家に帰り、庭で稽古を始める輝真。
どうやら今日は道場は休みのようだった。縁側から稽古を見守るのは、父‥輝彦。
かなりの空手家として知られた人物である。
飛田家は父一人母一人兄一人妹一人の典型的な四人家族である。
うち、母を除く三人に空手の心得がある次第であった。
ともあれ一心不乱に正拳を繰り出し続けている輝真。
額には汗が光っている。
見守る父は悠然としているようにも、真剣そのものにも見えた。
ふと父…輝彦が口を開く。
(大分汗をかいているな)
それだけ言って口をつぐんだが。
輝真は父に黙って印を切り、庭の水道で口を濯ぐ。
(かなり根詰めてたな)
輝真の心象である。
‥傍らには、蝉が鳴いていた。