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極彩色〜over world〜

―朝特有の、柔らかくも乾いた空気と、暖かな日差しに浮上していく意識。
たゆたう体は、いまだそれを許してはいない。起き上がるのが気だるい。
時計を見れば現在…6時。

「さてと…」

一言。意味などない言の葉を落とせば、体を起こす。軽い貧血によるいつものめまい。
額にかかる髪をかき上げ、窓の外に視線を流す。まだ、目に新しい風景が広がっている。旅を・・・逃避行をしているのだから当たり前だが、時々ふと・・・全部が夢で、いつかのあの味気ない自分の部屋の景色に逆戻りしているのではと考える。

・・・馬鹿みたい

ただ、刺激を求めたあの頃はこんな日々が来るなんて考えもしなかった。
いつか聞いた《もうひとつ》を、遠く感じ・・・おとぎ話くらいにしか考えていなかった。

「麗!!朝ごはんだって!!!」

能天気なあの声の持ち主があたしの《もうひとつ》

「麗、いやな夢でも見たの?」



ふわりと近づいてくる・・・

満ちていく・・・・・・

果てしない、極彩の色


「ううん。夢なんて見なかったわ・・・・だけど、今きれいな世界なら見てるわ。」

あたしが笑えば、同じように返してくれる。

「変なの、けど・・・良かった」

「燕兎、ご飯・・・行きましょう」

あえて返事は、返さない・・・だってそうでしょう




    《もうひとつ》




なんだから。

真夜中RAIN

夜雨の湿気を含んだ空気を肌に感じながらあえて明かりを付けず、ベッドに座りちょうど横に位置している窓から、深い闇を見つめる。同じく部屋にいる薄は明かりについてなにも言ってこない。ただ隣のベッドに仰向けに転がっている。寝ているのかとふと、窓から視線を外し薄を見やれば、どうやら寝ているわけではないらしい。

―視線がぶつかる。

薄の氷のように澄んだ瞳と俺の深い紅が交わる。

「…嫌い……」

最初に視線を外したのは薄の方だ。さして興味がないとでも言うようにさっと視線を反らしながら、まるで呼吸をするように脈絡のない事を言いだす。

「…あん?」

思わず、苛立ち荒々しく問い返せば

「あはは、やっぱり馬鹿だねジュンは……嫌い…って言ったんだよ?」

ベッドの上、仰向けのまま、無防備過ぎるくらいにニッコリ笑いかけてくる薄にやっと理解する。

―あぁ、甘えてるのか―

ストンと腑に落ちた答えに納得すると同時に自然と浮かぶ笑みを隠すため再び窓の外の闇と雫に顔を向ける。

「あのなぁ、意味わかんねぇよ。」

あえて、口でそう答えながらも再び窓の外の黒と水滴から視線を戻せば、相手の横たわるベッドに近づく。

「…ジュン」

切なげに俺の名を呼ぶ声に不意にわきあがってくる…疼き。これが何かは知らないが俺はとりあえず薄の頭の横に腕を立て、静かにその口を塞ぐ。

「なぁ、止まねぇな?」

一瞬の沈黙…地面を打つ、だけの水の不協和音の後、口を離し、そう呟けば薄は無表情のままに、俺の頬を何のためらいも無しに力の限り殴り付けてくる。痛みと口に広がる鉄の味。

「嫌い」

薄は、また呟き今度こそ、綺麗に微笑んでいた。そう、泣きそうな顔で…

「知ってる。」

口の端を伝った血は薄の頬を濡らした。

…まるで、……

白の世界

柔らかい光の差す正午過ぎ、穏やかで綺麗な歌声が何処からか聞こえ、意識を夢から現実へと一気に引かれた。ベッドの上で静かに瞳を開き、声のする方角を見やれば、丁度フワリと白いカーテンが風が入ってきたことにより舞い、声の主を隠した。そしてまた風がカーテンを連れ引いた時、声の主が現れた。
窓枠に腰を掛け、どこか遠くをその瞳に映し、穏やかにそして哀しげに、幸せを祈る歌詞の歌を歌っている。
こぼれ落ちるメロディは、普段のまるで、唯我独尊のような彼からは、想像がつかないくらいに繊細で弱々しい。

けれど、俺は知ってる。
紛れもない本当のソイツがそこには居た。

まだ俺が目覚めた事には、気が付いていないのか、こちらに背中を向けたまま
「薄」は、きっと記憶という名の景色を、ここではない俺には見えないどこかを。その瞳に映している。

柔らかい風が再び吹き込み視界を白が覆う、俺の視界から薄が消える。



  ―薄が消える?―


そう思った瞬間、不意に背筋に冷たいものが走りぞっとした。

気付けば俺はベッドから飛び起き、窓枠に腰掛ける薄を抱きしめていた。

俺の腕の中で歌は、不自然に途切れその肩がビクリと跳ねる。

滑稽なくらい俺の心臓はうるさく脈を打っていた。

抱きしめた薄の身体が緊張を解き始めた頃やっと俺の頭は、冷え始めた。そして薄がゆっくり、首だけこちらに振り向いた。

交わる視線は、俺達に日常を取り戻させるのには十分だった。
…けれど、俺も薄も敢えて気付かないふりをし、非日常の中で、唇を重ねる。


フワリ…風が、世界と俺達を白で隔てる。


穏やかな時間の中、ただお互いを確認するように重ね続ける。
いつの間にか、どちらからともなく自然に繋がれた手に力を込め、薄の服に手を掛けた瞬間

―バサバサッ―

鳥が一羽、羽ばたいた。
…一瞬にして、世界が戻る。俺達を世界と隔てていた白はただの布に戻り、繋いだ手をハッと薄が離す。

刹那に薄が、まるで迷子の子供のような瞳をしていた。声をかけようとしたが薄が手を力一杯握っているのが見え、俺は目を反らした。

離れる体温に名残惜しさを感じながら、腕の力を緩めれば薄は俺の腕から抜け出した。すっと立ち上がり俺のそばに立てば、弱々しくも笑った。

「…大っ嫌いだよ。」

歪んでしまった愛の言葉を呟き、薄は再び窓の外を眺め始めた。

―いつか、あの歌をじっくり始めから聞きたいと思った―

そして綺麗に微笑む薄に、俺は遅めの昼飯を作るため立ち上がった。

―俺達はまた日常に戻る―

だから……





何故―――


昔、町の人に貰って読んだ本の一つに(あれは、いわゆるファンタジーと呼ばれるカテゴリーだったと思うが)主人公が自分が生き抜く為に敵を迷わず殺していく話があったが、読んだ時は大いにその考えに共感し、強い主人公に憧れもした。同時に自分もいざとなったらそうやって殺すまではいかずとも、戦うのだろうとぼんやり考えた。

―けれど―

いきなり、自分を襲った非日常に、正直…実際のところなに一つ出来ずに逃げだした。結局、人はそんなものだと理解した。


何故、自分が何をしたというのだろう?未だ、理解出来ず何となくぼんやり考える。イマイチ現実味がない、もしかしたら夢でも見ているのかも知れない。だが、いざ家に向かおうとすると身体が竦む。

あぁ、どうしよう…

自問自答がしたい訳ではない、意味もなく心の中で呟く。

生まれて…覚えている範囲で親という存在がいた記憶がない。このご時世、親が居ないなんて珍しい事ではない。物心ついてからも幼い頃は、ゴミを漁る生活が続いた。

そんなある日…何時ものようにゴミを漁っていた時、俺はいきなり知らない奴に襲われた。ただ荒い愛撫や息に嫌悪と吐き気だけを感じながら。抵抗すれば下手をすれば殺されるのも分かっていたから。黙ってされるがままに抱かれた。

「鳴けよ…鮪じゃあ抱いてるこっちはツマラネェンダ」

どこか遠く、男の声が頭に響く…理解出来ない、頭が働かず右から左に流れていく。ただ嫌悪と吐き気だけがあり表情もなく放心していれば、舌打ちと同時に怒鳴り声が響くしばらくしてひとしきり怒鳴った後男は俺を一発殴って何処かにいった。口の中が切れ鉄の匂いと独特な味を感じながら乱れた服を直す身体の数箇所に情事の後が残っていて眉を寄せる。それから間もなく、またあの男にあった嫌に気味の悪い笑みを浮かべながらこないだの事を、謝りたいと、金をくれた。そして、また抱かせて暮れるなら、もっと金をやると言われ、断る理由も無く了解した。だが、その際に変な薬を飲まされ散々喘がされたのは、軽くショックだった。去り際に男は大金を置いていったが俺は、心が空になった。

もう、しないと決めた。

けれど、拾った物だけでは、当然だが生きていけなくなってきた。

仕方なく、俺は色んな奴に身体を売った。
最初の時のようにただ鮪ではなく、何も感じない感覚の中、あたかも感じているように嬌声をあげ続け、無垢なふりをし、だんだん作り笑顔が上手くなっていった。

食事に困ることは無くなった。同時に心も無くなった。

そんな世界に、時代に嫌気がさし俺は、死のうと身売りも止め稼いだ金も捨てて何処ともなく、ただ歩き続けた。あれからどれくらいたったろう…気付けば知らないベットに寝かされていた。

何処だろ…ここ……

呟けば扉が開き老人が入って来た。

あんた平気かい?

心配そうに話かけてくる老人にヘニャリと笑って見せとりあえず、礼を述べる

ありがとう、おばあちゃん。平気だよ?

言えば老人は安心したのか優しく微笑んだ。不意にこの人が自分の家族だったらなどと馬鹿な事を考える。
ねぇ、おばあちゃん?ここ何処?

聞けば、知らない地名が告げられた。それからしばらくその老人の元で暮らした。びっくりするくらい町の人は優しくて穏やかに日々は過ぎた。

そして、いつの間にか俺は自然に笑えるようになっていた。

でも、もうすぐ暖かくなるというある日老人は死んだ。嘘みたいに冷たくて硬くなったその人に初めて泣いた…

嫌だ、起きてよ?おばあちゃん…なんで……

ただ、泣きながら問い続けしばらくして日がくれ、夜が更け朝になってから、俺はおばあちゃんを埋めて墓を作った。そしておばあちゃんとの思い出がつまったこの家で暮らす事にした。
やっぱり、町の人は優しくて町中で会うたび、俺を気遣って、野菜や、米、果物お菓子等をくれた毎日花を摘み、ばあちゃんの墓に手を合わせ町から少し離れた家から町に通う。しばらくすると俺は、だんだん昔じゃあ考えられないくらいに穏やかな暮らしを送れるようになった。

だから…だから俺はあの町を離れたくない、大好きで大事なあの場所に居たい。

…あっ、そうか…

そこまで考えやっと、理解する。

逃げきれば、良いんだ!
自然にへにゃりと笑顔に変わりいつもの燕兎に戻るのでした。
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