何故―――
昔、町の人に貰って読んだ本の一つに(あれは、いわゆるファンタジーと呼ばれるカテゴリーだったと思うが)主人公が自分が生き抜く為に敵を迷わず殺していく話があったが、読んだ時は大いにその考えに共感し、強い主人公に憧れもした。同時に自分もいざとなったらそうやって殺すまではいかずとも、戦うのだろうとぼんやり考えた。
―けれど―
いきなり、自分を襲った非日常に、正直…実際のところなに一つ出来ずに逃げだした。結局、人はそんなものだと理解した。
何故、自分が何をしたというのだろう?未だ、理解出来ず何となくぼんやり考える。イマイチ現実味がない、もしかしたら夢でも見ているのかも知れない。だが、いざ家に向かおうとすると身体が竦む。
あぁ、どうしよう…
自問自答がしたい訳ではない、意味もなく心の中で呟く。
生まれて…覚えている範囲で親という存在がいた記憶がない。このご時世、親が居ないなんて珍しい事ではない。物心ついてからも幼い頃は、ゴミを漁る生活が続いた。
そんなある日…何時ものようにゴミを漁っていた時、俺はいきなり知らない奴に襲われた。ただ荒い愛撫や息に嫌悪と吐き気だけを感じながら。抵抗すれば下手をすれば殺されるのも分かっていたから。黙ってされるがままに抱かれた。
「鳴けよ…鮪じゃあ抱いてるこっちはツマラネェンダ」
どこか遠く、男の声が頭に響く…理解出来ない、頭が働かず右から左に流れていく。ただ嫌悪と吐き気だけがあり表情もなく放心していれば、舌打ちと同時に怒鳴り声が響くしばらくしてひとしきり怒鳴った後男は俺を一発殴って何処かにいった。口の中が切れ鉄の匂いと独特な味を感じながら乱れた服を直す身体の数箇所に情事の後が残っていて眉を寄せる。それから間もなく、またあの男にあった嫌に気味の悪い笑みを浮かべながらこないだの事を、謝りたいと、金をくれた。そして、また抱かせて暮れるなら、もっと金をやると言われ、断る理由も無く了解した。だが、その際に変な薬を飲まされ散々喘がされたのは、軽くショックだった。去り際に男は大金を置いていったが俺は、心が空になった。
もう、しないと決めた。
けれど、拾った物だけでは、当然だが生きていけなくなってきた。
仕方なく、俺は色んな奴に身体を売った。
最初の時のようにただ鮪ではなく、何も感じない感覚の中、あたかも感じているように嬌声をあげ続け、無垢なふりをし、だんだん作り笑顔が上手くなっていった。
食事に困ることは無くなった。同時に心も無くなった。
そんな世界に、時代に嫌気がさし俺は、死のうと身売りも止め稼いだ金も捨てて何処ともなく、ただ歩き続けた。あれからどれくらいたったろう…気付けば知らないベットに寝かされていた。
何処だろ…ここ……
呟けば扉が開き老人が入って来た。
あんた平気かい?
心配そうに話かけてくる老人にヘニャリと笑って見せとりあえず、礼を述べる
ありがとう、おばあちゃん。平気だよ?
言えば老人は安心したのか優しく微笑んだ。不意にこの人が自分の家族だったらなどと馬鹿な事を考える。
ねぇ、おばあちゃん?ここ何処?
聞けば、知らない地名が告げられた。それからしばらくその老人の元で暮らした。びっくりするくらい町の人は優しくて穏やかに日々は過ぎた。
そして、いつの間にか俺は自然に笑えるようになっていた。
でも、もうすぐ暖かくなるというある日老人は死んだ。嘘みたいに冷たくて硬くなったその人に初めて泣いた…
嫌だ、起きてよ?おばあちゃん…なんで……
ただ、泣きながら問い続けしばらくして日がくれ、夜が更け朝になってから、俺はおばあちゃんを埋めて墓を作った。そしておばあちゃんとの思い出がつまったこの家で暮らす事にした。
やっぱり、町の人は優しくて町中で会うたび、俺を気遣って、野菜や、米、果物お菓子等をくれた毎日花を摘み、ばあちゃんの墓に手を合わせ町から少し離れた家から町に通う。しばらくすると俺は、だんだん昔じゃあ考えられないくらいに穏やかな暮らしを送れるようになった。
だから…だから俺はあの町を離れたくない、大好きで大事なあの場所に居たい。
…あっ、そうか…
そこまで考えやっと、理解する。
逃げきれば、良いんだ!
自然にへにゃりと笑顔に変わりいつもの燕兎に戻るのでした。