見事に体調崩しました。この時分に咳が止まらないとか…大変でした。
前の記事のラストをサラリと追加。
この話に出てくる別のガロの話は、基本的に設定があります。
いつか、ちゃんと作品にしたいですし、誰か言ってくれたら、それを優先的にお話にします。
レディたちのガロ。
「漢字? 『Mayoiga』…か」
カランカラン……金属製のベルが軽く鳴り入った瞬間、軽い眩暈をガロは覚える。
六・七人がけの古めかしい木のカウンターに並ぶサイフォンのガラスのフラスコと真鍮が、大きな窓より入る赤い夕陽を弾く。あとは、四人席が二つぐらいのごくこぢんまりとした珈琲店だ、それはいい。
問題は、その店主と客が残らず皆、青いトサカの頭髪をしていることだ。
目を白黒させて失礼にも指をさすガロに、カウンターの白ブラウスに黒ベストを着て深い青の髪を一部纏め縛っている店主だろう男が、海に沈む瞳孔の赤をゆるりと揺らして笑う。
「いらっしゃい。見ての通り店には今、ガロしか居ねぇから、気楽に過ごせよ」
「き、気楽に……って」
そう言われても、この異常事態で気楽になれよう筈もない。
「遠慮は、いらねぇってことさ!」
戸惑いを禁じ得ないガロに声をかけたのは、やはり、ガロ・ティモスだった。
ただし、その白い立て襟のブラウスにゆるめのブラウンのボトムスの上下に、チュニックタイプのエプロンワンピースを着用している。
「お、おんな……」
「おう!」
目を白黒させて凝視した上に女呼ばわりをするというかなり失礼な言動に、しかし、その辺はやはりガロなのだろう、気を悪くすることもなく日焼けした顔でニッカリ笑い、筋肉のついた腕でコーヒーの入ったマグカップを持ちカツンとテーブルに打ち付けて、此処に座れと指図した。
「ふふ、私は、色んな平行世界のガロを見てきたけれど、男性のガロが圧倒的に多いのだから、多分、基本的に『ガロ』は男性なのでしょうね」
そこで初めて、同じテーブルにいるもう一人の女性のガロの存在に気付く――この、珈琲店の明らかに客層からずれる貴婦人が、あった。
右肩を露出させた長く袖口が広いマーメイドのようなラインの末広がりに黒から青へとグラデーションに彩るドレスに一部金の光を弾く白の羽のショールを羽織った装いに、どこぞの良家に伝わってそうな大ぶりの宝石がついたネックレスにイヤリング。
中でも、指輪と長い髪を結い上げる髪飾りに施された紋章は、どこかで見たような。
「お、おお…平行世界って……あのプロメアとかの世界なのか?」
少しの知っていることと多大な知らないことが織りなす戸惑いは、一層深まってガロの頭に混迷をもたらしていたが、そんなガロを艶やかな女性はひとつも馬鹿にする様子もなく、少し眩しいものを見るように、長い睫を少し伏せ夕方の海の青い瞳を隠す。
「似てるけれど、ちょっと違うわね。隣近所の地球といったところかしら?」
赤く艶やかな唇が、静かに平たに今の状況を言葉にして綴る。そもそも、本来このような艶めかしい女性に真っ先に目が向きそうなものだが、そこは所詮ガロ・ティモス。アイナやレミー等に『鈍すぎる』と言われるが所以だ。
「えれぇ上品な、俺だな……」
俺のくせに。とまではさすがに失礼で言えないが、例えば、もう一人の女性のガロの方が、筋骨も確かで自分に近いような気がする。
だが、貴婦人ガロは、そんな不躾な言葉に、鈴を転がすような笑い声を上げて喜ぶだけ。
豪快に笑いながら、もう一人が訝しむガロへと横から言った。
「ハハハ、彼女は、レディ・プロメポリスなのさ!」
指定された席に腰掛けつつも、ますますもって首をかしげる青年に、わざと遠回しな表現を使い混乱を深めた自由な主婦に、もうっ、と、苦笑いして、レディは間違えようもない事実を告げる。
「私の世界のプロメポリスの今の司政官は、私なの」
-続く-
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