第一章:双子の姉妹-4
「難しい話をしているのねぇ。そんなに落ち込まないのよ。きっと天使様があなた達を守ってくださるから!」
状況を理解していないおばあさんは明るく二人を励ました。
「落ち込むなですって!?こんな訳の分からない異世界に来て、落ち込まない方がおかしいわ!何よ天使って!どうしてロープが勝手に動くの!?もう嫌!!この世界は意味不明よ!!」
「紅華、落ち着いて!」
席を立ちおばあさんを睨む紅華を雪乃は押さえた。興奮した紅華は雪乃の腕を剥がそうともがく。
「あなた達、天使様を信じていないの?」
魔女はきょとりと目を丸めた。魔女の素っ頓狂な声に雪乃も紅華も動きを止める。目を丸める二人に魔女は微笑んだ。
「天使様はいるのよ。この世界は、あなた達からみたら不思議な世界のようね。でもね、この世界では普通なのよ。天使様もいるし、妖精だっているわ。そして魔女も魔導師もいて、魔法も存在するのよ」
「そうよ、天使様はいるの。それに、あなた達はもう天使様に助けられているのよ?信じないだなんて失礼だわ」
魔女の言葉に続きおばあさんも頷いた。天使がいるという話が本当なら、二人が崖に落ちなかったのは天使の加護があったからなのか。
「…私達が山賊から逃げられたのは…天使様のお陰?」
「そうかもしれないわね」
「でも、どうして?どうして天使があたし達を助けてくれるの?」
「あなた達が双子だからよ。あなたが姉で、あなたが妹のようね」
魔女は雪乃を姉と、紅華を妹と言い当てた。魔女に頷いて、双子と言われて首を傾げる。双子が何か特別なのだろうか。
「この国にはね、双子の姉妹は平和の象徴という言い伝えがあるの。だから双子の姉妹は大切にされるのよ。双子はなかなか生まれない貴重な存在だからね」
双子は平和の象徴と聞き、目眩を覚えた。それは錯覚ではなくぐらぐらと視界が揺れ体が熱くなる。雪乃は額を押さえ、紅華はテーブルに肘を突いた。体の熱が引いていき目眩が収まっていく。
「まぁ…」
「あらあら、凄いのね!私、あなた達と友達になりたいわ!」
魔女は驚きおばあさんは歓喜した。一体何が起きたのかと思い雪乃は紅華を、紅華は雪乃を見た。互いを見つめ合った二人は驚愕した。二人の髪はカラーリングされ栗色の髪をしていた。けれど二人の髪は元の黒髪に戻っている。それだけでなく顔も少しばかり幼くなり、小さかったはずのおばあさんの服が丁度いいサイズになっていた。
「…え?」
「雪乃…足、見せて」
紅華は雪乃のスカートを捲った。悲鳴を上げる雪乃に構わず太股を直視して、言葉を失った。雪乃の左足には傷があった。十七歳の頃に車に轢かれかけた紅華を庇い出来た傷なのだが、その傷がどこにもなかった。黒髪に、消えた傷。雪乃と紅華の体は十六歳の少女に戻っていた。驚愕する二人に魔女は話した。
「あなた達は本来この世界の者ではないわ。でもこの世界に存在してしまったから…何か、都合がいいのかしらね。あなた達がこの世界で生きていけるように、あなた達の時間が戻ったのかもしれない。これは本当に有り得ないことよ。きっと天使様の…いえ、神のご加護の元にあなた達はいるのよ」
そう語る魔女の言葉は二人に届いていなかった。雪乃は魔女を見つめながら放心し、紅華は涙を浮かべ唇を噛みしめている。
「ねぇ、ねぇ。私達、お友達になりましょうよ!」
状況を理解していないおばあさんは放心する雪乃の手を握った。
「…友達?」
まだ放心しながら戸惑う雪乃を庇うように、魔女はおばあさんにお茶を頼んだ。おばあさんが台所に立つのを見届けて口を開く。