い腰紐を解いた。無造作に。

落ちる袴、脱ぎ捨てられる死覇装、あらわになる体毛と肌色。


七緒は目のやり場に困った。


京楽はどこまでも明るい声で言う。


「今度は七緒ちゃんの番だ。」


腰を抱かれ、引き寄せられる。先ほど京楽が行った手順で脱がされていく。腰紐は解かれ、床に落ちる袴、脱がされる死覇装。

昼間の太陽に照らされる白い肌。



「やめてください!どうしたんですか…ほんとにどうしちゃったんですか」


「七緒ちゃんに履歴を残したいだけだよ」


「履歴…?」


「そうだよ、ボクがその履歴を残してあげるんだ。君に」



 

京子七でてきた




七緒の小さな胸を、激しい悪寒が、横殴りの雨のように、ざーざーと突き刺した。



「こんな時間までどこに行ってたのかな、七緒ちゃん」



空は春には似合わない、曇天。

陽射しはなく京楽は照ってもいない太陽の陽射しに目をまぶしげに細めている。


口元は緩み笑っているのに、鋭い目付きは七緒の身体にすさまじい衝撃を引き起こし激しい悪寒で包み込む。

七緒は指先だけでなく足も背中も、骨までも震え始めていた。



「す…すみません…、あの…書庫で探し物を…。ですので、遅くなりまし、た。」



七緒は早口で、自分は遊んでいたわけではないと、誰かと一緒にいたわけではないと説明した。



「きょうらくたいちょう、わたし…。」


それ以上言葉はつづかなかった。息を整えても整えても、喉はカラカラに渇くばかりだった。


「誰かと一緒にいたの?本当に書庫にいたのかい、本当のこと言ってご覧。」


京楽は目尻に皺を寄せて笑った。


「本当はなにしてたのかな。ボクの七緒ちゃんは」


「ごめんなさい…あの、おはなしをしてしました。」


「誰と?」


「書庫の門番の方と…その、おはなしをしてました。ごめんなさい」


京楽は大きな身体を猫背に丸めて、威厳と言う名の髭に包まれた長い顎をさすった。口元にも目尻にも笑みの歪みはなかった。


「ボクに嘘ついたね。」


「う、ひくっんっ…ううう」


「泣いても許してあげないよ。泣いたらもっと怒っちゃうよ。」


「うああ…ううう、っうっ」


七緒の目は大きく開かれると、次は糸のように細くして涙がそこから溢れ出した。京楽の色調と声音の低さによって血の気の引いた顔色が、さらに真っ白になった。


「泣くなって言ったのに。」


「きょうらくだいちょう…」


近寄ってきた七緒を突き飛ばして、京楽は桃色の背を向け、早足で歩き始めた。


「やだあ、たいちょう待ってぐださい。たいちょう」


七緒は突き飛ばされた勢いで尻餅をつき、背中を向けて歩き出す京楽の後を追いかけようと死覇装についた泥に気づきもせぬままに追いかける。

すでに京楽は隊舎の門の前まで歩いており、隊主室までの道のりを曲がっていた。


「うああああん、なんで行っちゃうんですかあ」


もう桃色は夜の闇に溶け、扉の向こうに消えていた。七緒は溢れ出す涙を手の甲でぬぐいながら、ふらふらな足取りで閉じてしまった京楽の私室の前にへたり込んだ。


「」









御終い

この後はどう続けるつもりだったのかは知らないー

 

場面描写の難しきことよ。


京楽は相手のこころを惹き付ける話術を心得ていた。

どんな種類の話であれ、彼が話すとそれは特別な物語になった。


口調や、間の取り方や、話の進め方、すべてが完璧だった。

彼は聞き手に興味を抱かせ、意地悪くじらし、考えさせ、推測させ、その後で聞き手の求めるものを的確に与えた。


その心憎いまでの技巧は、たとえ一時的であるにせよ、七緒のまわりの現実を忘れさせてくれた。

しがみつくように残った記憶の断片を、あるいは出来れば忘れてしまいたい心配事を、濡れた雑巾で黒板を拭うようにきれいに消し去ってくれた。


彼のもとに就いてから、わたしはそうやってその優しさにずっと救われていたのだ。

わたしは幼い頃からしっかり者に見られていたが、実は誰かに甘えたく、母上とのの思い出に記憶をめぐらせては孤独になった。

そう思う自分に、育ててくれた老翁や老婆に背徳感があったのだ。


だからだろうか、京楽のどこか浮世に足をつけないでいるような振る舞いに甘えられたのは。


幼い頃は、読書というかたちで。

いまになってもわたしは、ことあるごとに理由をつけては京楽のもとへ行っては甘えているのだ。


まるで、仕事をさぼる上官に振り回されているように

わたしはいつも彼を追いかけていた。


「隊長、ここにいらしたんですね」ほう、とため息をついた。


照りつける日射しが足下の鉱石を乱反射させていた。京楽が座る木陰の岩はひんやりと気持ちよさそうだ。


「見つかっちゃったか、」そう言って優しい顔をわたしに向けるのだった。


言葉も、所作も、向けられる笑顔も、すべて完璧だった。

大きな身体をまるめている姿も、笠を持ち上げる指も、わたしをとらえると更に柔らかくなる笑顔も。






「七緒ちゃんさ、綺麗になったね」

照りつける日射しが、足下の鉱石が、死覇装の漆黒が、彼女のなめらかに伸びる四肢、首をいっそう美しくひきたたせていた。


「なにを突然に…。さぼった言い訳が思いつきませんでしたか」

七緒は、めがねの端を押し上げてそう言った。


最近、七緒の控えめな女らしさに磨きがかかってきたような気がする。

その事をボクが褒めると、呆れた顔した。


ボクは本気で言った。これほど美しく、これほど清廉で、これほど純情な女は彼女をのぞいて他にいないだろう。



彼女の腕をひいて、木陰に招き入れた。

七緒の肌に陰が落ちた。たまに葉を透けたひかりが顔にゆれた。



「ほんとだよ」

ボクは優しくキスをした。



「ボクの七緒ちゃん」


京楽は目尻に皺をよせて笑った。


「それじゃ、戻ろうか」

ボクのうながす声で、彼女はハッと正気に戻ったように踵を返した。


「誰がボクの、ですか」



 

いったいなんなのか。

 


京楽は艶やかな着物を着た女性としゃべりながら木陰にいた。

鼈甲のかんざしの女はしばらく京楽の傍から離れなかった。


しばらく、七緒の頬を風がなで、夏の太陽が汗を流させては風が乾かした。

そのうち、かんざしの女のもとへ若い男が駆け寄ってきたので、桃色羽織はこちらへ帰ってきた。


「七緒ちゃんもこっちに来ればよかったのに」


七緒の輪郭を流れる汗を見て、京楽は先ほどの女と話していた木陰に視線を流した。


「いえ、ご友人との会話のお邪魔するわけにはいきません。」

「そっか」


素っ気ない返事だった。


「今日は流魂街の見回りですが、どうされますか?」

「ええ、暑いよ。帰りたいなあ」


いつも通りの返事だ。

「では、隊長は隊舎へお戻りください。わたしが回って参ります」

「ええ、いいの?ほんとにいいの?」


髭の間から白く整った歯が見えた。


「ええ、わたし一人で回った方が早いと思いますので」

と、目の前の笑顔を戒めたつもりで言って、眼鏡を押し上げた。


「ひどいねえ」

と、わたしに言うのであった。




しばらく、桃色羽織の背中をみてから背中を向けた。

THE MOVIE:The DiamondDast Rebollion




THE MOVIE:The DiamondDast Rebollion






隊長が元気になり、八番隊隊舎にも、やっと本当の活気が訪れることになった。彼を迎える支度もようよう整い、彼が帰ってくるまでにちょうどひと月が立つことになる。


京楽が帰ってくる日が決まるまでの月日は、気分としては辛かったがそんな宙ぶらりんな気持ちも彼が帰ってくるとなると一気に晴れてしまった。


自分の中で京楽という存在が中心だということを自覚する。



「たっだいまあ、七緒ちゅわあん」



戸の向こうには、ひと月ぶりの上司。

垂れた双眸。

肌蹴た腹に痛々しげな包帯はもうない。



「おかえりなさい、京楽隊長」


久しぶりに頭を下げた。下げていたいのだ、久しぶりの感覚を堪能する。


「へへ、なんか恥ずかしいなあ」

ああ、胸が張り裂けそうだ。

そう、ボクは帰ってこなきゃならなかったんだ。なぜなら彼女は一人ぼっちだから。



「ただいま、よく一人で頑張ったね」


長椅子に腰掛けながら、ひと月の彼女への労わりの言葉をかけた。

意識したわけではなかったが、薄暗い声音になる。



「いえ、副隊長として当たり前のことですから」


「んふふ、七緒ちゃんらしい。まっ…よく頑張りました!ご褒美あげなきゃねえ」


弾けた声を発すると、京楽は勢いよく長椅子に横たわり網笠で顔を隠してしまう。

その姿を見るのはひと月ぶりで、おもわず七緒は双眸を細めてしまった。



「褒美をくれると言うなら、是非仕事をしていただきたいですね」


「…考えとくー。」



窓から明るい陽射しが射し込み、長椅子の上の京楽にやさしく降りそそいだ。カタンと音がすると、盆から茶請けと湯飲みを机に置く七緒がいて、まるで愛の告白をされているようだった。


あいしている、と。



「ねえ、七緒ちゃん…」


「何です?」


「泣いてたね、ボクが怪我しちゃったとき」

ちゃんと聞こえてたんだ。部屋の外で啜り泣く君の声は、まるで魂でも削っているように掠れていた。抱きしめてあげたかった。


すると七緒は眉間に皺を寄せて静かに答えた。


「気のせいでしょう」


「…そっかあ、それならよかった」


京楽は静かに続ける


「もしね、あのとき泣いてたんならさ…ボク抱きしめてあげたかったなと思ってね。」

ボクのために流してしまった涙を、一粒だって零すことなく掬いあげたいと思ったんだ。



椅子から上半身だけを起きあげて、向かいの七緒を見つめる。長い沈黙だけがボクらの間に横たわり、心臓の音も消えて、世界から音がなくなってしまったのかとさえ思った。



 

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