THE MOVIE:The DiamondDast Rebollion






隊長が元気になり、八番隊隊舎にも、やっと本当の活気が訪れることになった。彼を迎える支度もようよう整い、彼が帰ってくるまでにちょうどひと月が立つことになる。


京楽が帰ってくる日が決まるまでの月日は、気分としては辛かったがそんな宙ぶらりんな気持ちも彼が帰ってくるとなると一気に晴れてしまった。


自分の中で京楽という存在が中心だということを自覚する。



「たっだいまあ、七緒ちゅわあん」



戸の向こうには、ひと月ぶりの上司。

垂れた双眸。

肌蹴た腹に痛々しげな包帯はもうない。



「おかえりなさい、京楽隊長」


久しぶりに頭を下げた。下げていたいのだ、久しぶりの感覚を堪能する。


「へへ、なんか恥ずかしいなあ」

ああ、胸が張り裂けそうだ。

そう、ボクは帰ってこなきゃならなかったんだ。なぜなら彼女は一人ぼっちだから。



「ただいま、よく一人で頑張ったね」


長椅子に腰掛けながら、ひと月の彼女への労わりの言葉をかけた。

意識したわけではなかったが、薄暗い声音になる。



「いえ、副隊長として当たり前のことですから」


「んふふ、七緒ちゃんらしい。まっ…よく頑張りました!ご褒美あげなきゃねえ」


弾けた声を発すると、京楽は勢いよく長椅子に横たわり網笠で顔を隠してしまう。

その姿を見るのはひと月ぶりで、おもわず七緒は双眸を細めてしまった。



「褒美をくれると言うなら、是非仕事をしていただきたいですね」


「…考えとくー。」



窓から明るい陽射しが射し込み、長椅子の上の京楽にやさしく降りそそいだ。カタンと音がすると、盆から茶請けと湯飲みを机に置く七緒がいて、まるで愛の告白をされているようだった。


あいしている、と。



「ねえ、七緒ちゃん…」


「何です?」


「泣いてたね、ボクが怪我しちゃったとき」

ちゃんと聞こえてたんだ。部屋の外で啜り泣く君の声は、まるで魂でも削っているように掠れていた。抱きしめてあげたかった。


すると七緒は眉間に皺を寄せて静かに答えた。


「気のせいでしょう」


「…そっかあ、それならよかった」


京楽は静かに続ける


「もしね、あのとき泣いてたんならさ…ボク抱きしめてあげたかったなと思ってね。」

ボクのために流してしまった涙を、一粒だって零すことなく掬いあげたいと思ったんだ。



椅子から上半身だけを起きあげて、向かいの七緒を見つめる。長い沈黙だけがボクらの間に横たわり、心臓の音も消えて、世界から音がなくなってしまったのかとさえ思った。