俺は、彼が好きで。
彼は、彼女が好きで。
彼女は、彼が好きで。

だから俺は、彼と彼女のキューピッドになることにした。

が、これがなかなか上手くいかない。
帝人は超がつく奥手だし、杏里もそういうのが得意では無い。
俺が杏里に気があるようなフリをしてみても、帝人は困ったように笑って返すだけだ。
杏里も杏里で、「帝人のこと、どう思ってる?」と聞いても「竜ヶ峰君は良いお友達です」の一点張り。
でも頬を染めて言うあたり、やっぱり杏里は帝人のことが好きらしい。
ちなみに「俺は?」と聞いたところ、笑顔で「紀田君も良いお友達です」と普通に返された。
…この2人をくっつけるのは至難の業だな。
お互い好き合ってるんだから、さっさと告白してしまえば良いのに。

まぁ、焦っても事が上手く運ぶワケじゃない。
ここはゆっくりと確実に進めていくしかないか。
まずは2人きりで話をさせる。
それに慣れてきたら、デートをさせる。
で、帝人に告白をけしかける。
…大分遠い道のりな気がする。
気長に待つしかない、か。




そんな風に覚悟を決めていた俺とは裏腹に、事はスムーズに進んだ。
ま、もともとお互い好き同士だからな。
これで上手く行かない方がおかしい。
いやぁ、良かった。そしてお疲れ様、俺!

あれから数週間、帝人と杏里はなかなかに上手くやっているらしい。
2人共あんな性格だから、清く正しくなお付き合い。
きっとまだ手を繋ぐくらいしかしてないんじゃないか。

それと、2人が付き合ったからと言って、俺達の関係が変わることは無かった。
昼を食べるのも、帰るのも3人で(「俺お邪魔かな?」なんてふざけて言ったら、2人に「なんで?」と返された)。


とにもかくにも、帝人と杏里が幸せそうで良かった。
2人の幸せが俺の幸せ。
そのためならば、俺は自分の失恋なんて何でもない。







キューピッドはかない
(よかったね、俺も幸せだよ)