―朝特有の、柔らかくも乾いた空気と、暖かな日差しに浮上していく意識。
たゆたう体は、いまだそれを許してはいない。起き上がるのが気だるい。
時計を見れば現在…6時。
「さてと…」
一言。意味などない言の葉を落とせば、体を起こす。軽い貧血によるいつものめまい。
額にかかる髪をかき上げ、窓の外に視線を流す。まだ、目に新しい風景が広がっている。旅を・・・逃避行をしているのだから当たり前だが、時々ふと・・・全部が夢で、いつかのあの味気ない自分の部屋の景色に逆戻りしているのではと考える。
・・・馬鹿みたい
ただ、刺激を求めたあの頃はこんな日々が来るなんて考えもしなかった。
いつか聞いた《もうひとつ》を、遠く感じ・・・おとぎ話くらいにしか考えていなかった。
「麗!!朝ごはんだって!!!」
能天気なあの声の持ち主があたしの《もうひとつ》
「麗、いやな夢でも見たの?」
ふわりと近づいてくる・・・
満ちていく・・・・・・
果てしない、極彩の色
「ううん。夢なんて見なかったわ・・・・だけど、今きれいな世界なら見てるわ。」
あたしが笑えば、同じように返してくれる。
「変なの、けど・・・良かった」
「燕兎、ご飯・・・行きましょう」
あえて返事は、返さない・・・だってそうでしょう
《もうひとつ》
なんだから。