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篭の鳥 -第四羽-3

内線のボタンに、手を伸ばす。
「カルロ、教えて欲しいんだ、来てくれないか?」
昼夜問わず忙しいキースにいつか尋ねるよりも、今、この違和感を取り除きたかった。


「なん、だって…?」
そう間を置く事なく入室してきたカルロの説明を聞いたバーンは、衝撃に言葉を詰まらせる。
眠っていたというこの二年間で、世界がこんなに―――サイキッカーにとって最悪な変貌を遂げていようとは…。
それこそ、天地がひっくり返るような…悪夢の歴史。
サイキッカーの存在が、白日に晒され。
一般人による、能力者狩り。
絶対個数の少ないサイキッカーは、人類という数の暴力の前に分断され塵芥のように翻弄されている。
そんな中、
身を守る事もできないようなサイキッカーにとって、NOAは生き残る為の最後の箱船……。
もはや、人類との共生などと言っていられるレベルでないのかも知れない。
《君は、サイキッカーだ。これ以上無い程に…》
ブラドの言葉を、痛感する。
確かに自分は、サイキッカーだ――例え、力のない人間だった時の方が、圧倒的に永くとも。そして、力を喪っていようとも。
バーンは、能力の有無拘わらず人類皆仲良くしたいと願っていたが、自分達の存在を犠牲にしてまで…という自己犠牲的精神など持ち合わせていなかった。
ごく現実的でかつ建設的に、自分の幸せがあってこそ、である。
《バーン、何故…理解しない! それが、我々サイキッカーの生き残れる唯一の手段だということを!》
キースの悲痛な訴えが、鮮烈に蘇る。
それなのに、キースは、俺の為に世界を変えようと―――?
右手で顔を覆う。目頭が熱い。だが、頭の芯は冷えきっていた。
ややあって、バーンは、絞り出すように、ようやく返答する。
「……俺は、何も知らない愚か者であることが、解った」
「そんなことは…」
「俺こそが、この時代に考え方をシフトさせないと…いけないようだな。カルロ、数日考えさせてくれ……」
カルロは、黙礼して、退室した。
厚い情と強い正義感――彼の彼たる所以が、今、大きく揺さぶられている。この衝撃は、今この時でどうにかできるものではないだろう。
彼は、紛れもなくキースの片翼。少なくとも、キースはそう願っている。
自分の軽慮のせいで、あのような事になり、言える立場ではないのは、重々承知だが、
彼の優しさに今一度つけ込むならば、こう願わずにおらえない。
願わくば、真に、キースと心を合わせ、超能力者の未来に飛躍と希望の光を……。

篭の鳥-第四羽-2

「それはないよ、バーン君」
思ってもみない強い口調に、バーンは驚いてブラドの赤い瞳に身体ごと向き合った。
ブラドは、唯々穏やかな視線を逸らさないまま、バーンに告げる。
「君は、サイキッカーだ。これ以上無い程に」
断定の言葉。
それは、少なくても、ブラドにとって紛れもない真実であった。
「みんなそれぞれ、こんな能力を持つ意味は、あったと思う。だけど、君は誰よりも大きな意味を持っている…超能力者になるために生まれてきた人だよ」
ブラドのそれは、あの狂気であった――しかし、彼は、違う。
バーンの言葉が指しているのは、半分以下の事柄にしか、過ぎない。
「……そう、か」
不意に、彼の視線が逸らされる。
ブラドに気圧されたのでは、ない。
「じゃあ、またね、バーン」
「あ…あ……」
作業に戻る彼の背に、傷ついた鳳翼を視た。キースとの間に、何か大きな事柄があったのだと想像はついた。
だが、それでも真実は変わらない。
バーンは、ブラドの瞳の奥から真実を掴むのを、無意識に恐れたのだ。

――――キースの半身たる、自らの運命を。

バーンは、午後からの作業を中止し、キースとの共有スペースを抜け、自室の端末から調べ事をしていた。
《NOAの住民は増える一方なのにな》
この同僚の言葉に、ひっかかりを覚える。
カルロの統括していた『新生NOA』が、どんな組織であったかは知らない。だが、キースの信望者である彼の元で大きな変革があったとは思わない。実際、今回の方針転換に対し、旧幹部達の反応は保守的で批判的である。
で、旧NOAだが、まだ方針の固まりきっていない幼い組織というのもあったが、掲げる思想は、あまりにも幼く排他的で、なおかつ無理のあるものであった……
サイキッカーも人間である。
少し考えれば、第二・第三のバーンなんて直に現れる。
なのに。
「これは、どういうことだ…」
端末が示すNOAの人口は、確かに右肩上がり。
組織の記録を手繰ってみても、バーンの名前の以降は、ウォン・ガデス…僅か数名が一握りの者を連れ出て行ったのみ。その数名が強力な能力者であるのが、手痛いといえばそうだが―――

篭の鳥 -第四羽- (書きかけ)


NOAの組織刷新は、始め、順風満帆というわけにはいかなかった。
さもありなん。
この新生NOAは、実質上、カルロが取りまとめていた創生NOAとは別の組織である。
当然、カルロを頂点とした幹部クラスの者もいて、ささやかながらも地位や特権も享受していた。
それが、突然、救世主はともかく、共に天(あま)下ってきた新幹部達にその座を明け渡す事になってしまったのである。
もちろん、カルロもそれを了とした上で、これまでの功績は十分評価し、それに応じた恩赦や名誉職を与え、新組織が軌道に乗れば呼び戻す算段であった。
しかし、NOAの中心で運営していたという実感からは暫し遠ざかることになるのが、実状。それが、気に食わなないという者が出るのも無理のない話である。
まだ、マスター・オブ・ウインドたるウェンディーは、良い。サイキッカー達は、まだまだ実力主義であるところがあるから、強力な能力者が上位につくならまだ納得もいった。
だが、救世主の傍ら。
バーン・グリフィス――誰しもが知る最大の敵マスター・オブ・ファイヤーが、よりによって我らの救世主たるキース・エヴァンスの御側にはびこり、幹部待遇を受ける事など我慢ならないと内心思う者は、枚挙に暇がなかった。
しかも、今の彼は能力を喪った、人間同然というではないか……!
そう、NOAの新しい戦略『人間との共和も視野に入れる』というのも、気に食わない。その象徴としての人事だと言われるのも更に拍車をかける。
だが、キースはその心情を十分理解しながらも、その点だけは譲らなかった。まだまだバーンの存在を必要とする弱い自分を自覚していた。
それを下手に譲歩して倒れてしまっては本末転倒というものである。

それに、彼と約束した。
自分の創る世界を、見せる。と。
もう、とても友とは呼び合えない間柄になったとはいえ、それは二人の間にある、大事な約束だった。
バーンが全て――この真実を弱さごと受け入れれば、それすら揺るぎない強さになる。

新しいものを取り入れる時、必ず抵抗が起こる。新しい船出の舵取りは、とても難しかった。
特に、人間との共和……今までのNOAで選択肢としてすら存在していなかった分野に関し、船は度々座礁した。
「足下を見られているなあ…」
思わずキースが、ぼやく。
共和の足がかりにする相手にと、様々な人間の組織に打診してみるが、弱体化したNOAの苦し紛れと見られ、Noと言われるだけならまだ良い方で、こちらの力を悪用しようという下心を隠しもしないものすらあった。
―――人間め! つけあがりおって! やはり滅ぼしてやろうか?
というのが、大きな力を持つサイキッカー達の本音であろう。
キースとバーンの手前、口に出す者はなかったが、その精神構造は、人間もサイキッカーも変わろう筈もない。
最初の一歩すら踏み出せない膠着状態が月単位で続くと、さすがに会議は段々と苛立ちの色を帯び、きな臭くさえなってきた。


そんな、ある日の事だ。
「…このままでは、NOAが元の木阿弥に戻っちまう…」
「何か、言ったか?」
「いいや、芽の発育があんまり良くないな…って」
「ああ…NOAの住民は増える一方なのにな」
平時のバーンは、私服を着てNOAのメインファームで農作業を勤しんでいる。
食物がなければ、人間は生きていけない。今のバーンに出来る精一杯の仕事だ。
そして、それだけでなく。
このような作業は、政戦両方の意味で戦えない人々に割り振られる――つまりは、組織の末端にあたる人々とたわいも無い話をして交流をしながら、その本音を知るのにも良い。
勿論、バーンの素性を知る者はここに無い。
もはや戦闘できないバーンは、長い前髪を立てるのもやめた。そういった外観の変容もある。が、ある意味、超能力者の世界の極みにあったバーンが、まさかこのような処にあるなんて、一般の組織員に、とても思えないのである。
だが、唯一の例外も、此処にはあった。
「やあ、久しぶりだね、バーン君。体調の方はどうだい?」
「ブラド……」
ブラド・キルステン―――かつてのマスター・オブ・グラビディーである。
彼は、前超能力大戦の折、残忍な人格と共に超能力を殆ど喪い、今は、生来の植物好きも相成って、農作業の傍らこの寒冷の地に耐えうる作物の開発も担っていた。
「どうにも、スッキリしないんだ」
正気に戻ったキースは、これ以上ないほどバーンを丁寧に扱った。勿論、必要以上触れて来ない……掌中の玉か、腫れ物か。
だが、何か、全身が重い。超能力に目覚める前の自分の身体は、こんなに重力を感じていただろうか…ちょっとでも無理をしようものなら、すぐに熱を出す。もどかしい。
肩を竦めるバーンに、ブラドは彼の焦りをなんとなく感じながらも、慰めた。
「君は、二年間も昏睡状態だったんだから、仕方ないよ…能力(ちから)も戻らないかい?」
「ああ、相変わらずだ――俺の能力は、キースを止めるだけにあったのかもな」
キースの対のような炎の力、
キースの力に応えて、目覚め。
キースの悲しい野望を止めた今……存在意義を喪う。
それでいいとしながらも、何となく寂しさに似た感情が去就した。
「それはないよ、バーン君」

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