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光 3/4

時々、時々やけど俺は坊が疎ましぃて仕方のないときがあるんや。多分やけど嫌いなんとは違うんやと思う。ただ、志摩。そう、志摩という名が、立場が原因なんや。
小さい時から、坊のため、勝呂のためにと育ってきた。兄たちは、まだいいほうだ、俺など歳が同じなため常に坊の側にいなければいけなかったのだから。下手に坊が怪我などすれば、酷く叱られ、危ないときでさえ真っ先に父は坊の身を案じた。
だが、俺が坊に抱いたのは恨みではなく、恋慕、そして畏怖だった。幼なじみとして、彼の側にいた。物心など突く前から。…だから、嫌というほど見てきた。他人にも自分にも厳しい、その姿を、幼いながらに必死に辛い道を進み傷ついた姿も、本当は顔に似合わずとても優しいことも。そんな彼だからこそ、俺は嫌いになったりはできなかったし、守りたいと思ったのだろう。
だが、ふとした瞬間に思うんや。(それは、俺や子猫さんがいるからやろ?)と。坊は、常に真っすぐやけど時に、本人は自覚などないのだが自分が行動する時に俺や子猫さんが一緒に行くのは当たり前だと思っている節があり。平気で行くぞと声をかけてくる。そんな姿を見ていると、ふと(一人で行ったりどうですのん、坊?)等と吐き捨ててやりたくなる。坊の言葉に従うのが嫌なわけじゃない。むしろ逆だ。坊に従うのは楽だ。それに彼の傍は心地がいい。だからこそ、あえて言ってみたいのだ。多分、その言葉を聞けば坊は信じられ無いものを見るように俺を見、なに、言ってるんや志摩…と、そう不安そうに言うのやろ。簡単に想像できてしまう自分が……

「……摩、しまっ!」

目を開ければ、そこにはムスっとした表情の坊がいた。

「なに、寝とんねん!早よぅ起きな置いてくで。」

どうやら、祓魔塾の放課後寝てしまったらしい。外はすでに暗くなり初めていた。

「なんで、待っとってくれたりしたんです?…叩き起こすなり、置いて帰るなりあったやろ」

自分でも、おかしいと思った。建前、笑顔、なぜかうまくできないのだ。俯き唇を噛んだときだ、頭に温かい感触を感じ思わず顔を上げれば、なんちゅー顔してんねや。とへたくそに微笑んだ彼に頭を撫でられた。筋張った指に撫でられている内に、まるで付き物が落ちたように、さっきまでの黒い感情が無くなれば不思議と、顔が緩んだ…

「坊、見苦しいとこすいませんでした。」

自然と出た謝罪に自分でもびっくりしながらも、久しぶりに思い出した、懐かしいあの日の感情に、心は救われた。

Firststage 悪夢の始まり

ある晴れた日

―バサっ

布のはためく音にまぎれ脳天気な声がします。

「んーいい天気!洗濯日和♪」

言いながら、陽気に鼻歌を歌い出した彼が『燕兎』(えんと)です。
見た目は、良く言えば優しい感じ、悪く言うなら頭が悪そう。実際、彼…あまり頭が良くないんですよ。
…と、まぁそんなの見てれば嫌でも分かると思いますが…

―ビュゥー

その時、強い風がふき…

「あっヤバイ!倒れるたおれ」

―ドサっ、バラバラ

いきなりの風に物干し竿が倒れてしまい洗濯物は泥だらけ。

「……最悪だ」

燕兎は小さく呟くと…

「仕方ない♪」

アホ面で笑い…

「なかった事にしとこっ♪」

そのまま、家の中に戻ってしまいました。


ちょうどその頃、

「……では、次に、…燕兎について」

暗い部屋の中、周り一面をスクリーンのような物がばらばらに違う映像を写しているが、すべて映し出されている人間は同じで…その中の一つが先程の燕兎を写しだしている…

「彼につきましては、殺さないようにとルカ様がおっしゃっています」

…部屋の中スクリーンだけが唯一の光なので、顔を見分けるのも困難なこの状態で、彼女は涼しげな顔で手元の資料を見そう告げる。
綺麗な長い金髪を後ろで結び、黒いかなり細身のスーツに身を包んでいる彼女は、しかしそれでもまだ布が余ってしまう位やせている。


「っおいおい!?まさか、その『えんと』ってのはこいつじゃねぇだろうなぁ!」

暗闇の中いきなり、ものすごい態度で質問してきたのは、この中でも1番の不良問題児、見た目はまぁまぁなのですが…性格はひと昔前のヤンキーそのもの…

「……では話しを続けます」

「っおい、テメ!リンイ喧嘩売ってんのか!!あぁ!?」


…『リンイ』というのは、さっきの彼女の名前です


「…プッ…アハハ!相変わらずだね『ジュン』は♪」

「あぁ!?死にてぇのか『薄(ハク)』」

どうやら、このヤンキーぽいのはジュンというらしいです

「プッアハハハハ!」

薄と呼ばれた「少年」と言っても見た目からして18〜19才ですが…。切れたジュンの言葉を聞き弾けるように笑った後、一瞬物凄い殺気を放ちながら…

「……僕の事、殺せるとでも思っているの?」

笑顔で問いかけ…

瞬間いつもなら、食い下がるジュンが珍しくたじろぎ…

「柄にもなく切れてんじゃねーよっ」

言って軽く舌打ちをし、少し大人しくなりました。…薄は基本いつも笑顔でへらへらしているのですが切れると怖いのです。ちなみにかなり中性的な顔をしているので機嫌の悪いときに女と間違えようものなら殺されかねません。

「えっ?別に切れてないよ?」

飄々と言い放つ薄に対しジュンがまた怒鳴り始めます。

「…あのな…それが切れてるってんだよ」

言って溜息をつくと、ジュンは歩き出しました

「おい!見てろよ薄!!お前より先にあのチンチクリン捕まえてやるからな」

そして、一瞬一つの影が揺れ、消えてしまいました

「見てろよって……僕だってとりあえず捕まえに行くんだから無理言わないでよね」

微笑み、いつも通りの軽い口調でごちた後

「ルカ様に、この僕が必ずって言っておいて下さいね」

リンイに言づてを頼みまた一つ影が揺れ消えます。

「いってらっしゃい…ご健勝を祈りますわ」

最後にリンイの事務的な声が響きました


あ〜あ洗濯物どうしよう?ぼんやり考えていると

―コンコン―

ドアを叩く音をが響き燕兎はドアを開けました。

「やぁ、こんにちは。君は燕兎君だね?」

穏やかに問い掛けてきたその人に一瞬、燕兎は戸惑います…

「あのさ……あんた女?ってか誰!?」

目の前の人物はひどく驚いた顔をしてから

「あぁ、挨拶が遅れてしまったね?僕は『薄』」

言ってニッコリ微笑んできました

「………?」

燕兎は未だに状況を理解していません。

―あーあ、ルカ様がおっしゃるからどんな奴かと思えば………ただの馬鹿じゃん―

心の中で毒づき、薄はどうしようかと考えていました。

―っていうか…………

「僕、とりあえず男だよ?」

困ったように笑いながら薄が答えると

「嘘っマジ?ぅえっと…ゴ、ゴメンっ!!」

燕兎がテンパりながらも申し訳なさそうに謝まってきました。

―ん〜…普通、初対面の奴が自分の名前を知ってたら警戒するんだけどね〜?―

謝る燕兎を尻目に薄はそんな事を考えていました。

「あのさ…」

このままではきりがないと薄はおもむろに口を開き

「僕、君を

“ 殺し”に来た

んだよ。」
一言、顔色も変えずにつげます。

燕兎は一瞬なにを言われたのかわからず、固まります。

「あのね、僕のとても大事な人が君を“殺せ”ってだから…「オイ!…独り占めしてんじゃねぇよ薄!!」
薄は、気にする事なく話を続けようとしたのですが、荒々しい声に遮られてしまいました。
少し、驚きながら振り返り見遣るとそこにはジュンが立っていました。薄の向こうでは、燕兎もジュンを見ています。

―もう、何がなんだか…
ぼやく燕兎の嘆きを余所に
…悪夢は無常にも、始まったのでした。

2ndstage 逃走

「それに、殺すなっていわれてんだろーが!」

少し、苛立ちの交じった声で薄の言葉を否定すれば明らかに、がらの悪そうな男は薄から視線を燕兎に移し…

「ただし……怪我をさせるな……とは、言われてねぇっ…!!」

冷酷な色を特徴的な紅い瞳に宿せば、口角を吊り上げ物騒な笑顔を浮かべ、そうつぶやき、一瞬の後、薄の横に並べば燕兎に向かって、鮮やかな動きで拳を振り下ろそうと………

「…ダメだよ?」

一切の、感情がこもっていない…けれど、軽やかな声が響き…

「っ!?…がっ!」

ゲホゴホと鳩尾を押さえ、ジュンの長身が崩れ落ちてい地面にジュンの吐いた血が飛び…

「……っひ…!」

あまりの出来事に燕兎は小さく悲鳴をあげるが、薄はそれを無視して…ただ、怖いくらいに綺麗な笑顔を浮かべ、座りこみ鳩尾を押さえているジュンの側に自分もしゃがみ顔を覗き込み視線を合わせれば

「ジュンが、いけないんだよ?僕以外の奴にあんな視線を向けるから…」

「っ、…ンの馬鹿……!!こんな時に発作起こしやがって…!」

―…なきゃ……逃げなきゃっ!!

そのまま、訳の分からないまま気付けば燕兎は弾かれたように走り出していました。

…っはぁはぁ

一体何処まで走ったのか、気付けばいつもの町を通りすぎ知らない町に来ていました。

―さっきのは一体!?

今だ混乱する頭に先程の事が頭を過ぎります。

「…も、嫌だ……っ!?」
―ストっ…じゃらじゃらじゃらじゃらら…

呟いた瞬間、軽い着地音と遅れて鎖がこすれる音が鳴り響き、唖然としていれば目の前には小柄な女の子が立っています。首には鎖、紅い髪は肩ぐらいの長さで紅い瞳が目を引く。少し浮世離れした……じっと観察していればいきなり女の子が飛び掛かって来ます。

「うわぁっ!!」

咄嗟に目を閉じ来るであろう衝撃に構えていると………

―あれ?

しばらくしてもいっこうに来ない衝撃にうっすら目を開くと…

―…誰?

長い綺麗な金色の髪の青年が自分の鼻先まで迫っていた、少女の鎖を引き、とめていたのです。

「…リール、ダメだって」
青年はこめかみを空いてる手で押さえながら、

「ごめんね?びっくりしたでしょう?この娘はリール。悪い癖でなんでも食べるんだよね」

言いながら青年は苦笑いです。…そんな軽い問題じゃないと思うのですが…
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