見回りから帰ってきた総悟が妙なものを持って、まだ仕事中の俺のとこまでやってきた。
「…何だよそれ」
「宇宙土産だって貰ったんでさ、旦那に」
まるで自室のように、副長室にいる俺に声も掛けずに、勝手に障子を開けて入ってきた総悟は当たり前のように仕事中の俺の横で菓子のビニールを破っている。
商店街の抽選で当たって行ってきたらしいですぜ、なんて総悟は興味なさげに言っているが内心は違うだろう。
ここで俺が「今度の休みにどっか連れて行ってやるよ」と言ってやれればいいのだが、そう簡単に休みが取れないことくらい自分自身嫌って言うほど分かっている。
いつになるかわからない約束を口にして待たせて、結局行けなくなってがっかりさせるより、喜んでくれるかは別としてサプライズで連れてってやるほうがいいに決まってる。
もうちょい暖かくなったらどっか連れてってやるか。
…おっと。
総悟の顔を見ながら考えていたら、話が逸れてしまった。
そういや最近、万事屋の奴が総悟にちょっかい掛けにきてねぇなとは思ったが、宇宙に行っていなかったのか。
そのままブラックホールに飲み込まれて当分ゆっくりしてきたら良かったのによォ、と胸の内で吐きながら、総悟の口から出てきた奴の名前と奴から貰ったという菓子の箱に俺は眉間を寄せる。
◆ ◆ ◆
「オイ…あいつから貰ったもの何でも口に入れんな。どう見ても賞味期限どころか消費期限も怪しそうだぞ」
総悟の手の中を覗いてみると、あの野郎からの宇宙土産だというわりに、菓子が入っている小さな箱には地球産のキャラクターが描かれていた。
…地球産のキャラクターを持って帰ってくるって逆輸入してるだけじゃねぇか。
せめて地球以外の星のキャラクターのもの買ってこいよ。
万事屋に対してそう文句を垂れてたら、「俺がにゃんこっぽいから買ってきたらしいですぜ」なんて、総悟の口から聞き捨てならない言葉が返ってきて、書類を書いていた俺は手を止めた。
にゃんこっぽい、だとォ…?
「にゃんこっぽいって俺ネコミミもネコしっぽも生えてねぇのに意味分かんねぇですよねィ」と総悟が的外れなことを言ってるが、そういうことじゃねぇんだよ!
完璧にこれ、総悟が菓子好きなところに付け込んで、物で釣ろうとしてるパターンじゃねぇか!
このネコのキャラクターを無理やり総悟に重ねて宇宙で思い出して、万事屋の野郎が地球の外で総悟でナニを考えたりナニをしてたりしたのかと考えるだけで、胸がムカムカイライラムカムカイライラ…。それこそ無限大だ。
(総悟で妄想したりナニをしたりしていいのは俺だけだ!)
もうあいつに近づくな!あいつは変態だ!と怒鳴ろうとしたらそれよりも早く、総悟が口を開く。
「売ってるもの買ってきたんだから、さすがに腐ってるってのはないでしょ」
…さっき俺が言ったことに対して律儀に返してくれるのは嬉しいが、いまはそれはいいからっ!!
しかもその返事もその声ものんきなもんだ。
腐ってるとか腐ってないとかそのことだけじゃなく、ケチな万事屋の野郎がお前にだけ土産買ってきたことに少しは警戒心を抱いてくれ!頼むから!!
あの野郎が買ってきたものだ。食べたらムラムラとかムンムンとかうっふ〜んvとかそんな成分が入ってるかも知れないんだぞ!!
(俺の前でムラムラしてムンムンな色気出して、うっふ〜んvでカモーンでさァ、ならバリバリ全開でバッチコォォォイ!!!だが)
「…いやいや。どう見ても埃かぶった棚の奥の奥のほうに置いてある、在庫一斉処分を謀った店側と安く土産代を済ませたいと企んだ銀髪の思惑が見事に一致してまとめ買いしてきた代物だろこれ」
落ちつけ…落ちつけ俺。
頭ごなしに食うなって総悟に言ったって、俺の言葉を素直に受け取らない総悟のことだ。食べるのをやめるわけがない。
「心配しすぎですぜ土方さん。ちょっとくらい賞味期限切れてたって腹が痛くならなきゃ大丈夫でさァ」
心配し過ぎって、お前がのーてんき過ぎなの!!お前が考えなしだから、俺の胃がキリキリムカムカするんだよ!!
「腹が痛くなるかならないかは食ってから数時間後の話だろそれは。それにこれは…お前の言うちょっとじゃねぇぞ。
どこの星の言葉か分かんねぇけど、左の数字は『090911』で09年9月11日、右の数字は『03 11 11』で03年11月11日って書いたねぇかこれ」
怪しすぎて余計、総悟に食わせられっか!!
こんなん食ったら腹が昇天するわ。
総悟は食い意地は張ってないが、チャレンジ精神が旺盛すぎる。
妙なものとか変わったものを興味だけで考えなしに食うから始末が悪い。
何度も腹を壊してるんだからそろそろ学習してくれ…!と切実に願っているが、総悟がアホなのはいまに始まったことではないし、むしろそんなアホなとこが可愛いというか、アホな子ほど可愛いというかなんというか…ゴホッ。
…頭の中が軽いならその分俺が気をつけとけばいい話だ。
俺がどうにかして万事屋の野郎から貰ったという、妙な菓子を総悟に食わせないように話を持って言ってるのに、俺の気持ちをこれっぽっちも理解してない総悟はお構いなしだ。
「あー…これは左から読むんじゃなくて、2011年3月11日って読むんだって言ってやしたよ、確か。
あと09年のほうはロット番号か何かって言ってやしたぜ、確か」
「…確か確かって、さっきから曖昧な返事しか聞いてねぇぞ。そんな曖昧で怪しいモン捨てろよ。それ食って腹壊しても俺ァ仕事休ませねぇからな」
俺は食うなってちゃんと止めたからな、と言って俺は再び書類と向き合う。
これ以上こいつに何を言っても無駄だと悟ったから…というのも半分あるが、ここからは俺(の忠告)を取るか、あの野郎を取るかあいつに決めて貰うつもりだ。
そもそもあのボケ(※銀髪野郎)から貰ったってのも気に食わねぇのに、わざとなのかわざとじゃないのかは分からないが、それを俺の前で食おうなんてこいつもたいがい良い根性してる。
総悟は「腹壊すのもヤだしなァ…」と呟きながらも、てのひらの上に乗った色とりどりのカラフルな菓子に目をやっている。
この様子だと俺の忠告をちゃんと聞くつもりだな…と安心していたのも束の間。
「…そんなに俺の腹を心配してくれるんなら、土方さんがまず味見して下せェ」
「だっ…誰が心配す……モガガガッッ!!」
正面切って図星を指されるといたたまれなくなって、否定しようとっさにと口を開いてしまった。
その直後、総悟のてのひらが勢いよく俺の口を塞いだ。
…オイ総悟。
お前さっきまでてのひらの上であの菓子転がしてなかっ………ガクッ(昇天)
「どうです?美味しいで……クサッ!!」
悪魔のような笑顔で顔を覗かれた瞬間、総悟の表情がみるみる険しくなった。
ツッコミを入れるために口を開いたときに、無理やり食わせられたクソマズ菓子の臭いが総悟の鼻にまで届いたのだろう。
総悟は鼻を摘まんで、まるでネコのように俊敏に俺のそばから飛び退いた。
「あっち行けやィ!!ドブの臭いがするクサ方!!
……あ、ドブ方のほうがいい?」
「そんなことどっちでもいいわボケェェェ!! それにあっち行けって、ここは俺の部屋だ!!」
無理やり食わせてあっち行けとはほんと、こいつイイ根性してる。
あー…だんだん腹が立ってきた。
飛び退いて逃げた総悟を捕獲して『くさい息』攻撃をしなければ、俺の腹の虫が治まらねぇ。
こんなドブ(※菓子)を無理やり食わせた総悟に腹が立っていた俺は、書き掛けの書類をほったらかして部屋の隅っこに逃げ込んでそれ以上逃げる場所がなくなった総悟にゆっくりと近づいていく。
「俺の言ったとおり、ろくでもねぇもんだっただろ?」
「…だから食ってねぇじゃん」
総悟のいる前で立ち止まって見下ろすと、総悟は顔を反らして唇を尖らしながらボソッとそんなことを吐いた。
こいつ…俺に無理やり食わせたこと、まったく反省してねぇな。
表面だけでも反省の色を見せてれば少しは考えてやったものを、こいつはそんなに俺に怒鳴られたいのか?
「…目には目を、歯には歯をって言葉知ってるか?」
総悟の目の位置に合わせるようにしてしゃがみ込んだ俺は、意地悪く唇を歪ませながら目の前の総悟に聞いた。
「……知らねぇ」
案の定。
総悟から返ってきた言葉にニヤリと笑い、俺は総悟の顎を無理やり掴んで顔をこっちに向けさせた。
「そんじゃあ今から、その言葉の意味しっかりお前に叩き込んでやるよ」
と、総悟が俺にしたように俺も総悟の口を無理やり塞ぐ。
けれどひとつだけ違う点はてのひらで塞ぐんではなく唇で、だが。
唇を唇で塞ぐだけでは治まらなくて、総悟の硬く閉ざされた唇を強引に割ってその奥に隠れた舌を捕まえる。
くちゅ…と水音を立てながら、果実のように甘い唇を貪り続ける。
口の中が臭いからか、それとも未だキスに慣れず息が上手く吸えないからなのか分からないが、総悟が拳を作って俺の背中を叩いている。
けれど一度柔らかい唇に触れてしまうと止まらなくなってしまった俺は、総悟の些細な攻撃など気にならなかった。
合わせていた唇をようやく離してやると、目の前の総悟ははぁはぁと荒い息を吐いて必死に酸素を求めていた。
大きな瞳は涙で潤んで、頬も唇もどこもかしこも真っ赤になっている。
俺はそんな総悟にフッ…と笑う。
総悟、『くさい息』攻撃はどうだ?
…俺に無理やり食わせるからこんなことになるんだぞ。
ざまァみろ。
END.
◇ ◇ ◇
バレンタインと無理やり掛けてみた。
しかし急ぎ足過ぎて意味不明なものが出来上がった…!