!微妙なびーえる注意





「なぜマフィアは復讐を誓う輩の家族を根絶やしにするのか知ってるか?」



アーサー・カークランドは口端を上げる。


その意外にもしなやかな手に握り締める、物騒なものとは釣り合わぬ、穏やかな口調だった。



まるで赤ん坊に子守唄を聴かせるように、その表情は甘美で、甘ったるい。




「情報の漏洩を防ぐため、ファミリーの恐ろしさを骨の髄までわからせるため。お前めマフィアの端くれだったんだ。わかるよな」



かち、と安全装置を外す耳障りな音がひびく。


アーサーの前にひざまずく男にとって、その音はまさしくあの世へのスタートを物語った。




自分の死を前に、恐怖に震え嗚咽をもらしだした反組織派であるらしい男は、アーサーを見上げる。


もはや命乞いをする気勢も残っていなかった。



「みっともねえぜ。なあ同士よ、いや。元同士だな。テメエはボスを裏切った。いいか、裏切ったんだ。つまりボスを悲しませたんだ」


そいつは、俺に銃を向けたことと同じことを意味するんだぜ、とアーサーは言う。


「つまり、今俺がお前にしていることだよなあ。だが、さっき言った通り、お前がしたことを考えれば正当防衛ってやつだ」



「っう、…アーサー、頼む…!」



「頼む?何を頼むってんだ?自分の立場ってもんを理解しようぜ、兄弟。ああ、元兄弟か」



またやっちまった、と息をつき、アーサーはまるでインターホンを押すかのように自然に引き金をひいた。こんにちは、アーサー・カークランドですけど、お宅新聞とってます?−ーー












シン、とした空気の中、硝煙と、死体。




仕事後の一服をしていたアーサーの背後に、大柄の男が近寄る。


俺はヒーローだからね、が口癖な、あの癪なメタボだった。



「なぜマフィアは復讐を誓う輩の家族を根絶やしにするのか、だったかな?」



テキサスとかいうふざけた名前の眼鏡を押し上げ、男、アルフレッド・F・ジョーンズはせせら笑った。



アーサーは思う。「毎度毎度と、この男はなぜこういったタイミングで出てくるのだろう?」と。



歯を噛み締め、持っていた煙草をその、つい先程目の前の人間を"死体"に変えた指から落とし、足で踏みにじる。



「理由は簡単さ。それは君達が臆病すぎるから」


耳障りな言葉はアーサーの怒りを擽る。
アルフレッドの言葉はいつもそうなのだ。 殊更、彼の鋭くも人の心を踏みにじる、空気を読まぬそれは、哀しい程アーサーの心をえぐる。




「…どういう意味だよ」


「そういう意味だよ、アーサー。君達は、殺した人間のおかげで生まれる未来に恐怖してるんだ」


アーサーが眉を寄せる。



「一家の大黒柱を殺したとしよう。妻は君達を恨む。子供も教育されるよ。パパはマフィアに殺されたのよって。
妻が君達に銃を向けるかもしれない。子供達が復讐を誓って、成長した後君達に向かってくるかもしれない」


「…………」



「君達はそれを恐れ、それを回避するために、何が理由で殺されるかもわからぬ人々をもあやめてしまう」



その海色の瞳は、 今や射抜くかのように、鈍くぎらつく。
まるで肉食獣のようだった。







「…それで?そんな臆病者を、いつも逮捕できるタイミングで現れないのは、何でだよ」



「俺もそれが辛くて仕方ないんだよ」



辛いだと?辛いのは完全に自分の台詞だ、とアーサーは独りごちる。



「君みたいな、蟻の巣潰しに必死になるゲスをいつまでも捕まえられない自分にも、そろそろ辟易としてる」



「だから!」



「捕まえたくても捕まえられない理由は、君だって知ってるだろう」



君を捕まえられるなら、俺はうちの上司に尻を差し出したっていいな、と、燃えるような感情を押し隠すかのごとく、アルフレッドは軽口を言う。





「僕はいつまでも君を野放しにはしないよ、アーサー」




その異常なまでのしつこさに、アーサーは安堵を覚えてしまう。それに気付いたのはいつだっただろうか。



アルフレッドを欲する自分。


その剥き出しの、燃えるような視線を独り占めし、そしてその整った顔にキスを。


そんなことを考える自分が、ひどく惨めで、空気の読めぬ感情に思えた。
気持ちに正直になればなるほど、それは顕著で。


アルフレッドとのいたちごっこを、楽しむわけではないが、どこか大切に思っていた。



それが、いつの日か失くなり、二度と、彼のその瞳を目に入れることがなくなる日がくる。確実だ。




彼か自分か、どちらかが消えることはわかりきっているから。



END.


実は両思いだったり


すればいいな!なんというありがちな^^^