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そうごにっき(5/5・深夜A)

5月5日 あめ



いつの間に眠ってしまったのか分からないけれど、瞼を上げた先に見えたのがあのひとの横顔で、なんだかほっとしたときのことは覚えている。





「…気が付いたか?」


俺が目を覚ましたことに気配で感じ取ったのか、土方さんは一度だけ俺に目を向けた。


「ひじ、かたさ…おれ…」


そう言い掛けたとき、妙な浮遊感を感じて身体が瞬時に強張った。
雨の音がすぐそばで聞こえる。庭に面した廊下を障子でさえ切った部屋の中にいるのなら、こんなにはっきりと雨の音も匂いもするわけがない。
俺が自分の置かれている今の状況に驚いていることを支えている腕で察知したのだろう。
土方さんは俺の身体を落とさないようにその腕でしっかり押さえ込みながら、俺の髪に唇を寄せた。


「…暴れるなよ。暴れたら落っこちるぞ」


ひっそりとした夜の廊下に内緒話をするかのように、こっそりと耳元で囁かれる。
それなら俺を下におろせ、と土方さんを睨みつけることで訴えたら、「…歩けるならな」と一言だけ呟いて、ちらりと俺の身体のほうに視線を向けるものだから、俺もそれに釣られて目を向ける。


な、なななななん…っっ!!!


雨が降ってるからいつもの夜より闇が濃いとは言え、こんな恰好を誰かに見られでもしたら…!

おもいっきり大きく開いた胸元と、裾がはだけて太ももまで見えてしまっている。
見るんじゃなかった、って後悔しても見たあとじゃあすでに遅くて、真っ先に目に飛び込んできたのは至る所に散らばっている赤い跡。
帯がかろうじて引っかかっている程度の今の自分の格好を見て絶句しているところに、「雨音が足音と気配を消してくれてるんだってことも忘れるなよ」と付け加えられて、俺は飛び出そうになっていた声を慌てて両手で塞ぎとめた。
すると俺の慌てふためいている姿が面白かったのか、土方さんは俺の頭上でふっと笑った。


こっ、このやろ…っ。すね蹴ってやりてェ…!


だからと言って、いま廊下に下ろされでもしたら、誰が通るか分からない廊下を張って、俺は自分の部屋に戻らなきゃいけないはめになる。
土方さんに軽々と抱えられている今の状況ももちろん恥ずかしいけれど、こんな恥ずかしい姿を土方さん以外の他の誰かにも見られでもしたら、俺は恥ずかしさのあまり死んでしまうかもしれない。それだけは絶対やなので、仕方なく俺は口を押さえていた両手を外して、渋々土方さんの首に両腕を回した。
本当は睨みつけてやりたかったけど、自分から腕を回した手前、そんなことできるわけなく、俺は土方さんの肩に顔を埋めた。





「…なんで土方さんの部屋なんでィ」


だっこされて連れて来られた場所は煙草臭い土方さんの部屋。
こっちは煙草の苦いにおいに顔をしかめているのに、土方さんはそんな俺にはお構いなしで部屋の真ん中まで歩いてくると、ようやく畳の上に下ろしてくれた。


「お前の部屋のが良かったか?」


俺を畳の上に下ろした後、離れて行く土方さんの背中を目で追っていたら、これまた煙草臭い布団を襖から出して来て、ころんと寝転がっている俺の横にその布団を手早く敷いた。
そして案の定というべきか、布団の横で転がっている俺の身体を再び抱えると、土方さんは敷いたばっかの布団の上に俺の身体を下ろした。


「…土方さんがいねぇなら」


どっちでも、と嫌味ったらしく言って顔をそらしてやったら、俺の身体の上に覆いかぶさってきた土方さんがニヤリと意地悪く笑った。


「ほぉー。つまり俺がいなかったらひとりでしてくれるわけだ。俺の部屋で俺のこと考えながらシてるお前も見てみてぇなァ」


誕生日だからしてくんね?


「だっ、だだだだれが…っ!!」


するか!!


さらりと余裕で言ってのけた土方さんの言葉に、俺は金魚のように口をパクパクして酸素を求めるはめになった。


ほんと、誰がするかってんでィ!!


って言うか、俺の反応を面白がっている口調とは裏腹に、その目がマジなような気がするのは俺の気のせいであってほしい。
誕生日だから何でもしてやるなんて俺は一言も言ってないし、そもそもプレゼントはおまけまで付けてちゃんとやったし!!

それなのに土方さんはまだ俺に何かを求めているようで、意思を持ったてのひらが単衣越しにするりするりと俺の身体を這いまわる。


「んっ、ちょっ…」


しゅるっ…、と腰にかろうじて引っかかっていた帯が引き抜かれて、俺の身体を撫でまわしていた手が副長室では脱がされずに済んだ単衣を脱がしにかかった。
ここまで来たらもはや職人技のようだ。
俺がいくら脱がされてたまるかー!と頑張ってみても、服を脱がせることに長けた土方さんは手早く俺の身体から単衣を引っぺがして、その単衣と帯を掴むと、俺が手を伸ばしても届かない畳の上に放り投げやがった。


くっそ…あんなところに放り投げやがって…!


卵の殻をむくようにつるんと見事にひんむかれてしまった俺は、その殻である自分の単衣の行方を目で追っていたら、土方さんはその間に身に付けている上着と中のベストを脱いで、自分の手の届く範囲に乱雑に置いていた。


あーぁ。こんなとこに置いたらしわくちゃになっちまうのに。


普段なら俺のほうが上着やベストを脱ぎっぱなしのほったらかしにするほうで、上着もベストもきちんとハンガーに掛けている土方さんに叱られる立場なんだけど…。

今は立場が逆転。

上から三つほどシャツのボタンを外し、普通ならだらしない格好のはずなのに、その開いたシャツの隙間から覗く引き締まった胸板に、つい先ほどまでたくさん抱き締められてだっこされてここまで連れてこられたことを思い出してしまった。
思い出したとたん、胸の鼓動が速くなってしまった気がする。
速くなってしまった鼓動が、ぴたりと密着した肌から土方さんの肌へ伝わらなきゃいいのだけれど、今までの経験上、そう上手くはいかないだろう。


普段はヘタレのくせに、大人の色気でも出てんのかねィ…。


動揺が出にくいって言われている俺だけど、土方さんにはなぜか通用してくれない。
だから恥ずかしくなってそこから目をそらしたら、服を着こんでいる土方さんとは正反対に、生白くて筋肉もほとんど付いてない自分の身体が目に入った。

それだけなら何ともないんだけど…。


ちゅうちゅういっぱい吸いやがって!


黒い髪の大きな蚊に吸われた跡が思いのほかいくつもあったから、自分の身体なのに慌ててそこからも目をそらしてしまった。
だっこされてここまで連れてこられる間に、ペラペラな胸の辺りやガリガリな二の腕、脚の付け根付近、他にもいろんなとこを吸われていることを一度見て知っていたけれど、暗くてはっきりとは確認してなかっただけにその量の多さに衝撃は大きかった。


「総悟…」


どこに目をやればいいのか迷っていたら、耳元で甘く名前を囁かれて、くすぐったさに顔を上げれば、飢えた獣のような熱っぽい目で見つめられていた。
パン粉を付けて揚げる直前の魚のフライみたいに、生白くてペラペラな身体でも、ずっと見つめられていたのだと思うと、身体が火照ってくる。


そういやぼんきゅっぽんなエビフライより、ぺらぺら魚のフライのほうが好きだって言ってたもんなァ…


ってそうじゃなくて…っ!!


さっきもしっかり食べたくせに、まだ食べ足りないみたいな目で見てくる土方さんはほんと、どうしようもないほど物好きだと思う。
普通だったらぺらぺらの魚フライなんかより、ぷりぷりのエビフライに目が行くだろうに。
そんなに食べて飽きないのかねィ?って思うほどほぼ毎日、綺麗に残さず食べているくせに、それでももっと食べたいだなんて。
それは魚のフライからしたら、とても嬉しいことだ。
美味しそうに食べてくれるこのひとについついほだされて、最後はろくな抵抗もできないのだ。

まさしくそれが今の状況だ。


「…おい、何考えてんだよ」


急にムスッした声が上から落っこちてきたので俺が顔を上げると、土方さんは忙しなく動かしていた手を止めて不機嫌そうに眉を寄せていた。


「他のことなんか考えてねぇで、俺のことだけ考えてろ。
せめて…今だけはよ」


さっきまでイヤミなほど余裕な態度だったくせになんて顔してんでィ、と口に出そうとしたら、俺よりも早く土方さんが不機嫌な理由を口にしていた。


「(…せめて今だけはよ、はそっくりそのままバットで打ち返してやらァ)」


何を考えてんだ、ってそんなの言えるわけねぇだろィ。
それは今だけじゃなくて、ふとした瞬間に想ってしまうほど目の前のひとに囚われている。
こういうことに慣れてないから、俺だけが振り回されているだけかと思っていた。
でもその言い方だったら、その表情を見たら、俺ばっかりがあんたのことを考えて、いっぱいいっぱいになってるわけじゃないってわかって安心した。
俺と同じ余裕がない子供のような拗ねた顔の土方さんが見れて、すごくうれしい。


「それは…ひじかたさんしだいでさァ」


そう思ったら、自分でも無意識のうちにやわらかく笑っていたみたいで、土方さんも俺に釣られるようにして眉間のしわとほっぺが緩む。

「そらァ、臨むところだ」

それと同時に、止まっていた土方さんの手が活動を再開して、俺はまた自分から食われに行ってしまった。


この後立て続けに二回連続で食べられたけれど、ペラペラ魚のフライが美味しかったのかは次の朝、俺を食べた張本人のご満悦な顔を見れば一目瞭然だった。



本当におわり!


 * * *


長々とお付き合いありがとうございました!
深夜と早朝、書いた時間がだいぶ経っているので、「ん?」って思うところがあったらすみません。

そうごにっき(5/5・早朝)

5月5日 あめ



悔しいけれど、安心してしまうあのひとの暖かな腕の中。
もっといっぱいその腕で抱きしめて欲しい。





ほんの数分前まで安心できるぬくもりに触れられていたと思ったのに、くしゃみをしたと同時に少しだけ開けた瞳の先には真っ白なシーツの海しか見えなかった。


「ぅ…ん…さむ…い…」


…全身が鉛のように重くて、だるい。瞼を上げることすらおっくうになって、シーツの上をぱたぱたと手探りでぬくもりを探すも見つからない。


確かについさっきまで自分のそばにいたはずなのに。


部屋の外から聞こえてくる雨音がさらに、不安をあおってくる。
目の上に何かが乗っているじゃないかと疑いたくなるほど重たい瞼を擦ることでこじ開けて、ぼんやりと見つめた先の天井には水たまりのような形の染みがあった。
自分の部屋の天井にはない染みの形。


俺…昨日の夜、なにしてたっけ…。


土方さんのいる副長室に行ったまでは覚えている。
けれどこの天井は副長室ではないし、副長室に行ったら土方さんは昼間見回り中にさぼったことを怒ってて、どこ行ってたんだってしつこく聞いてきてそれでそれから……



「…悪い。起こしちまったな」



もともと煙草臭い部屋だけど、煙草のにおいがいっそう濃く漂ってきたかと思えば、眠りに落ちる直前に耳元で囁かれた低い声とともに、水たまりの染みを持つ、この部屋の主がひょっこり俺の顔を覗きこんできた。


きゅ、急に覗きこむな!


反射的に目の前のひとから顔をそらす。
心の中で思ったことは声には出なかったけれど、昨日の夜から気を失うまでのことをおぼろげに思い出してしまったところに、そんな心配そうな顔で覗き込まれたら、俺はどうしたらいいのか分からない。
そんな顔されたら、いつものような憎まれ口だって口から出てきてくれない。
漆黒の目にじっと見つめられていると、だんだん恥ずかしくなってきて顔をそらしたのに、俺の気持ちなんてちっとも分かるわけがない、無神経なあのひとの手がそっと俺の額に触れた。


「な、なに、」


土方さんのてのひらが俺の額に触れた瞬間、雷に打たれたかのようについびくっと、大げさに反応してしまった。


「熱は…ねぇようだな」


顔が赤いから熱があるのかと思ったんだが…、と思いのほか真剣な顔つきのまま言葉を続ける土方さんに、本当に俺の身体のことを心配して触れただけなのだと分かって、大げさに反応した自分が急に恥ずかしくなった。


…てっきり、やらしいことを考えながら触れてきたのだと思っていたので。


勘違いした自分がすごく恥ずかしい。
恥ずかしくなったら余計に顔が熱くなった気がする…!

普段やらしいことばっかしてくる土方さんに、「ヘンタイ」とか「すけべ」とか言いまくっていたけれど、煙草臭い身体に覆いかぶされて、今現在額に触れている大きな手で
身体のあちこち触られまくったことを思い出して照れている俺のほうこそ、ほんとはすけべかもしれない。


「おい、やっぱり具合悪いのか?」


恥ずかしさから顔を見れずにいるだけなのに、土方さんが心配そうに聞いてきたので俺は首を横に振る。


…まったくこのひとは。
普段はムッツリすけべなくせして、妙なところで過保護っていうか心配性っていうか。


こーゆーのをムツ甘っていうのかな?


土方さんとこういうことになる以前だったら、「いちいち子供扱いするな!」って怒っていただろうけれど、俺のことが大切だから心配しているんだって分かってからは土方さんの優しさがなんだかくすぐったくて、怒る気なんて失せてしまった。
でも大切にされてるのがうれしくないわけじゃない。
こんな性格だから素直になれないけれど。

恥ずかしかった気持ちがだんだん和らいできたので、少しずつ少しずつ土方さんのほうに視線を戻していると、俺の寝ている布団の横でしゃがんでいる土方さんの手元に見覚えのある雑誌が転がっていた。


あの雑誌は…

コンビニで土方さんが立ち読みしていたやつだ。


…立ち読みだけじゃあ物足りなくて買っちまうほど、その雑誌の水着のねーちゃんが気に入ったんですかィ?


岩に打ち上げられたトドより、陸に打ち上げられた魚のほうがいいって言ってたじゃねぇか。
ぼんきゅっぽんなエビフライより、ぺらっぺらの魚のフライのほうが好きだから、毎日食べてるんじゃあ…ねぇの?


「どうした?」


具合は悪くないと首を振って否定したものの、それでも押し黙ったままの俺に、土方さんは不思議そうに聞いてくる。

この前土方さんに聞いたのは食べ物の好みだけで、土方さんの好みのタイプを聞いたわけじゃない。
だから勝手に怒ること自体身勝手なことだし、それに土方さんの好みのタイプにまで腹を立てるのはどうかと思うのだけど。

本当なら選ばれるわけがなかった、魚のフライ以上にぺらぺらで食べるとこのない男の俺が土方さんに選ばれた。
本当はぼんきゅっぽんなエビフライのほうがいいんじゃないかって、些細なことで、その…不安になる。
それは土方さんを信用してないわけじゃなくて…えっと、その…、ただ俺に自信がないだけなんだ。


「…水着のねーちゃんのやらしい姿見て、また鼻の下伸ばしてたんですかィ」


むっとなりながらその雑誌を睨みつけていたら、それに気づいた土方さんが「あー…、」と納得したように口の端を上げて呟く。


「何だお前、ヤキモチか?」


ニヤニヤしながら俺の顔を見てくる土方さんに、俺は顔をそらす。


「…ちがいまさァ」


口を尖らしてぽつりと否定したら、まるで「嘘吐け」とでもいうかのように、土方さんは俺の額に触れていたてのひらをぷっくり膨れた頬へと滑らせて行った。


「だから…ちがうって言ってるだろィ」


知らぬ間に膨れていた頬をニヤニヤしながら指摘されて、それがどうにも気に食わなかった俺はもう一度否定したけれど、否定した言葉とは裏腹に自然と口調がきつくなってしまった。
こんな口調だと図星を肯定しているようなものだ。
そう思うと、土方さんにそんな感情を知られて恥ずかしいとか、バカにされたみたいで腹が立つとか、いろんな感情が混ぜこぜになって余計にいたたまれなくなった。
あと一言二言、土方さんに何か言われると、爆発してしまうかもしれない。

そう思ったときだ。


「それなら俺にも違うって否定させてくれるか?」


これ以上俺をいじめたら後の仕返しが怖いと思って言い出したのかと思ったら、そうではないようだ。
「お前がいるのに水着のねーちゃん如きでそんな気起きねぇよ」
とすっごいことを口走った後に、


「せっかくお前と一緒の日に休み取ったんだ。ケンカで貴重な時間、潰したくねぇ」


土方さんはぷっくり膨れた頬から手を滑らせて、俺の髪に指を通す。
昨日まで今日が非番だっていうことを土方さんの口から聞かなかったから、今日も絶対、土方さんは仕事だと思っていた。
それだけに突然転がり落ちてきた土方さんの言葉に、俺は同じことをもう一度ぽつりと呟いていた。


「非番…なんですかィ?」


未だに目を丸くしたままの俺に土方さんが「あぁ」と頷く。

いつもだったら素直にその言葉を聞き入れなかったと思う。
だけど撫でるように何度も俺の髪に触れるてのひらが優しくて温かくて、さっき言った言葉が土方さんの本当の声なのだと素直に受け入れることができた。
それに俺だって…ケンカで時間なんてつぶしたくない。
土方さんが非番だって言うならなおさら。


「お前どこか行きたがってたみたいだし、たまにはどこかへ連れて行ってやろうと思ったんだよ」

雨でも行ける近場のとこ探してんだけど意外とないもんだな、と付け足して言った土方さんはポストイットが貼ってあるページをめくっている。


一体、どんな顔してそんなこと言ってるんだろ。


土方さんに気付かれないようにこっそり顔を覗き見ると、土方さんの両耳がほんのり赤く染まっていた。


あぁ、なんで――…

なんで、土方さんの誕生日なのに、俺が土方さんよりうれしい思いをしているんだろう。


土方さんが開いたページ以外にも、いくつもポストイットが貼ってあるのに気づいてしまって、それは俺のために事前に調べてくれてたのかな、と思ったら急に胸の中が熱くなった。
土方さんにも負けないくらい、今の俺の顔はきっと、発火している。
そんな顔を土方さんには見せたくなくて、俺は土方さんの視線から逃れるように身体をそむけて口を開く。


「別に…無理して出かけなくてもいいですぜ」


慣れねぇことして恥ずかしくねぇのかィ、って土方さんに対して思っていたくせに、口から出てきたのは思っていることとは逆の気持ち。
俺のことを甘やかしたいって純粋に言ってくるから、俺まで調子を狂わされてしまった。


「…また次の休みに連れてってくれたらいいでさァ。
今日は土方さんの誕生日なんだから、たまには土方さんのしたいことに付き合ってあげてもいいですぜ?」


たまにはゆっくり休みなせぇよ、と。

俺らしくないなって自分でも十分わかっているけれど、普段だったら絶対言葉にしない気持ちが、すらすらと言葉になってあふれてくるんだから仕方がないじゃねぇか。


「――総悟、」


さっきので余計に顔を合わせづらくなった俺が布団の中に顔を埋めようとするタイミングに、土方さんから呼び止められる。


「…なんでィ」


そう呟いたら、土方さんの手が伸びてきて、髪で隠されていた横顔を出すように、横顔を覆っていた髪を勝手に耳に掛けてきた。


ちょっと勝手に何してくれるんでィ。


髪のおかげでかろうじて隠れていたのに。
土方さんのことだから、赤くなった耳と頬をバカにしてくるかと思ったのだけれど。


「…ありがとな」



感謝の言葉と一緒に、ちゅっ、と頬に唇を落とされて、驚いた俺はあわてて掛け布団を頭までかぶってしまった。





「(…まさかちゅーするためだけに、わざわざ俺のほっぺ出したのか?)」


土方さんのキザな態度をバカにしてやりたかったけれど、混乱していた俺がそれに気づいたのは布団にこもって数分後のこと。

酸欠し掛けた俺が布団から顔を出すころには、すでに土方さんはいつも通りになっていた。


おわり


 * * *

5月5日深夜はまたあとでアップします。
それで本当に終わりです!
それにしても前回からだいぶ空いたせいか、何が書きたかったのかわからない…!
なんだかちゃんとまとめれてなくて、ありがちな終わりですみません(-_-;)

9/26追記:
ムツ甘=ムッツリすけべだけど甘いひとの意です。
ムツ甘が気になった方はサイトトップからムツ甘同盟に飛んでくださいませ〜
そして同盟に参加していただけると幸いです。

これはおまけ↓
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