ワシントンに住んでた頃の話。冬になると朝8時頃にようやく陽が昇ってくる。まだ夜の冷たさを残した空気を呼吸し、たまに雲の切れ間から輝きが差し水彩画のように淡い空を眺め、カスケード山脈を背中に一人、針葉樹に挟まれた小道を通って登校していた。

そんなに良い暮らしではなかったよ。食糧調達に時間も手間もかかったし、周囲の人間関係は泥沼くさいものばかりで関わりをほとんど絶っていたし、意味わからないことが何度も起こる。油断できない生活だった。

それでも勉強は楽しいから、アメリカのそんな環境にでも居続けられた。日本人は日本に生まれたというだけで世界的に見たら高水準の生活がほぼ全ての国民は保証される、とんでもなく素晴らしい国なんだよ。色んな国の人から憧れられ、羨ましがられている。

海外へ行って帰って来たときに、日本の良さも悪さもこれでもかってくらいに身に染み入ってくるあの感覚は忘れられない。