数か月ぶりです。
ようやくミツナル♀クリスマス話後編できました。
…いつの間に、春なのに;;
色々リアルがありすぎて、書かないと死ぬ回遊魚は死にそうでした。
その色々が解消されたわけじゃないけれど、精神衛生上、
オンライン(オフライン活動は経済的に数年自粛)で小説(PCに座れる時間が極端に減ったので)を書き殴りたいと、思います。
サイトもワードプレスで何とか作りたいと思います。
最初のひな形作るのは大変だけど、それさえ終われば何からアクセスしてもいけるようですし。
それでは、ミツにょナルが結ばれる後編、続きからどうぞ!
あらあら、やっぱり。
蛍の光が流れる宝飾店に突然飛び込んできた若い男女の姿に、女性店員はサービスでない笑みを浮かべ、対応した。
「閉店間際にすまない。御剣だが、礼のモノを頼む!」
「はい、かしこまりました」
いかにも澄ましたキャリアといった風情の青年が、昼間の彼女を連れて髪を乱し要望するのに、店員は、不躾に声を上げて笑わないでいるのに少々苦労しながら、ショーケースの裏側から臙脂のビロウドの箱を取り出し、それを顧客に差し出す。
「君は、何もかもがいつかは喪われると言ったな? 有るものはいつか無くなる。それは、確かな真実だ」
それを受け取る男性の指が、僅かに震えているのを見て、店員は、彼が腹を括ったのだと悟り、心の中で頑張って下さいと拳を握った。
「だが、どんなに形は変われども、この人生分ぐらいは乗り越えようと共に約束する事は、できる」
昼間の来店時、『後日君が買う時に知っておけばいい』と称して調べた全ての指のサイズ。
それを元に、彼女が店のアクセサリーの上質さや値段に恐れ慄く合間を突いて選んだそれを。
「法廷では、証拠品だけがモノを言う――残念だったな、弁護人」
「み、御剣…?」
御剣怜侍は、ビロウドの箱ごと、この人生最大の真実を突きつける。
「不明にも、今日、気付いた――君を愛してる――君を妻にしたい――美しい君を私に見せて欲しい――ずっとだ」
ビシリ、と、音を立て凍りつく彼女の周りに、白々しく閉店の音楽が鳴る中で。
龍子の喉から、悲鳴が迸った。
「やめてくれ――!」
よろめき、二、三歩退いた彼女の顔は青白く、可哀想なぐらい震えている。
その姿に、心を痛ませながらも、御剣は、決して真実を追究する手を緩めなかった。
すまない。様々な裏切りや別れに傷ついた君にとっては、自分の申し出は、さぞ痛かろう。
「やめない! 君の返答を聞くまでは!」
この悲しみから解き放つから、もう暫しだけ、我慢をしてくれたまえ……。
ここが勝負どころだ。
御剣は、彼女が退いたよりも大きく力強く、足を踏み出す。
たちまちに崖っぷち。
もう退けないと、龍子は、絶望的な気持ちでかぶりを振った。
「そ…そんな証拠、認められない! ぼくはきみなんて――」
好きじゃない。とも、言わない、いや、言えないうちに、御剣が遂にその距離をゼロにし、片腕で彼女の胴を包み込みつつ、ビロウドの箱をその手に握らせる。
「ならば、棄てたまえ」
「え……?」
吐息すら触れる距離で、御剣は、その涙に満ちた瞳を覗き込みながら、最終弁論を突き付けた!
「私の人生には、君しかいない。これは、私の示せる最後の証拠だ。要らないならば棄てるがいい!」
誰の為でもない、君だけの運命を。
「――さあ、選びたまえ!」
抜き身の刃金のように強い瞳が、ただ純粋な気持ちを示せと、龍子の全てに切りかかる。
「…御剣…ッ…!」
そういえば、
いつもこの男とは、追って追われて、逃げられ逃げてを繰り返していた。
だがもう、追いつめられて。
二人がともに、一歩たりとも退けやしない処まで、来ている。
伸るか反るか、二者一択だ。
「御剣…ッ!!」
しがらみや不運や責任や務めや言い訳よもやまの事など、この刃を鈍らせるだけ。
ただ、この一心を、研ぎ澄ませ、抜き放たなければ――この男の前に二度と立てない!
ピンチな時ほど、ふてぶてしく笑え。
そうして、初めて。
彼女は、自分の為だけに選択する。
「裏切ったら…訴えてやる」
晴れ晴れと涙を零し、手の中のモノも男の心も唇も――全てを受け止めた。
初めて友という立場を超えて唇に触れた瞬間、御剣の内で全てがストンと落ちる。
ああ、これが正しい形なのだ。
これこそが、二人がつきとめた真実。
二人には、最初から、他の答えなどなかったのである。
「ご随意に…君の勝訴は確実だ」
そして、今、顕わし始めた新しい絆を、追い求めようではないか。
はにかむように茶化すように、御剣の人生の共連れが小さな箱を御剣の方に向け開け放って言った。
「じゃあ、その証拠品、受理しちゃおうかな?」
異論はない。
「では、弁護人、成歩堂龍子、検事側からの証拠を受け取ってくれたまえ」
法廷で火花散らしながら突きつけられる、強い指は。
その華奢なリングが入るほど、細かったのだな…。
艶やかな唇に、今一度、誓いの口付けを――――
あ…えらいところに立ち会っちゃった……。
この場の空気になることに努めていた店員が、証人席に立たされた心地で営業スマイルを引き攣らせる。
法の暗黒時代とやらに詳しくない自分にさえ、あまりに名の知れた、伝説の弁護士と若き検事局長。
その一世一代の結審を、目の当たりにしてしまった。
婚約おめでとうございます。と、出来れば、二人を放って置きたい。
芸能リポーターからすれば、涎が出そうな程の目撃譚なのだが、数ヶ月、いや、年間でも一番の上客のプライベートを職業倫理上ベラベラ明かせるわけもなく……。
正直、出歯亀以外の何者でもないこの状況は歓迎しがたい。馬に蹴られてしまえ! って状態だ。
が、他の店員はとっとと支度を済ませ帰ってしまった。責任をもって店じまいをしないといけない。
つまり、大変、いたたまれない。
そんな彼女の切なるものに勘付いたか、二人は突如弾かれたように身を離し、
「あ、あの……スミマセン…でした……ほら、御剣、謝って」
「ム。時間外勤務させてしまい、申し訳なかった」
と、苦しく弁明すると。
「では、成歩堂、家まで送ろう」
「う…うん…! ありがとう…」
慌てて、場を辞そうと帰りの口上を述べたのだったが……。
「「「「異議ありィ!」」」」
ここにきて闖入した異議を呈する集団に、差し戻されてしまう。
「みぬき、オドロキくん、ココネちゃん…」
「牙琉、夕神…君達は――」
眉間のひびを深く、部下の検事達に何か言いかけた御剣の切っ先を折ったのは、心音だった。
「異議あり、異議あり、異議あり――ッ!!」
完全に不意を衝かれた御剣が目を剥いている間に、王泥喜とみぬきが指をビシリと突き付け、追い打ちをかける。
「アンタ! このリア充の日に、お持ち帰りしないなんて…ッ!」
「どれだけ、ネンネなの? 不能なの!?」
最大の衝撃発言に、この法廷は爆発崩壊した。
「ふ、不能……」
御剣は、白目を剥き、青い唇をプルプル震わせ。
「みぬき…ぼく、教育間違えた…?」
龍子は、頭を抱え絶望したところで。
店員は、心の俳句を詠む。
帰りたい、ああ帰りたい、帰りたい……。
とにもかくにも。
いつの間にか、信楽弁護士やサイバンチョまで総出で、
むりやり諸共赤いスポーツカーに詰め込まれて、新婚さながら手を振られて見送られ、二人。
転がり込んだところは、御剣の家の中。
家の扉を閉じる乾いた音がやけに空々しく部屋の中響いて、余韻が過ぎて尚、相手を窺うよう息を潜めた。
室内灯の青白い光が二人を平たに照らし、妙に現実味を削いでいる。
それでも何とかこの場を取り持つ為に、家主は、殊更明るく彼女に言葉をかけた。
「…その、アレだ。こういうのは、やりにくいな……」
あ。と、御剣は、雲のようにふわふわと纏まりのない思考の片隅で、取りようによってはとんでもない失言となる言葉を祓うように、手を左右に振る。
「そのようなアレな意味ではない…断じて…!」
「何だ、違うの?」
それはそれで、失言だったらしい…焦って汗水垂らすのは、目の前の逆転弁護士の専売だったというのに。
御剣は、自分の調子がとてつもなく狂っているのを自覚した。
「それとも、やっぱり、後悔してる?」
皆に焚きつけられちゃったところもあるし、ね……。
耳まで赤くして顔をうつ伏せる龍子の声が、震えている。
今日、一日で、何もかもが変わった。
御剣の友は、美しい女性だった。
私は、彼女の手を取り、一生の伴侶にと願い――叶えられた。
今まで立っていた大地が揺れて、世界がひっくり返った。
「とんでもない!」
例えば、本当は青く美しい星であるこの大地のように。
いつもは近くに在りすぎて、当たり前だったモノの価値も、一度、認識すれば、それなしに朝も昼も夜もないのである……。
真実に辿り着いたのが遅すぎた分、御剣は、もはや、一秒たりとも無駄にする気などなかった。
「今すぐにでも、君を妻にしたいぐらいだ!」
「いいんじゃないかな?」
どうでも…と、いつものセリフを唇だけで言うまでが、限界。
彼女も、今日一日でひっくり返った世界に、戸惑っていたのだから……。
抱きしめあった身体の胸の内に暴れる鼓動は――どちらのものか?
心臓が送りすぎた血液で沸き立ち混乱を極めた脳が、更にどうでもいい事柄を浮かび上がらせ、御剣に言わせる。
「…その、アレだ。これから君が下着を買うのは、王泥喜弁護士のでなく、私だけにしたまえ…」
何を言うのかと、思えば。
やはり多少の惑乱の時を経て理解した龍子は、たまらず吹き出した。
何の話だよ。
やっと見られた自然な笑顔に、ホッとしながらも、御剣は、秀麗な眉目を困ったように歪め、笑う。
「何だか、カッコ悪いな、私は……」
「知ってるよ、そんなの」
今更だ、お互い様だろ。
「そうだな…」
一番カッコ悪いところも、一番辛い時も、お互いだけが知っているのだ。
「じゃあ、ぼくは、きみに下着を買うから、それを脱がせるのは、ぼくだけにしてよ」
「了解した…」
長年の友情を越えた事象に浮かされているのは、龍子も同じ。
寝台に導かれ覆い被さってくる美しい男の前髪が首筋を擽るこの期に及んで、まだ、ふわふわと雲の中にいるようで夢の中にいるよう。
だから、二人で、新たな真実、新たな現実を創り出すのだ―――
12月26日 ??時??分 某所
トノサマンのテーマが、鳴っている。
目を開けるのも面倒がって、適当に布団を叩いていた龍子の手が、ペチン、と、何か人の肌を叩いた。
「あ…あれ……?」
昨日、みぬきと一緒に寝たっけ…?
電話もうるさいし、と、渋々開けた目に入ったのは、愛娘でなく――灰の髪と目の。
「み、みつるぎ……!」
怒濤のように蘇る昨夜の記憶に、ぎゃーー! と、悲鳴を上げ布団を引き寄せる龍子に対し、男は、輝かしい朝日差し込む中、引き締まった筋肉に覆われたローマの青年神のような裸体を悠々と横たえたまま、笑う。
「おはよう。いい加減、電話に出た方が良いのではなかろうか?」
あわあわ泡食って、ベッドサイドテーブルの上で未だにトノサマンを絶叫する電話を自分の胴を越して手に取る龍子のしなやかな裸体に、手を出したい欲望を堪えながら下から見入っていると、
《アンタら! 今何時だと思ってるんですか! 職務怠慢でラブラブギルティーだ!! さっさと出勤してこい!》
天啓の大音声の雷が、二人の甘い朝を無惨に切り裂きいたのだった。
「じゅ、11時…」
「だ……と…?」
どれだけ夜更かしして惰眠を貪ればそうなるのか……。
慌てて、それぞれの場所へと舞い戻るべく、余韻も何もかも蹴り飛ばし、いつものスーツで身を覆い歩き出そうとしたが、今一つ足の運びがぎこちない龍子に、
「どうしたのか?」
と、怪訝そうに声をかける御剣だったが、
「その…きみが……まだ、きみが中にいるみたいで……」
視線を床にそらし太股を擦り合わせ、もじもじと答える彼女に、一息で思考がピンクの靄に包まれるような心地に逆戻り。
「せ、責任は取る……!」
妙に上擦った御剣の、大真面目でかつピントが明後日な誓いの言葉に、逆に龍子は、また盛大に吹きだし、安堵に笑う。
「どのようにして、責任を証明するの?」
今までの友情の上に、愛が積み上げられただけなのだ、と。
昨日までの友人が龍子の両手を取り、これ以上ないほど真剣な眼差しをもって告げた。
「検事側は、証拠として、記名捺印済の婚姻届を用意する――」
「弁護側も、記名捺印の準備を整えます」
ころころと声に出して笑う龍子は、もう悲しそうでも苦しそうでもない。
満たされた愛情を、口付けによって証明する。
ほんの数日の後に、
二人の婚姻の証人の一人が、
二人に愛の終身刑を言い渡し、木槌のかわりに判を押したという。
「新年には、みぬき君と三人で家を探そう」
「わかったよ」
年越しも、どちらかの家で一緒に。
二人か二人の家族たちと、良き年を迎えるのだ。
「愛してる」
「ぼくもだよ」
それぞれのあるべき場所への別れ道。
繋いだ手を一際強く握って、離す。
それが、一生積み重ねてゆく、約束の第一歩だった。
-終わり-
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