夜雨の湿気を含んだ空気を肌に感じながらあえて明かりを付けず、ベッドに座りちょうど横に位置している窓から、深い闇を見つめる。同じく部屋にいる薄は明かりについてなにも言ってこない。ただ隣のベッドに仰向けに転がっている。寝ているのかとふと、窓から視線を外し薄を見やれば、どうやら寝ているわけではないらしい。

―視線がぶつかる。

薄の氷のように澄んだ瞳と俺の深い紅が交わる。

「…嫌い……」

最初に視線を外したのは薄の方だ。さして興味がないとでも言うようにさっと視線を反らしながら、まるで呼吸をするように脈絡のない事を言いだす。

「…あん?」

思わず、苛立ち荒々しく問い返せば

「あはは、やっぱり馬鹿だねジュンは……嫌い…って言ったんだよ?」

ベッドの上、仰向けのまま、無防備過ぎるくらいにニッコリ笑いかけてくる薄にやっと理解する。

―あぁ、甘えてるのか―

ストンと腑に落ちた答えに納得すると同時に自然と浮かぶ笑みを隠すため再び窓の外の闇と雫に顔を向ける。

「あのなぁ、意味わかんねぇよ。」

あえて、口でそう答えながらも再び窓の外の黒と水滴から視線を戻せば、相手の横たわるベッドに近づく。

「…ジュン」

切なげに俺の名を呼ぶ声に不意にわきあがってくる…疼き。これが何かは知らないが俺はとりあえず薄の頭の横に腕を立て、静かにその口を塞ぐ。

「なぁ、止まねぇな?」

一瞬の沈黙…地面を打つ、だけの水の不協和音の後、口を離し、そう呟けば薄は無表情のままに、俺の頬を何のためらいも無しに力の限り殴り付けてくる。痛みと口に広がる鉄の味。

「嫌い」

薄は、また呟き今度こそ、綺麗に微笑んでいた。そう、泣きそうな顔で…

「知ってる。」

口の端を伝った血は薄の頬を濡らした。

…まるで、……