※小ネタ。君は誰?
自惚れではなく、教師は俺の天職だと思う。
というのも、こと子どもに関して、俺の見解が大きく外れる事は殆ど無いのだ。
先生って魔法使いみたい、なんでも分かるのね…なんて言った可愛い生徒もいたし、お前は子どもが絡むと上忍並みだよな、他は平凡だけど…なんて言った可愛くない同僚もいた。
けれど最近、一人だけ、正体がよく分からない子どもが居る。
それは、ある日の事。
俺の姿を見るやいなや、全力で駆け寄り全力で抱き付いてくる金髪の少年を、いつもの様に受け止めて。
ふいに感じた違和感に首を傾げた。
「イルカせんせー!ラーメン食いに行こうってばよ!」
「…ナルト?」
「ん?」
しがみついたまま此方を見上げた、その青い瞳を見て、確信を抱く。
これは、ナルトじゃない。
全力で抱き付いた様に見せて、その手は触れる直前で僅かな躊躇をみせた。
何でもないように見せて、その瞳は奥底で僅かな怯えをみせた。
ひとまず俺は全てに気付かないフリをして、彼―彼女かもしれないが、便宜上彼と呼ぶことにする―をナルトとして扱う事にした。
彼は何度も、ナルトとして俺の前にやってきた。
俺を見るなり、とても嬉しそうに笑いながら。
僅かな躊躇と怯えを忍ばせて、俺にしがみついてきた。
抱き締めて、頭を撫でてやる。
「よく来たな、ナルト」
そう言うと、彼はいつも少しだけ、ほんとうに少しだけ寂しさを滲ませた。
俺の服を握った指先に、少し力がこもる。
会う度に繰り返されるそれらの反応に、俺は何だか妙な罪悪感を覚えた。
「…あのさ。俺、「お前」に会いたいよ」
思わず洩らした俺の言葉に、彼ははっきりと動揺を示した。
ゆっくりと此方を見上げる青い瞳が頼り無げに揺れる。
「お前がどんな奴で、どんな姿でも同じようにしてやるからさ。今度は、変化せずに来いよ」
もう一度頭を撫でてやったら、彼はばつが悪そうに俯いて身体を離した。
「…ごめんなさい」
ぽつりと小さな声が響いたかと思えば、その姿が瞬く間に消えてしまった。
彼は、多分賢い子だ。
俺が気付いていたのも、薄々分かっていたのだろう。
…もう、来てはくれないのだろうか。
それを残念に思っている自分に気付いて、苦笑混じりに鼻の頭をかいた。
それから、しばらく経ったある日の事。
「イルカ先生」
仕事が終わり、帰宅途中で知り合いに呼び止められた。
「カカシ先生。お疲れさまです」
それはナルトやサスケ、サクラの担当上忍師だった。
子ども達の様子を聞いたり、報告書を何度か受け取った事があるだけの関係だけど、瞳を細めて笑う顔は誠実そうで、信頼できる人だと思う。
「任務の帰りですか?」
「ええ、まぁ」
此方を呼び止めた割にはそれきり黙ってしまった上忍は、俺の姿を(目の前にいるというのに)盗み見るようにちらちらと見た。
「…何か?」
そう促すと、彼は一瞬傷ついたように顔を歪めてから、おずおずと両手を広げた。
「…イルカ先生に」
「はい」
「ぎゅって、してほしくて」
ぽつりと呟かれた言葉に、一瞬ぽかんとしてしまう。
「…はい?」
「「俺」に、会いたいって言ってくれたから」
その台詞に、漸く「彼」の正体を理解した。
「じゃあ、あなたが?」
「…嘘ついて、ごめんなさい」
ひとつだけ見えた青い瞳は、頼り無げに揺れて。
それを見ていたら、何だか目の前の人物が急に可愛く見えた。
今は、上忍だとか大人だとかの垣根は必要ないだろう。
俺の見解は、今度も多分間違ってない。
「そうか。よく来たな」
だから俺は、満面の笑みを浮かべて、彼を抱き締める為の両腕を延ばす事にした。