『ここが、アリルの自邸だ。注意すべきは、アリルの弟のミロアと、お父上のダリアン様だ。後は、“ファ.ラーレ”のリティルかな』
『ファ.ラーレ?』
聞き慣れない単語に首を傾げる。
(それにしても…。凄いお城。今更だし当たり前だけど、立派なお家柄なのね…)
ふわぁ…。とアリルの自邸を見上げる。
エリュージャル王国の現女王である自分ですら、見惚れる程の立派な佇まいだ。
その若き当主であるアリル。
改めて存在の凄さに恐れ入る。
『どうかしたか?』
『い、や…。いや、なんでもない!続けてくれ』
急に黙り混んだセリアに気遣わしげな視線を送るジャミル。
ハッと正気に帰ると、顔の前で両手を振り話の続きを促す。
『ファ.ラーレってのは、オレ達のまわりで言う所の、“護衛、教育係、側近”の三役をこなす存在だな。
彼女は、ヴァリス家に仕える者の中では特に近しい存在だな。
ついでに言うと強くて美人だぞ』
『びじん…?』
ポカンと返した言葉に、大きく頷く。
『ああ!知的美人と言うのかな。
うちのファ.ラーレもあんな美人だったら良かったんだよなー。うちは残念ながら野郎だからな〜』
ちぇーっと唇を尖らせながらボヤくジャミル。
どうやらファ.ラーレの役職に就けるのは、一家に一人らしい。
『アリルのまわりには美人が多いんだな…。ティニアやラケディアや、そのリティル…。
そう言えば、アリルが連れてきてくれたレイチェルも美人だったな…』
そうか美人と知り合う事が多いから、自分なんかにも優しくしてくれるのか。
自分は、逆立ちしても美人とは程遠い容姿だから、憐れにでも思ったのか…。
そう思うとなんか胸の奥がザワザワして来た。
選り取りみどりでモテモテだから、余裕がある。
だから、私にも優しくしてくれるの…。
−…そう、そうなの…。
(満月の夜の約束も、もしかしたらその程度のものなのかな…)
喉の奥がカッと熱くなった。
泣いてる場合じゃ無いが、何かが込み上げて来る。
(アリルのバカ…!)
ジャミルが心配しているのはわかるが、何とも言えない気分は押さえられなかった。
しばしの沈黙が、二人を包む。
不意に、頭上から『兄上?』と声が聞こえてきた。
声のした方を見やれば、どうやら出先から帰って来たらしいミロアが馬上から不思議そうに見ていた。
(彼がもしかして弟の…!)
『ミロア!』
ジャミルの声で予想は確信に変わる。
アリルとは若干異なるが、サラサラの水銀色の長髪をポニーテールにしている。
アリルの優しそうな瞳とは違い、少し気の強そうな瞳を持つ。
アリルと同じくらい細いが、服の上からでも引き締まってるのは分かる。
(何、この美形揃いの兄妹はー!)
目の前のミロアに見惚れるのも如何なものだが、そもそも兄弟揃ってカッコいいのが困る。
ラケディアもビックリする様な可愛らしさだった。
そう言えば、母のプリムも美人だった。
子供達が美形揃いも納得だ。
『何、人の顔をジロジロ見てんだ?どうかしたか?』
『いや!何でもない!』
不審そうな視線を投げられるも、乾いた返事しか出来ない。
(ジャミル神も格好いいし…。凄い環境よね…)
軽い目眩を覚えながら、ふらふらとミロアに続いて入城する二人であった。